好きな食べ物はカレーです!

カビ

第1話 好きな食べ物はカレーです!

好きな食べ物はと聞かれて、カレーと答えるが恥ずかしい。


ガキっぽさが出てしまうからだろうか。

真っ先に思い浮かぶ、あの暴力的とも言える味の濃さを否定して俺は答える。


「天ぷらかな」


これぞ、丁度いいラインである。

カツ丼などのガッツリした料理でもなく、菜の花の味噌汁などの狙いすぎの料理でもない、丁度いい料理が天ぷらだ。


そんな俺の元に、陸上部の大会後、母さんからこんなLINEが届いた。


<今日、パート先の飲み会だったの忘れてたー。晩御飯、なんかテキトーによろしく>


いつも、仕事の後に食事を作ってくれている母さんに文句は言えない。了解と返信する。


さて、何を食べるか。


今日もアホみたいに走ったので腹がぺこぺこだ。今は金にも余裕があるし、豪勢に行こう。


腹が膨れる外食といったらラーメンだろうか。

ここら有名なラーメン屋をスマホで探してみる。

ふむ。この家系ってやつが良さそうだな。


早速、地図アプリを立ち上げて歩き出す。


「この辺だな」


駅から五分ほど離れたところにあるラーメン屋まで、あと30メートルもない。というか店が見えてきたのでスマホをしまう。

店構えも良い。適度に汚くて俺がイメージする「美味いラーメン屋」そのものだ。


あと少し。とのところで、あの匂いが漂ってくる。

午後7時半。マックスで腹が減った状態で嗅ぐその匂いに、俺は止まる。


待て待て。今日はラーメンのはずだろう?それに、お前が入ろうとしているのは、どこにでもあるチェーン店だ。こういうちょっと特別な日は、初見の個人経営の店に行った方が格好いいって!

\



そんなもう一人の自分からの説得も虚しく、カレー屋のテーブルにつく俺である。

とことん欲に弱いな。お前は。


メニューを開く。人生で70回は食べているであろう、ほうれん草が入っているカレーに目が止まる。

一応、毎回メニュー全体を見るのだが、毎回これになってしまう。しかし、今日は大会を乗り越えた自分の腹を満たすため、トッピングとか加えてみよう。


コロッケ、エビフライ、ハンバーグ。


馬鹿みたいなメシが目の前に広がっていた。

小学生男子の理想を17歳が食べることの羞恥はあったが、食欲という原始的な欲求に抗えなかった。


「いただきます!」


カロリーを欲していた身体を、全てがエース級の料理が癒してくれる。俺がこのメシを食うために生まれてきたのだと本気で思うくらいの至福。


気づけば、食べ終わってしまった。


微量に残ったルーを舐めることをしなかった自分を褒めてやりたいほどの名残惜しさ。


腹の具合は、7割といったところだ。

しかし、追加のカレーを頼むほど俺は金持ちではない。

なんて残酷なんだ。運動部男子の胃袋が満たされないなんて!


不満全開で席を立つ。

会計の時、思ったより所持金がギリギリでビビった。

\



帰り道、コンビニ寄る。

まっすぐ家に帰るのが、なんとなくもったいなく感じたからだ。

金がないくせに入れるのがコンビニの良いところだ。


漫画雑誌を読んだり、エロ本が無くなったことに憂いたりしてウロウロしていると、有名なカップ麺のカレー味が目に入った。


……ラーメン+カレー。


ラーメンを食い損ない、まだカレーも食い足りない俺のためにあるかのような商品。


財布の中見を確認してみる。

50円玉2枚と10円玉5枚と1円玉8枚……いける!

これで、俺の財布は正真正銘すっからかんになった。



\

「好きな食べ物はなんですか」

数年後、マッチングアプリで出会ったメチャクチャタイプの女性に、俺はこう答える。

「カレーです!」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きな食べ物はカレーです! カビ @adatitosimamura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ