第10話 ディスの決意
とうとう戦いの時が来た。
秋もセツナも互いに真剣な様子で台を見つめる。
試合の実況兼審判はディスだ。
『今回、2人が対決する台は...
“pあの日夕暮れを見て一雫涙が出た”じゃ!
この台は秋は恐らく知っておるが、人間界のドラマがモチーフになった台じゃ!訳して“あの一”。通常確率は1/319、ST突入率は52%でST突入時に大当一回確約なので実質出玉は3000発、残り48%は時短なし10R1500発。ST時確率1/89で回数は150回で、出玉構成100%10R1500発じゃ。継続率は約81%。
人間界ではかなり人気の台で、儂や秋のマイホでは特定日には朝イチで40席埋まってしまっておったわい。今回2人にはこの台で戦ってもらう。3時間でどれだけの出玉を稼いだかで勝敗をつけよう。秋が勝てば、セツナは秋と一緒にバリアンの討伐、セツナが勝った場合は...?セツナどうするか?』
セツナは自分がもし勝った場合の望みを話した。
『もし、私が秋に勝ったら、秋、お前と私は結婚してもらう!!私はお前を好いている!!あと、子供も欲しい!』
秋はその言葉を聞いて驚愕した。
なんでそうなるのかと。この子ぶっ飛びすぎじゃね?なんで前世で会えなかったのか後悔、いや、出会ってたけど台の中のキャラだし恋は出来ないよ。
てか、惚れさせた記憶もないし、突然のラブコメ展開ですかこれ?
あと、子供は流石に早すぎる。
そして、この世界の人間とは体を交わるとボスを倒したとしても抜け出せなくなるから、人間界への転生も不可能になる。セツナには本当に申し訳ないが、これは死ぬ気で勝たないといけない。
だが、秋は男としての矜持を保ちたく動揺していないふりをした。
『ふっ。良いぜ。全く俺も罪な男だよな。』
ディスはそんな秋の様子を見て、あ、これ本当に動揺してる奴だなと瞬時に分かった。
セツナはセツナで真っ赤になってるし、
なんだよこれイチャつき見せられてるみたいで嫌になるなあとディスはため息をつく。
ディスはこの弛んだ空気を締めようと声を敢えて荒げてみる。
『おい!これは魂の消費がある事を忘れるでないぞ!!2人とも命をかけて台を回すのじゃ!!』
ディスの神様の威厳を見た2人は先程の空気を消して、気を引き締めた。
『今こそ俺の特訓の成果を見せる時。いける。俺ならいけるぞ。』
秋は強気になっており中々良いコンディションだ。
セツナも魂の大きさ的には秋をも凌駕しているので、どこか自信に満ちた表情でスタートの時を待つ。
そして、その時は来た。
『それでは、試合スタートじゃ!!!』
2人はハンドルに手を回し、魂の消費を始めた。
秋は特訓の成果も出ており、的確に魂の消費を抑えつつヘソに球を打ち込んでいる。
秋の魂の大きさ的にはお金に例えてしまうと、40000円程だ。元々は1kあたり12回(台の回りによって異なるが平均的にはこのくらい)の渋い回り具合だが、魂の消費を抑えた事により1k20回まで回転数の向上に成功した。1/319でも能力の発現さえすれば充分に戦えるだろう。
一方セツナの魂の大きさはお金に例えると40万...セレブかよと突っ込みたくなるレベルだ。彼女もまたこの世界で指折りの剣士である為、1k20回以上は回せるのでかなりの強敵である事は間違いない。
ただ、魂が大きくても大当たりを出さねば意味がない。彼女はどこまで大当たりを出せるのか見ものだ。
セツナの台の挙動は、60分経過した現在、
青保留はたまに出るが大当たりには繋がらず、リーチするも簡易リーチでハズレるという空振りが続いていた。
しかし、セツナにも能力はある。
それは“ヒノタマノアツサ”。
発現すれば、寒い雑魚リーチが一気に激アツリーチに成り上がりするという脳汁垂れ流し確定の能力だ。秋と比べたら能力的にはチートさは低いが発現率は高い。回転数150回-200回転の間に一回の確率で発現し、30%から50%の確率で大当たりに繋がる。
稼働から120分
ついに、その時は来た。
『来た!いくぞ秋“ヒノタマノアツサ”!!』
セツナが唱えると、さっきまでリーチだけして外れた画面が突如暗くなり、次回予告が流れ始めた。
“ユーグレ、なんでこんなにミカンなのー、
私の心はーるるーるるー🎵
次回: あの日夕暮れを見て一雫涙が出た。
秋はその独特な音楽を聞いて、思わず声を上げた。
『え!?次回予告は信頼度85%の激アツ演出じゃねえか!これに激アツ演出“あの一最終回リーチ”来たら、大当り確定だぞ...。セツナマジかよ。』
秋は思わずセツナの台の挙動が気になり、気持ち悪いくらいに覗き込んでいた。人間界でも覗き込む奴、たまーにいるけどあれほど不快な物はない。
流石にディスが止めに入った。
『秋、お前は自分の事に集中するんじや!これじゃ不審者じゃぞ!!』
秋はその言葉で我に帰った。
『ディス、すまねえ。ありがとう。』
そして、セツナの次回予告からの発展先は...
“あの一最終回リーチ”。大当り確定だ。
『よし!大当り確定だ!あとはSTさえ引ければ...!!』
セツナはガッツポーズを決める。
秋はそんな様子のセツナを見て、俺も早く能力を発現しなければと焦り気味だ。
現にセツナの初回大当たりは150回目という早い出だしだ。本来であれば200回転以内に1/319を引ける確率などまあまあ低いので焦る必要はないが、秋は焦らずにいられなかった。
セツナは現在、ST獲得か単発か振り分けに入っている。懸命にボタンを連打するセツナの胸の揺れを秋は見逃さなかった。
ありがとうセツナ。俺は少しだけ元気が出たよ。そう勝手に心の中で感謝をし、回し始める。
そして、セツナの方はそんな秋の様子に気づかずだ。結果は単発で再度大当たりを狙う事になった。
『ああ、単発か...。仕方ないもう一度だ。』
セツナは淡々としており、再び回し始めた。
一方の秋は200回転を超えても、能力の発現は来ない状態だ。能力の発現が無くても大当たりは狙えるが、前世でもヒキの悪かった秋には能力に頼るしか他ない。ただ制限時間も1時間を切っており、このままだと負けは濃厚。
秋は自分が何故能力の発現がしないのか、何となくだが理由は分かっていた。
セツナの大当たりに動揺して集中した念を球に送り込めていなかった事、セツナの願いがまさかの自分との結婚で、来世で無双するという夢が一瞬揺らいだ事が原因なのだろうと推測していたのだ。
だが、気持ちを整えた今でも能力の神に見放された様に何も起きない。
ディスはそんな秋の異変に気づいていた。
しかし、あくまで自分は審判であり運命を司る雇われ神様だ。
一個人への過度な介入は禁忌とされている。
厳密には能力の付与や一個人が異世界でやっていくためのレクチャーは認められている。ただ、能力を得た後の個人への更なる能力付与や冒険の手助けで敵を倒す事などはNGだ。
さらに、ディスは既に秋が無くなる前に魂を球に見立てて、パチンコ台で彼の運命を改変している。実はゴッド人事委員会から目をつけられており、次に何か秋の運命に介入する事が有れば神様の資格剥奪という処分を受けていた。今もゴッド神事(じんじ)担当から見張られてる為、下手な声掛けも出来ない。
“儂は一人間から神様に成り上がった特別な存在じゃ。この地位を手放すなんてまっぴらごめんじゃ”とディスは考えていたが...
“だけど、それでいいのか?”
最初はそれこそ生意気なパチンカスだと思ったが、一緒にいるにつれ情が湧いてきているのは事実。
正直なところ雇われ神様は、つまらない。
向いていないとも思ってる。
人間出身だからって上級神には馬鹿にされるわ、月給は少ない、運命を司ってるのに一人一人に寄り添った運命の導きなんて何一つ出来ていない。結局は個人の前世の行いだけで今後の運命を決めてやるなんてあまりにも無慈悲ではないだろうか。犯罪や殺傷を犯した者は論外だ。だが、“ずっと今まで頑張ってきて、それを故意に踏み潰されて、パチンコをして悲しみを忘れようと、さらに深い悲しみの中に進む秋を見捨てるなんて事、儂にはできるのか...?
儂はそう思ったからあの時秋の運命に介入して、彼に楽しく生きて欲しいと願ってしまったのではないか...?
儂だってあの時、それが一番神様の仕事て一番やり遂げたことじゃった。”
ディスは何か決心をしたのか、秋にある事を叫ぶ。
『おい、秋!!何をへこたれておるのじゃ!!お前は来世で人生無双するんじゃろ!!こんなパチンコ台の世界無双出来ない奴が人間界無双出来るわけなかろう!?
思い出せ、儂とお前が一緒に特訓したあの時間!!情熱が足りんのじゃ!情熱が!!
今こそ力を発現させるのじゃー!!』
『何をしているのですか!辞めなさい!』
ディスはそこでゴッド神事担当から見えない天使の輪っかで拘束されて身動きが取れなくなった。
『儂が出来るのもここまでじゃ...あとは秋、お前の力でやり遂げるのじゃ。』
その言葉を聞いた秋はディスなりの応援と気づいた。
『ディス、ありがとうな。そしてごめんよ、お前をガッカリさせたくないのに、こんな叫ばせてしまってよ。そうだよ、俺はまた願う、来世でも、そしてこの今瞬間も全部無双するんだーーー!!!!!』
すると、秋のその熱い言葉に反応する様に台が虹色に光出した。
『いけ“エストライセプス”そして...“ジャッジメント”!!!!!』
秋はこの特訓の中で“エストライセプス”と“ジャッジメント”、一度に二つの能力を発現する事に成功はしていなかった。
だが、ディスとの友情、そして自分の本来の願いを取り戻した事で同時に2つの能力を発現出来たのだ。
その様子を見ていたセツナは驚愕した。
『普通、一度に2つの能力は使えないはず...
そんな事したら魂の消費も尋常じゃない!
なのに...なんで...?これは流石に私の勝ち目はないじゃない...。』
セツナもまた能力の発現は起きていたが、
信頼度80%のボタンバイブ&信頼度50%の激アツリーチを外し、再度体制を整えていたところであった。流石に1回目の大当たりで当てた出玉1350玉は飲み込まれてしまい、魂の消費で回していたのだ。
セツナは秋の能力の凄さを見て、自分の負けを確信した。
『秋、この勝負私の負けよ。降参するわ。』
秋はその時ちょうどSTで連チャンしていたので脳汁マックス状態で、何も聞こえていなかった。
セツナはそんな秋に近づき、耳元で叫んだ。
『秋!!私の負け!!こ・う・さ・ん!!!』
『うわぁあ!!なんだよ耳元で叫ぶなよ...って降参!?』
『試合終了!!このバトル、勝者は秋!!』
拘束されてるディスが叫ぶ、人事は止めている。
『あー疲れた。けど、楽しかったあ!!』
秋はセツナに土壇場で勝つ事が出来たが、魂の消費も非常に多く、疲れも大きい状態だ。
秋はディスにお礼を言おうと、ディスの元に向かうが、その前にセツナが立ち塞がる。
『秋、おめでとう。私は今日からあなたのパートナーよ。宜しくね。』
『おう!セツナ、一緒にこの世界無双して、
平和も取り戻していける様に頑張ろうな!!』
秋の爽やかなセリフにセツナはドキドキが止まらない。
『それでだな秋、もし良ければ今晩私と一緒に寝て...ってあれ?いない?なんで秋歩いてるのよー!!』
セツナのお誘いを秋は逃げてきた。
そう、セツナの夜の誘いを受け入れる事はゲームオーバーにもつながるからだ。
秋は、あんないい女の子抱けないなんて、男としてどうなんだよ...と非常に悶々とした思いで過ごすことになるのだ。
『さて、ディスはどこかなーっと...居た!ディス!』
『お、おう秋お疲れ様ー。儂の今の状況やばくない?見えないけどこれ拘束されてるんじゃよ。まじ辛たん。』
秋は不自然に手を組んで寝っ転がるディスの様子に、あぁそういうことか。だから試合の時にあんなに変な体制だったのかーと腑に落ちた。
『で、ディスの事拘束したやつは?』
『私の事ですか?』
秋の後ろにメガネをかけた中年のダンディな男性が立っていた。
『うわっ!なんだよ後ろに立つんじゃねえよびっくりするだろー!』
『失礼、私はゴッド神事委員会神事部神事部長の、“ジン”と申します。今後ともお見知り置きを。』
秋は、うわあこいつ頭硬そうで俺と話合わなそうだなあと思っていた。
『で、そんな人事のお偉いさんがなんでこんなとこに?』
『この運命を司る神ディスですが、あまりにもあなた“黒羽秋”の運命に介入を行い、人事委員会が正社員神に定める禁忌事項を何通りも破ってきたので処罰しに来たのです。この後ディスを神から降格処分にし、天使からの再スタートになるのです。』
秋はその言葉を聞いて、ジンに問いただす。
『は?ディスは神様として俺に付き添ってくれた!ディスは寄り添ってくれて、俺を信じてくれて、こんないい雇われ神様いるかよ!!ディスが人事委員会に背いたとかなんだがは俺にはわからねえけど、そんな人事なんて俺がひっくり返してやる...!!』
秋のその言葉を聞いて、ディスは秋に感謝を伝える。
『秋...ありがとうのう。儂はお主の様な友達を持てて幸せじゃったよ。儂は一回、ジンと一緒に降格処分の手続きを行うからこの世界を離れる。大丈夫じゃ、セツナもおるし、まだ秋の仲間になるキャラクターもおるぞ。
儂はどんな形でも絶対戻ってくるから、待っとれ。』
『いやだよ、ディス。俺はディスともっと馬鹿みたいな会話して楽しみてぇよ...。』
秋は泣いているのか、顔を下に向け見られない様にしている。
『ふん。うるさいですね。さっさと仕事をしましょうか、ほら行きますよディス。』
ディスを連れて行こうとするジンに、秋が立ち塞がる。
『邪魔だどけ。どかないと本来のお前の居場所である地獄に送るぞ。』
ジンの冷酷な声が本気を物語る。
『俺の事は好きにしろ。ただそいつは俺の友達だ。連れて行くな。連れて行くなら...俺とパチンコで勝負しろ!!!』
ディスはあまりの無謀さに思わず叫んだ。
『辞めるんじゃ!!ジンはセツナよりもさらに巨大な魂じゃ!神様ではないにしても、同等のチート能力を保持しておる!今の秋には勝てん!!』
『神様じゃないは余計だ。しかし、私にパチンコ勝負を挑むなど面白い。いいだろう受けてたとう。ただし、お前が負けたら運命改変前の行き先、地獄へ連れて行ってやる。
その代わり、お前が万が一私に勝てば、ディスの処分は取り消し、この世界への長期滞在も許可しようではないか。』
ジンはディスにも負けず劣らずのパチンカーであり、実はマイホも秋やディスと一緒だ。
連チャン記録は、能力不使用で1/99“p砂丘戦隊トヤマ”で打った時の80連チャンだ(平均10連)。神ではないが神のご加護はあるので、平場でも運は強めなのだ。
そんな相手に勝負を挑んだ秋に勝算はあるのか?
ディスは流石にこれは負けゲーだと考えていた。
『ディス、大丈夫だ。俺は、お前がくれた熱意で勝ってみせる。』
秋は強気な姿勢を崩さない。
ジンはそんな秋の様子を見て面白いと感じた。
『ふっ。お前面白いな。ディスが見込んだ理由もわかった気がするが、それとこれは別だ。そしたら勝負の日時は明日の10時。この場所に集まる事だ。楽しみにしているよ黒羽秋。』
ジンはディスを連れて、消えて行った。
一部始終を見ていたセツナが秋に駆け寄る。
『秋、大丈夫か?あんな勝負仕掛けて...』
秋は本音を溢す。
『うわああああ!!俺神様的な人に喧嘩売っちまったぁぁあ!!』
セツナはその様子を見て、考えなしに言っていたのかと少し呆れた。
『いいか秋、奴は強い。今まで数多くの敵と対峙してきた私が言うから間違いない。
少し休んだら明日の作戦を立てようか。』
セツナの冷静な物言いに秋も少し落ち着きを取り戻す。
『セツナありがとう。そしたら一時間後、俺の部屋に来て。』
セツナはその言葉に心臓バクバクしながら、今はそんな破廉恥な事を考えてる場合ではないと自分を戒める。
『わかった。少し私は秋に追加で能力を発現出来る方法がないか探してみるよ。』
そして2人は一度休息につくのであった。
続く
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