第5話 ドーピング戦士
世の中には、医者の姿をした詐欺師もいる。
そのヤブ医者共を誅殺すると強く決心したサーリャであったが、ラフィーリの魔術により、操られてしまった。
ヤブ医者を誅殺しなければ、民は永遠に財政難を強いられるだろう。
「サーリャ、なんて美しくて気高いの………ようやく、ようやく私のものになってくれるのね!!」
ラフィーリはサーリャに飛びつこうとした。
すると、『すぱん!』と肉が裂けた。
「いやぁ~~~~!! ゆ、指が、私の手が!!?」
ラフィーリに操られていたサーリャ一同こと、賊や旅人も正気を取り戻した。
「おお? お、お主は一体!!?」
サーリャは正気を取り戻せば、突如、現れたラフィーリに戸惑う。
これに続き、アドラスも驚いて言う。
「こ、この者は、以前、サーリャ姫ですら気づかれることなく背後に忍び寄ってきた女、なぜ、ここに!!?」
サーリャは天に従い旅に出ていた。
ラフィーリはサーリャに勝つことはできるが、運で負けていた。
サーリャの向かう方向は天が決めたもの、陰陽八卦、吉と出た方角にしか進まない。
アドラスやらに取っては吉ではないかも知れないが、サーリャは天のご加護によって守られている。
「よくわからぬが、我の背後をまた取っておきながら、我の術中にはまるか、学ばぬ奴め………」
サーリャはそう言って周囲に仕掛けていたワイヤーを回収した。
動けば体が切れる術の仕掛けは鋭利なワイヤーが正体である。
「とりあえず、我らは先を急ごう。ラフィーリとやらはそこの旅人にでも治療をしてもらうのだな!!」
サーリャがアドラスと共に先を急ぐとラフィーリは叫んだ。
「さ、サーリャ様!! 私を置いて行かないでください!!」
ラフィーリが引き止めるとサーリャとアドラスが戻ってきた。
「さ、サーリャ様!!?」
ラフィーリは感激するもサーリャは賊から服を奪い取った。
「きゃ~~~!! 私のサーリャ様がご乱心に!!?」
サーリャは賊から暗殺着を奪い取るとアドラスに着せた。
「よし、いくぞ!!」
サーリャがラフィーリを無視してアドラスに言う。
「了解です!!」
サーリャにとってアドラスはどうでもいい存在、しかし、アドラスが男でサーリャのパートナーをやってるように見えるためか、ラフィーリは嫉妬に燃え始める。
「あのクソアドラス!! 絶対ぶっ殺してやるわ!!」
ラフィーリは異常な魔力を放ち始める。
サーリャはアドラスに笑っていう。
「はっはっは、お主も罪な男であるな!!」
アドラスはどう考えてもラフィーリとサーリャがおかしいと思い呟く。
「その言葉、姫にお返ししたい………」
サーリャとアドラスは賊から聞いたアジトに向かった。
「合言葉は?」
アドラスはサーリャを置いて一人でアジトに潜り込んでいた。
「闇金最高」
アドラスが合言葉を答えると賊はアドラスを通した。
アドラスは任務失敗の報告をすると、異常な魔力を持った女が現れたことを報告する。
「気を付けた方がいい、異常な魔力を持った女が一人いた。正直、逃げるか暗殺しかないだろう。」
アドラスが報告をするとヤブ医者たちは笑っていた。
「安心しろ、我らにはドーピング戦士がいる。」
ヤブ医者たちがドーピング戦士をアドラスに見せつけると、その異常な肉体に驚いた。
「す、すごい………」
思わず、アドラスはドーピング戦士を見て圧巻してしまった。
ヤブ医者はドーピング戦士に命令した。
「不始末を行ったそいつを殺せ!!」
アドラスは急な不意打ちに驚いた。
「うッ!!?」
あの屈強なアドラスがワンパンチで倒れてしまった。
アドラスはパワーファイター、そのアドラスが一発でこのザマである。
「よし、ドーピング戦士よ。そのラフィーリとか言うやつもぶっ殺してしまえ!!」
ドーピングとは、人体に驚異的な力を与える。
それは、我々が想像するよりも効力が高く、口に含まなくても匂いを嗅いだだけで、相手のパンチが止まって見えるほどの効力を与えてくれる。
それ程の効力をこの戦士は服用している。
ドーピング戦士が消えてからサーリャが姿を表した。
「なるほど、薬物を使うヤブ医者を相手にアドラスは油断したか、因みに、ドーピング戦士は今頃細切れじゃな………」
サーリャは出入り口に鋭利なワイヤーを仕掛けておいた。
従って、ドーピング戦士は今頃ワイヤーの餌食になっているはずだろう。
「さて、暗殺の時間じゃな。」
サーリャは声も挙げさせないようクロロホルムでヤブ医者たちを気絶させていった。
クロロホルムで気絶したヤブ医者たちは安らかには眠れない。
絶句のような表情を露呈したまま倒れている。
サーリャはアドラスを抱き起こした。
「アドラス、大丈夫か? お陰で盗聴はできたぞ。」
その時、出入り口の方から豪快な音が轟いた。
「な、なんじゃ!!?」
サーリャは何事かと思って出入り口を目指した。
「な、なんということじゃ!!?」
出入り口に仕掛けられていたワイヤーはドーピング戦士の肉体を引き裂けなかった。
それを物語っている。
「馬鹿な!!? このワイヤーはステンレス、ステンレスが人間の肉体に負けるじゃと!!?」
しかも、鋭利に研がれている。
力を加えれば硬度がステンレスを遥かに超えなければならない。
詰まり、ドーピング戦士は『鋼鉄の戦士』ということになる。
「これは、なにか知恵がなければ敵わないじゃろうな………」
サーリャはアドラスの元へと戻っていく。
その頃、ラフィーリは治療を受けていた。
「なんとか縫合しました。とにかく、しばらくは安静にしてください。」
ラフィーリは旅人に少しだけ心を開いた。
「ありがとう………」
それと同時にドーピング戦士が現れる。
「ラフィーリと旅の女、殺す!!」
ドーピング戦士を見た賊は驚いて言う。
「こ、こいつは噂のドーピング戦士!! 悪人どもめ!! 他人に不制覇するなとほざきながらも自分はこんな倫理に反したことをしてやがったのか!! てことは、サーリャさんらは殺されたのか!!?」
それを聞いたラフィーリはドーピング戦士を操ろうとした。
しかし、ドーピング戦士は効かなかった。
人間の欲望なども薬によって抑えることができる。
ラフィーリの操る魔術は魅力でのもの、ドーピング戦士は己の性別も忘れてしまっていた。
「嘘でしょ!!? 私の魅了が効いてない!!?」
そんなラフィーリにドーピング戦士が容赦なく飛びかかる。
「死ね!!」
ラフィーリは咄嗟に防御壁を魔力で展開、しかし、ガードの上から右スマッシュ、ラフィーリの防御壁はダメージを吸収できずに吹っ飛ばされてしまう。
「ゴホッ!!?」
ラフィーリは気がつけば血を口から吐いていた。
「旅の女、殺す………殺す、殺す、殺す!!!」
旅の女は怖気づいてしまい足が動かなかった。
『バリーン!!』と音がしたと思えば、ラフィーリの魔力による鋼鉄のハンマーでドーピング戦士の後頭部を叩いたが、まさかのハンマーがぐにゃりと曲がっていた。
「ば、化け物だわ………これならどう!!」
ラフィーリは天から雷撃を呼び寄せるとドーピング戦士に直撃させた。
しかし、ドーピング戦士の体は絶縁体となっており、雷も弾いてしまった。
「俺、最強………お前ら、貧弱………」
ラフィーリは魔力に関してだけなら誰よりも上だと思いこんでいた。
そう、ラフィーリこそ、虐待に遭っていた女の子の魂が転生した転生者である。
ラフィーリは死の直前に強く願った。
誰にも逆らえない圧倒的な力と私を救ってくれた『あの人との出会いを』それを強く望んだ。
その、『あの人』の生まれ変わりこそ、『サーリャ』である。
ラフィーリとサーリャが出会うのは運命であった。
不運にもサーリャは女として生まれ変わってしまった。
結婚はできなかったが、サーリャに出会えたことでラフィーリは幸せであった。
「ふん、私は天才なのよ。『クズ』が『薬物』でイキってんじゃね~よ!!!」
その言葉に、ドーピング戦士の勘に触ってしまう。
「『薬物』でイキってるだけの『クズ』野郎だと………!!?」
ドーピング戦士がラフィーリに注目すれば、ラフィーリは治療してくれた恩を返すようにして、女旅人に逃げるよう相槌をする。
女が逃げ出すのを確認すれば、ラフィーリが構える。
「あんたみたいなザコにこの一発が見切れるかしら!!」
ラフィーリは死ぬ気だった。
核融合を引き起こせば、核爆発を起こそうとする。
そのぶっ飛んだ行動にドーピング戦士も焦った様子、核が爆発する前に、両手で『パン』と叩いてそれを阻止した。
「う、嘘でしょ!!?」
ラフィーリは急いで防御壁を展開、再び吹っ飛ばされてしまえば、今度は死んだか気絶したか、ぐったりとしてしまった。
「最後くらい、サーリャにちゃんと会いたかったな………」
ドーピング戦士がトドメを刺そうとした時、サーリャとアドラスが現れた。
「そこまでじゃ、『ドーピング』しなければ『女』にも『勝てない』『クズ野郎』………」
その言葉に、ドーピング戦士がラフィーリを踏みつけようとする足が止まる。
続いて、アドラスが挑発する。
「さっきは良くも不意打ちしてくれたな………てめぇには『地獄』を見せてやるよ………」
ドーピング戦士は驚いた。
アドラスが再起不能ではなく、激怒して立ち向かってくることに、サーリャはアドラスが役目を果たしきれるのか、不安に思っている。
果たして、魔力すら跳ね返すドーピング戦士を倒す手段などあるのだろうか………
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