第6話 獄炎、剛雷、龍人アドラスとサーリャの懸念

 サーリャは感情的になっているアドラスに対して冷静であった。


「うおおぉぉおおぉ!!!」


 勝敗は即座に決まるだろう。


 アドラスの体が変異していく。


 まるで半身が龍のようだ。


「貴様のようなゲスなやつに、龍人(ドラゴニュート)の姿を表すことになるとわな!!」


 アドラスがドーピング戦士に強襲する。


 凄まじいパワーにドーピング戦士も驚いた様子だ。


 態勢が崩れたドーピング戦士を龍人アドラスが踏みつける。


 両手を構えれば高密度の生命エネルギーが集約する。


「破龍掌雷炎………」


 ドーピング戦士はアドラスの足で押さえつけられており、無防備を晒している。


 避けることはできない。


「………粒子砲!!」


 サーリャは身構える。


 その巨大なエネルギー波がドーピング戦士の背中に突き刺さった。


「ぐぅおぉぉお!!!?」


 周囲一端が大爆発に巻き込まれる。


 サーリャは皆を担いで避難させた。


 アドラスは天空へと飛び、ドーピング戦士を見下ろしている。


「フン、くたばったか………」


 アドラスは勝利を疑わなかった。


 しかし、サーリャは警告した。


「馬鹿者!!? あの程度で死ぬようなやつではないわ!!」


 サーリャの言葉にアドラスはドーピング戦士の様子を覗き込む。


 すると、まるで何事もなかったかのようにして、ドーピング戦士は立ち上がった。


 ドーピング戦士は笑っていう。


「当たり前だ。俺があの程度でくたばると思っているのか?」


 サーリャは見抜いていた。


 それをアドラスに伝えるなら、今しかない。


「あのドーピング戦士はラフィーリの『核融合』すら止めたのだぞ!!」


 その言葉にアドラスの体は雷のような衝撃を受けた気分になる。


「どうやら、そっちのお姫様の方が理解力に優れているようだな。」


 ドーピング戦士は空が飛べないためにサーリャたちを狙った。


「まずは貴様らからだ!!」


 ドーピング戦士が歩み寄ればアドラスが前を阻む。


 ドーピング戦士は笑っていう。


「なんだ? 俺とまだやるつもりか?」


 アドラスが構えるとサーリャが助言した。


「ドーピングした選手は筋力だけ強化している場合が多い、持久戦で戦うぞ!!」


 サーリャはタオルを2つ手に取り構える。


「行くぞ!!」


 持久戦と言いつつも先手を取ったのはサーリャであった。


 サーリャは自信がなかった。


 ドーピング戦士の速さを目で追う自信がなかった。


 ドーピングはパンチも止まって見えているはず、サーリャはタオルで視界を奪い、アドラスが全力で打ち込む。


「ずりゃああ!!!」


 アドラスの全力がドーピング戦士のボディに入る。


 アドラスはとにかくレバーを叩いた。


「効かんな。ふん!!」


 龍人化したアドラスが殴り飛ばされてしまう。


「ぐぅ………く、くくッ………!!? お、思ったほど痛くない………ぜ!!」


 先程までは一撃で気絶してしまったが、今度は龍人となり、耐久力を挙げた。


 違う。


 ドーピング戦士が打ち込む時に、サーリャが膝裏の関節を踏みつけた。


 そのままサーリャはドーピング戦士の首に手を置いて、相手の力を利用し、全力で打ち込む。


「腰喉殺(ようこうさつ)!!」


 ドーピング戦士の崩れる体を全力で押した。


 しかし、喉と腰を潰すつもりで押したが、その強靭な肉体はサーリャの力ではびくともしなかった。


「ふふ、この俺が動けないとは、凄まじい技量だな。だが、それだけだ!!」


 ドーピング戦士がサーリャを振り払おうとする。


 腕だけの動きではあるが、サーリャは攻撃が見えていない。


 深追いせず、即座に下がったためにたまたま避けることができた。


 アドラスが力で敵わないと分かればドーピング戦士の足を捕まえる。


「うおぉぉおぉおおお!!」


 ドーピング戦士をなんとか放り投げてサーリャに忠告する。


「姫君、ここは我にお任せください!!」


 アドラスが無謀なことを引き受けようとしている。


「馬鹿め、お主一人で勝てるとはとても思えん。」


 そう、相手は核融合を力で止めた化け物だ。


「アドラス、よく聞け………」


 サーリャがアドラスに作戦を伝えるとアドラスはそれに従った。


 ドーピング戦士は笑って助言する。


「この俺にスタミナ切れはない。なぜなら、ドーピングで赤血球を異常に増やしておいた!! マラソン選手が筋力ではなく持久力を求めるように、俺はすべてのドーピングをした。詰まり、俺こそが、人類最強の戦士だ!!」


 そう、ドーピングには筋力だけでなく、持久力の向上のために赤血球を増やすものもある。


 これにより、酸素の供給を二倍、三倍に高めることができる。


 故に、ドーピング戦士の体力切れを狙うには、サーリャとアドラス、そして、もう一人の犠牲が必要となるだろう。


 といっても、それはただの単純計算、しかし、サーリャは挑発をした。


「人類最強? 面白いことをいう。人類最強ならドーピングもしてない人間のことを言うだろうな。」


 ドーピング戦士の笑みが消える。


「何が言いたいのかな? 言葉を選ばないと早死することになるぞ?」


 サーリャは挑発をやめない。


「貴様はただのドーピングしたクズ野郎の軟弱者じゃ!!」


 ドーピング戦士は激怒する。


「貴様から殺してやる!!」


 あまりにも速い強襲にサーリャは驚いてしまう。


 しかし、いつの間にか仕掛けられた鋭利なワイヤーにより、ドーピング戦士の攻撃が阻害されて、サーリャはなんとか逃れる。


「な、なんというスピードじゃ!! まるで、見えんかった!!」


 サーリャはワイヤーを張り巡らせて逃げ続けた。


 持久戦を狙っているのであろう。


 それに関しては、先程、ドーピング戦士が説明したように無駄な作戦と言える。


 しかし、サーリャは逃げ続ける。


「ふっはっは、俺から逃れても何れ捕まる!! スタミナも無尽蔵だ!!」


 サーリャが逃げ回る中でアドラスが両手を構えた。


「壊滅過電流砲………」


 アドラスの体が激しくスパークする。


 『バチン!!バチン!!』と火花が飛び散る。


 体内の荷電が超過し、ショートを起こしている。


 己の体を賭けての破壊光線を放つつもりだ。


 しかし、それが奴に通用するのかと言われれば、無駄死にするだけだろう。


 アドラスは覚悟を決める。


「この大馬鹿者め!! 貴様が居なくなったら、本当に全滅してしまうのだぞ!!」


 アドラスはサーリャの言葉に自分にしかできない何かに賭けていることを悟る。


「さ、サーリャ姫には何か策があるのだ。しかし、不才の私にはそれがわからない!!」


 サーリャは岩陰を利用してドーピング戦士の背後に回り込む。


 ドーピング戦士は岩場を攻撃しようとするが笑って振り返る。


「止まって見えてるぜ!!」


 サーリャは真っ二つに破裂してしまった。


 アドラスは驚いて言う。


「さ、サーリャ様!!?」


 しかし、それは変わり身であり、サーリャは岩陰を使って逃げ延びる。


 そう、ドーピング戦士に見えないよう岩場に入り込み、衣類を着せた変わり身を岩場から放り投げたのだ。


「馬鹿な!!? あの一瞬で同じような姿を作り上げたのか!!?」


 変わり身の後ろ姿は殆ど挑発の髪で隠れていた。


 偽装力が余りにも高すぎてドーピング戦士の目にも本物にしか見えなかったのである。


「や、奴はどこに!!?」


 ドーピング戦士がサーリャを見失うとサーリャは小声でアドラスを呼んだ。


「アドラス………アドラス………!!」


 アドラスは声のする方向を向いてからドーピング戦士の方を向く。


「先程の作戦はヤツの赤血球増幅により、棄却される。故に、かくかくしかじ、とせい!!」


 それを聞いたアドラスは上着を脱ぎ捨てて姫に渡した。


「了解しました。姫様、この不才な我を後でお叱りください。」


 アドラスの反省にサーリャは呆れて言う。


「全くじゃな………」


 サーリャは両手で頬杖を付いて地べたから即座に立ち上がった。


「姫に地べたは似合わん。こんな役回りは二度とさせるでないぞ!!」


 サーリャはご立腹に言う。


 アドラスの手から熱き業火が燃え上がる。


 果たして、サーリャの作戦とは一体何なのか、核兵器や電気、炎も効かないドーピング戦士をどう攻略するのであろうか?

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