第10話 甘さと覚悟

 悪人は他人に欲望をぶつける。


 欲しいものは欲しいと喚き、恐怖を感じれば命乞いをする。


 彼らに、人間関係は存在しない。


 己のことしか考えていない。


 他人のことを考えても結局は己のことしか考えない。


 これでいいんだ。


 仕方なかったんだ。


 それが、彼らの口癖である。


 あれが欲しい。


 これも欲しい。


 よくに支配されたものは他人の希望を聞くことはない。


「やめてくれ!! それは俺の夢なんだ!! これが叶えば、好きなだけ食わせてやる!!」


 無論、それが大発明だとしても、盗賊は所詮、賊、それを盗んでもその先の研究はできない。


「わかりました。完成させます!!」


 あるものが力を望んだ。


 それを完成させた後でさらなる改良も可能だっただろう。


 しかし、賊はそれを恐れた。


「ついに、ついに手に入れたぞ!! これで俺は全てを手に入れるのだ!!」


 そう、ラバルドアが身に纏う鎧こそ、それだった。


 英雄は名を残すものだろうか?


 ラバルドアが名を残せば、この鎧の力はラバルドア自身の力とでもなるのだろうか?


 鎧を造った発明家の名は残らずに、盗賊が名を残していく。


 英雄とは、盗賊であろうか?


 真相はいつも欲望という闇の中だ。


 ラバルドアがサーリャに襲いかかろうとする。


 その速度にサーリャは気付くことはない。


 アテリオスは大剣でラバルドアの攻撃を受け止めてサーリャを庇う。


 影に生きるサーリャやアテリオスは名を残そうとはしない。


 ラバルドアのような方々は欲しいものは欲しいと喚く、なりたいものはなりたいと叫ぶ、そうしなければなれないクズどもで溢れている。


 奪い合っていく人の世界と有能に道を譲れる義の者たち、譲られた人生を生きているお前らは恥知らずでしか無い。


「ラバルドア、俺はあんたのお陰でここまで育つことができた。そこには感謝している。だが、俺はお前を一度でも尊敬したことはない!! 貴様の『悪名』を公にしてやる!!」


 アテリオスがあのラバルドアを切り倒した。


 サーリャとアドラスがその光景に驚愕する。


 アテリオスは地べたに倒れ込むラバルドアを見下ろして言う。


「貴様は俺には勝てない。そして、お前はその鎧に人生の道を譲ってもらってるだけと知れ!!」


 ラバルドアが激怒した。


「貴様が俺に勝てるだと? ほざけ!! この青二才が!!」


 ラバルドアがアテリオスに襲いかかる。


 悪人がものを他人にものをくれてやる時は、有り余ってしまったときだけだ。


 そこにはどれだけの夢を奪ってきただろうか、そして、どれだけの未来が奪われただろうか、悪人は己の罪を忘れる。


 そして、自分の名を思ったように残していく。


 そういう生き物だ。


 アテリオスの大剣が激しく光り輝く。


「うぉおおぉぉぉ!!!」


 アテリオスが渾身の一撃を放つ、その圧倒的な力にラバルドアが叫んだ。


「ぐ、ぐぎゃああああ!!!」


 サーリャたちは何が起こっているのかも理解できていない。


 アテリオスの足手まといになるわけにはいかない。


 すぐにその場を離れることにした。


 アテリオスの攻撃を受けてもラバルドアは立ち上がり、笑って誇る。


「全く痛くないな~!!」


 どうやら、アテリオスの攻撃はラバルドアを驚かしただけのようだ。


「それがどうした? この大剣で叩いて叩いて叩きまくる。鎧が砕けた時、貴様は死ぬ!!」


 アテリオスの猛攻撃が始まった。


 ラバルドア自体は欲望に溺れた人生を送っていた。


 それに比べてアテリオスは死と隣り合わせ、命を賭けて生き延びてきた。


 税金や武装に守られた公務員等と比べれば、アテリオスは税金ももらえない劣悪した環境であった。


 税金に甘える人間は甘えを覚えて、劣悪な環境下でも生き延びたものには覚悟が身についた。


 ラバルドアがアテリオスに攻撃を仕掛けても、当たる事はなかった。


「丸見えだぞ?」


 アテリオスのものすごいカウンターが入る。


 だが、どれだけ覚悟があっても、肉体はそれについて行けない。


 鎧は金属、大剣を振るう肉体は肉、ラバルドア抵抗をやめて守りを固めた。


 力を込めて全力で何度も何度も叩き込む。


 しかし、傷一つつかない。


「ふっはっはっはっは!! 貴様がどれだけ必死で頑張っても無意味なようだな!! 体力がなくなった時、貴様は死ぬ!! ざまぁないな………アテリオス!!」


 そんな時だった。


 ラバルドアの左腕がぶった切られてしまう。


 宙を舞う己の左腕が視界に入った時、暫くしてからそれが己の腕だと理解した。


「ぐうぎゃあああああ!!! お、俺の、俺様の腕が~~~~!!!」


 アテリオスがラバルドアの鎧を砕いたようだ。


 そして、言う。


「恐怖、そんなものと付き合って来た俺からすれば死など安らぎでしか無い。俺がお前を殺す。それが嫌なら、貴様も命を賭けてみろ!!」


 ラバルドアは心の底から悲鳴を挙げた。


「うぎゃああああ!! 死にたくない!! 死にたくね~~んだよ!!」


 ラバルドアが死にも狂いで生にしがみつく、生きた醜態とは良く言ったものだ。


 しかし、アテリオスは容赦などしない。


 そんな時、アテリオスの膝が崩れた。


「ぐッ!!?」


 肉体に限界を迎えたのか、大剣を手放してしまう。


 この機をラバルドアが見逃すわけもなかった。


 アテリオスの大剣を蹴り砕いてしまった。


「あっはっはっはっはっはっは!! どうだアテリオス、お前の自慢の大剣が砕けてしまったぞ!!」


 タンパク質を十分に摂取できなかったアテリオスの筋力は、筋分解により栄養として吸収されていた。


 アテリオスがちゃんとした環境で育てられていれば、最後の一撃を与えることができたであろう。


「死ぬのは貴様だ!! アテリオス!!」


 アテリオスが手に持っていたナイフでラバルドアのもう片方の腕を鎧ごと貫く。


「いぎゃああああ!!!? なぜだ!!? なぜ鎧をナイフなんかで貫くことができたんだ!!」


 それは、サーリャが旅を続けながらも鎧の偽物を造っていたからだ。


 そして、ラバルドアに拉致されて眠りについた時、鎧の一部を偽装させたのだ。


「アドラスがそれと似たものを身に着けてなかったか?」


 アテリオスの言葉にラバルドアが我に返ったかのようにして気が付く。


 もともと、アドラスが偽物の鎧を身に着けていた。


 それと取り替えたのだ。


 故に、ラバルドアは気づかなかった。


 寧ろ、早く帰宅して、女で性欲を満たしたい一心だったのだろう。


 ラバルドアは目もくれなかった。


 ただの重いだけの鎧で、穴を塗装で隠しただけ、塗装をナイフで貫くことなど容易いこと、ラバルドアは両腕を切り落とされてしまう。


 両腕を失ったラバルドアは見にくく命乞いをしてくる。


「お、おお、お願いだ!! 金は、金はたくさんやる!! だから、見逃してくれ!! 頼むよ!!」


 ラバルドアは恐怖の余り、見落としていた。


 アテリオスはもう限界であると、ラベルドアがそんなことにも気づかずに人質を取る。


「こ、この少女がどうなってもいいのか!!?」


 ラバルドアが少女の足を踏み潰して離さない。


 少女の苦痛の叫びが街中に響き渡った。


「動くんじゃねぇぞ?」


 ラバルドアがそういうと石ころを蹴飛ばしてアテリオスにぶつける。


「ぐぉおおぉぉ!!!?」


 アテリオスの肉体は栄養不足であり、一発で片足が吹っ飛んでしまった。


「ぐっはっはっはっはっは!!? ざまぁないな!! 次はもう片方の足を貰ってやるぞ!!」


 そんな時、アドラスの荷電雷龍砲がラバルドアに直撃した。


「ぐはッ!!?」


 ラバルドアが驚いた隙に、サーリャが少女を救出する。


 アドラスは謝罪した。


「アテリオス、すまない。俺には、やつの、ラバルドアの攻撃が見えなかったんだ。」


 状況は最悪である。


 ラバルドアがアドラスとアテリオスに向けて石を蹴り続ける。


 アドラスには、見えていない。


 果たして、サーリャ達に勝ち目はあるのだろうか?

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