第2話 1000年を生きる狂戦士とサーリャの見識

「さて、今日はどんな悪人に巡り会えるのやら………血が滾るのぉ~!!」


 サーリャは鈍器であるアックスを肩に掛けて、次の街の前に陣取った。


「サーリャ姫、またそのような蛮行を続けるのでしょうか?」


 サーリャの世話係をしているアドラスがため息混じりに言う。


「今、なんと申した?」


 アドラスの言葉にサーリャが怪訝そうな顔をする。


「し、失敬、サーリャ姫、ここは一つ、このアドラスが偵察してきます。しばし、お時間を………!!」


 それを聞いたサーリャは満面の笑みで相槌を打ちながら承諾する。


「うむ、それでよいのだ!!」


 アドラスは基本、力比べが大好きだが、姫の我が儘により、偵察や密偵をさせられている。


 しかし、アドラスは姫のことが憎めず、こういう人生も悪くないと感じ始めていた。


「全く、力しかなかった俺が姫に出会ってから言葉遣いも覚えさせられてしまった。密偵なんて性に合わないのに、こんな仕事もこなせるようになるとは………」


 アドラスが街を偵察すると、どこの街にも悪人はゴロゴロいる。


 それらをすべて適度に調べ上げると姫の元へと戻っていく。


 しかし、姫はそこに居なかった。


「姫様!!? 何処(いずこ)へ!!?」


 アドラスは姫の残しておいてくれた肉を食べると即座に姫の捜索に向かう。


「フン、馬鹿者め………密偵の癖に我につけられてることもわからんとは、愚か者だな。あんなヤツは放置して我一人ですべて解決してやろうぞ。」


 サーリャは酒場で大暴れしていた。


「だ、誰か!!? この女をなんとかしてくれ!!?」


 店主はサーリャの蛮行にすっかり臆していた。


 サーリャは片足に首を置き、店主に問い質す。


「どうでも良いが、この街で一番強い奴は誰じゃ?」


 店主は命乞いをしながら答える。


「こ、この街で一番強いのはガモンという千年を生きた狂戦士、そいつが一番強い!! 頼む、だから、命だけは助けてくれ!!」


 サーリャは皿に置かれた肉を一つ取って咀嚼する。


「ほぉ、なかなか腕が立つな~、貴様のような男が酒場などでクズに料理を振る舞うとは、その腕を弱者のために使えんのか?」


 サーリャは酒場の店主が作った料理を食べて疑問に思う。


「い、いえいえ、私のような無能の料理人にはこれが精一杯です!!」


 サーリャは笑っていう。


「はっはっは、我のアドラスとか言う未熟者よりも口が上手いな!! この国の『悪政』をすべて申せ!!」


 酒場の店主はサーリャの蛮行に恐れ慄いていたが、サーリャの見識に驚いた。


 しかし、酒場の店主は理解が追いついていない。


 サーリャはそれも見透かすようにして尋問を続ける。


「公安もこの騒ぎが起きて駆けつけるどころか、誰も来ぬ。治安も街を一通り見たが、よろしくない。おまけに、民からは怨嗟の声も聞こえた。申さぬのならお主も共犯者ということで良いのかな?」


 酒場の店主は『何か』に怯え始めた。


 怯え方が変わったことにサーリャも気が付く、サーリャはこれ以上の情報は得られないと判断して、店主の料理をもう一つ頂いた。


「お、この料理はモッツァ・レラか、うんうん、このスライスされたチーズとトマト、料理とは組み合わせではなく刀工技術も必要、チーズとトマトの厚みを統一し、ベーコンやガーリックのトッピングが野菜嫌いの人間でも思わず口にしてしまう見栄え!! 最高じゃ!! その腕を正しきことに使わせる。そのために我は生まれてきた。お主は最高の料理人になれるぞ!!」


 そう言って、サーリャはならず者から財布をすべて奪い取り、お代だけを支払った。


「はっはっは、今日も大漁大漁、さて、次の手に移るとするか………アドラス!!」


 サーリャがアドラスの名を呼ぶとアドラスは応答する。


「はッ!! こちらに………」


 サーリャは振り返らずにアドラスに命じた。


「ふふ、既に用意はできておるな?」


 アドラスはまた姫に学ばされてしまったと溜め息を付いて言う。


「姫には参りました。既に手はずは整っております。」


 それを聞いたサーリャは満面の笑みでアドラスに許しを与える。


「うむッ!! これからも励むが良い!!」


 街が朝日を迎えると街の長であるアベとガモンが現れた。


 アベは皆の前で教示を述べ始める。


「皆のものよ。苦しいときだが、税金を挙げる。これは神のお告げだ。神は我々を見捨てたりはしない。神を信じて税を納めよ。」


 この言葉に、民は怨嗟の声を挙げる。


「アベよ!! もう我らには金がありません!! どうか、お許しを!!」


 アベは合図を送るとガモンが怒号を挙げる。


「黙れ!! 無能なお前らのせいでアベが苦しんでいるのだぞ!! 税も払えないお前らなど、生きてるだけで足手まといなんだよ!! 逆らうやつは殺す!! そこのお前がずっと税金を支払ってないな!! 今日がお前の命日だ!!」


 ガモンが若い女子供を引っ捕らえると処刑を始めようとする。


 しかし、アベはこう言うのである。


「ガモンよ。しばし待て、そのような若い娘を処刑しては勿体ないではないか………」


 その言葉に若い女子供らは恐怖した。


 それを聞いてガモンは醜態を晒しながら笑みを浮かべた。


「アベは本当に優しいな~~~。それでは、命だけは助けてやりましょうかね。」


 アベが好みの女を手を掛けようとした時、空から金が降ってきた。


 アベやガモンは何が起こったかわからなかった。


「な、なんだこれは!!? か、金なのか!!?」


 アベが女から手を離すと金を拾い始める。


「こ、この紙幣は我が国のもの!! い、一体誰がこんなことを!!?」


 街中が大騒ぎする中で一人の少女が答える。


「その金は我が振り撒いた。我が民に与えて居るのだ!! 我の金に触れるでない!!」


 アベが声のする方向を向けば、そこにはサーリャが居た。


「き、きさまは一体!!?」


 アベが正体を問えばサーリャが答える。


「我こそがこの街の長であるサーリャ姫じゃ!! 真の長である我が命ずる。この国の税金を10年間は受け取らぬものとする!! そして、アベは税金に頼らず、働くことを命じる!! おっと、賄賂に属されたゴミクズ人間にこう言ってもだめか、うむ、言い方を変えるぞ。貴様に野良仕事を強制する!! 永遠にな!!」


 アベはそれを聞いて爆笑した。


「このアベが金食い虫のクズだと!!? 笑わせるな!!」


 それを聞いたサーリャは少し驚いて言う。


「そんなことは一言も言っとらんが、お主はまさにそれじゃな。まずは、女に手が出せぬよう腕を切ってやろう。ガモンよ。このサーリャがこの金をすべてお主にくれてやるぞ!! なんなら、アベを殺したら………アベの財宝もくれてやるぞ。」


 それを聞いたガモンは動きが止まった。


 アベも驚いてガモンに言う。


「黙れ黙れ!! ガモンよ!! あの女を殺せ!! そうすれば今年の税金はすべてお前にやろう!!」


 ガモンは悩んでいた。


 その隙をアドラスは逃さなかった。


 肉を切り裂く音が響く、利き腕が舞い上がる中で、アベの絶叫が響き渡る。


「ぐぎゃ~~~!!!」


 ガモンはアベの醜態が癇に障り、アベに止めを刺した。


「ガ、ガモン………貴様、裏切ったな!!?」


 アベが斬殺されるとサーリャはガモンの背中をアックスで叩き切った。


「ガッ!!? な、なにを………!!?」


 ガモンがアックスを構え直すサーリャを見て戸惑っている。


「なぁに、貴様を生かしておけば、人質に取られた若い女子供の貞操が危うい。悪人に情けはかけん。とっとと死ね!!」


 そう言って、サーリャはアックスを振り下ろして、ガモンの首を切り落とした。


 アベはガモンの死を見て断末魔を挙げる。


「ガモンざまぁあああああ!!!」


 なんとも醜い奴らだと思ったが、次の瞬間、民たちは喝采を挙げる。


 サーリャ姫はアックスを天に掲げて宣言した。


「この街に神のご加護を!!!」


 民たちはサーリャに感謝を述べる。


「サーリャ様万歳!!」


 そんな時だった。


 醜い叫びが響き渡る。


「黙れ~~~~!!!!」


 それはガモンの生首からだった。


「このクソアマ………貴様だけはぶっ殺してやる………!!」


 ガモンは己の生首を拾い上げて、己の首に乗せると綺麗にくっついてしまった。


 1000年生きた化け物はどうやら不死身のようである。


「くッ、化け物め!!」


 アドラスが警戒する中でサーリャは優雅に口笛を吹いて言う。


「ひゅ~~~、我が1000年も生きていたら王になっていただろうな………どれ、貴様に教養をつけてやろう。代金はいらんぞ。なぜなら、貴様は今日が命日じゃからな!!」


 それを聞いたガモンが拳を振り下ろして怒号を挙げる。


「黙れ~~~!!!」


 サーリャはアックスを持っているのに軽々と回避する。


 しかし、ガモンは不死身の男、ガモンが言う。


「貴様らに勝ち目はねえぞ!!!」


 ガモンは棍棒を手に取り、サーリャたちに襲いかかる。


 流石のサーリャの少し困った様子を見せていた。


「うむ、困ったぞ。此奴とは永遠に戦えるというのは、神から我への贈り物に違いない!!」


 どうやら、サーリャは神からの進物に戸惑っている様子、正義を名乗り、神からの使者を豪語する。


 果たして、サーリャは暴れたいだけなのか、弱者を救いたいのか、それとも、もっと他の何かを見据えているのか、それを知るのはまだまだ先のようだ。

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