第13話 最年少の師と究極の美

 アテリオスはサーリャの本質を見誤っていたのではと疑惑を深めていた。


「なんじゃ? 先程から気が乱れておるな。さてはお主………」


 アテリオスは背後からの声に冷や汗を流した。


「もしかして、我を………『疑っておるのか』?」


 アテリオスは命が握られているような錯覚を感じ、息が詰まった。


 そして、振り向くことができなかった。


(こ、殺される………!!?)


 恐怖の余り、目を閉じてしまった。


―――トンッ。


 目を開くと隣に干し肉が置かれていた。


「ちゃんと貴様の分も取ってあるわ!! 全く、我を疑うとは、どうかしとるのではないか? 何なら、毒味もしてやろう。どれでも好きなのを我に食わせよ。」


 アテリオスはすべての干し肉をサーリャに食わせた。


「こ、これで満足か!!?」


 どうやら、毒はなかった。


 すべて無害であった。


「食料は自分で調達する。」


 この日のアテリオスはヘビを食べることにした。


 アテリオスはサーリャへの疑惑を持ったまま隙を見せなかった。


 過酷な環境で生き抜いてきたアテリオスにとって、寝るのも命がけだった。


 それを何十年と続けてきたわけだ。


 寿命は縮むだろうが、そこらの猿よりもこの環境に適している。


 サーリャは笑って様子を伺っている。


 そして、こんな事を言うのだ。


「我がそんなに信用できないか? なんなら、口移しで食べさせてやろうか?」


 サーリャが干し肉を加えて噛み千切る。


「いや、いい………」


 アテリオスは確信した。


(こいつはサーリャではない!!)


 サーリャ?が尋ねる。


「そういえば、お主の師匠の名を聞いてなかったな。その師匠の名は『アルレイン・デューオ』であろう?」


 アテリオスは距離を取って身構える。


「ま、まさか、貴様が!!!?」


 そう、アテリオスの師匠は殺されていた。


 誰よりも優れ、誰よりも優しく、良き師であったが、一人の天才が生まれ、その狂った天才が師匠を殺すことに美学を感じた。


 狂った美学を求め、禁断の果実を口にしてしまった。


「最初は私も悲しんださ。でもね。師匠を殺した時、こう思ったんだよ。俺は師匠よりも強いってね!!! でも、世間は認めてくれないんだ。だって、師匠が偉大すぎて俺に負けるはずがないってね。だから、師匠の最高傑作であるあんたを殺して、本当に優れているのは誰か、世の中に知らしめたいんだよ!!」


 狂っている。


 そんなことをしても師匠を超えられるものではない。


「師匠はまだ俺よりも幼かった。そして、師匠は俺よりも強かった。だが、俺は師匠を殺したりはしなかった。」


 そう、師匠はアテリオスに最終試験を言い渡した。


 『この私を殺してみせよ』と、アテリオスは師匠を殺そうとしたが、寸前のところで思いとどまった。


「………私は弟子失格です。ここを去ります。」


 そう言うと師匠は『合格だ』と告げるのである。


「口先だけで生きているゴミ共は多い、師匠は体を張った。その意味を良く考えて生きていくと良い。」


 そう、世の中には口先だけで生きているゴミ、猿が勝手に作った法、様々な阿呆のルールが存在する。


「なるほど、しかし、狂った弟子が跋扈した時のことを考えてのことでしたか………果たして、俺で止められるか………師匠よ。あの『奥義』を使えというのでしょうか………」


 アテリオスは師匠を殺せなかったその理由、それは、無能ではなかったということ、無能は己を優秀だと思うクズだ。


 自身と他者、各々を正しく評価する。


 そんな能力をアテリオスは持っていた。


「喰らえ!! ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯!!」


 アテリオスの奥義が相手の顔面を捉えた。


 サーリャ?の化けの皮が剥がれ落ちる。


「懐かしいな。その技!!」


 そう、師匠もその奥義をすでに使っていた。


 彼は狂人であり、天才でもあった。


 そして、彼の芸術は何よりも優れており、彼もまた有能であった。


「あ、あぁ、お前はサーリャよりも強く、師匠よりも強い気がしていた。」


 アテリオスが本気になる。


 しかし、自信はない。


 冷や汗も流れ落ちる。


「ぐ、ぐぐ………」


 アテリオスが何かを感じて唸り始める。


 圧倒的プレッシャー、違う。


 痛烈な痛み、そう、身が引き裂かれていた。


「ぐわあああああああ!!!?」


 あのアテリオスが手も足も出ない。


 それどころか、アテリオスよりも強い師匠ですら敵わなかった。


「なぜだ………なぜ、殺した………」


 狂った芸術家は言う。


「強いから………いや、俺が強すぎるからか………」


 強さというものは何よりも優れている。


 違う。


 この男の強さは力ではない。


 芸術性にある。


 筆を取れば文、絵、数学、未来まで予言を書き記す。


 剣を取れば技、演舞、芸術が、彼は何をしても世界を変えてしまった。


 師匠は彼を3日で卒業させるが、3日して理解したのだ。


 この者は何をしても天才だと、そして、師匠は体を張って彼へ『挑戦』したのである。


 師匠にとっては、厳しい戦いだった。


 しかし、彼からすれば退屈な勝負、師匠の信者は余りにも多く、観衆が歪んだ声援を送るために、師匠は遊び殺された。


「な、なにを喰らったんだ………俺は………」


 膝を着くアテリオス、生かされたのだろう。


 一体なぜ、生かされたのか、そう、彼の視線の先には、究極の美が見えていた。


 そう、その瞳の先に居たのは、本物のサーリャであった。


「見つけた!! 彼女の勇気、強さ、可憐さ、どれをとっても最高の作品!! あれを僕の手で仕上げるんだ!!」


 アテリオスはサーリャの身に危機が迫っていることを伝えようとしたが、声が出なかった。


「僕の究極のメイクで君に成り代わろうかな? それとも、アドラスになろうか? 君は目撃者だ。僕が最高で優秀であることをこの世に知らしめる。そのために生きててもらわないとね。」


 アテリオスはそのまま気絶してしまう。


 サーリャがこの街に訪れたのは、自分と同じ姿をした女性を追ってきたためである。


 なぜ、そんな異変に気がついたかと言うと、初めて来た街なのに、久しぶりと言わんばかりの挨拶が返ってくるからだ。


「なんでであろうか、とても嫌な予感がする。」


 すると、背後から声が掛かる。


「なるほどなるほど………」


 その声が余りにも自分にそっくりなために、距離を取って振り返る。


「なッ!!!?」


 誰でも驚いて当たり前だろう。


 そこには瓜二つの自分自身がいた。


「なんじゃ? 我がそんなに珍しいか?」


 サーリャ?の言葉にサーリャが尋ねる。


「つかぬことを聞くが、お主の名はなんという?」


 返答はこうである。


「我こそはサーリャだ。お主こそ、何者じゃ!!? わっはっはっはっは!!」


 発狂してサーリャ?がどこかへと走り去っていく。


「ま、またぬか!!?」


 サーリャがサーリャ?を追いかければ、そこは、白い空間であった。


「こ、ここは一体!!?」


 サーリャ?がサーリャに剣を一本投げ渡す。


 それを受け取れば正々堂々と勝負がしたいのだと理解する。


「サーリャ、サーリャサーリャサーリャ!!! 貴女はとても美しいぞ!! 最高の作品をここに誕生させよう!!」


 そう言ってサーリャ?は切りかかってくる。


「は、速い!!?」


 なんとか避けて切り返す。


「すごい、すごいすごいすごい!! サーリャ、君は最高の作品になるよ!!!」


 サーリャ?の猛攻はこんなものではない。


 切り傷を一つ受けると、それに歓喜し、続いて一方的にサーリャを切り刻んでくる。


「う、うッ………うああッ!!?」


 なんとか応戦するも実力差は明白、サーリャよりもアテリオスの方が一段階強いとするなら、そのアテリオスをサーリャ?は二段階、三段階と上回る。


 しかし、サーリャ?は命を狙ってなどいない。


「喰らってくれる!! サーリャ!!!」


 サーリャはサーリャ?の芸術的な突き?に見入ってしまった。


 その突きは波動となって体を通り抜けると、




「がはッ………!!?」


 サーリャの


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