壁に囲まれた三等国民トゥラン人の強制収容区域、箱庭<クープ>。侵略と統合により、生まれた場所で人間の価値が決まる序列社会。銃殺、鞭打ち、人喰いハウンド――息をするのも命がけな閉鎖的な箱庭に押し込められた人々は、彼らを導くクイーンが現れるのを密かに待ち侘びている。
クープの中に建つクライノート・ギムナジウムで燦然と輝く自信家の少女、エル・スミス。その聡明な頭脳と真っ直ぐな信条は、理不尽の鞭にはけして屈しない。ギムナジウムの仲間やクープで暮らす二等国民たちを惹き付けてやまないカリスマ性の他にも、正体不明の紳士から毎年誕生日に届くカンパニュラの花束とメッセージカードに胸を躍らせる無邪気な一面も彼女の魅力だ。そこがどれだけの地獄だろうと、彼女が放つ言葉はいつも希望に満ちている。
そしてエルを密かに見守る治安維持部隊ブレイクの副隊長、ロス。彼の出自には作品の根幹にかかわる多くの謎が秘められていて、その動向に目が離せない。何より銀髪長髪鉄仮面美青年なのが堪らない(一読者の癖(ヘキ)です)。それでいて動物を愛する優しさとクイーンへの慕情にも似た忠誠を作中にこれでもかと見せつけられてしまっては、もう、推すしかない!
エルとロスを始め魅力的なキャラクターが緻密に練られた世界の中で生きる様子を、作者様が言葉巧みに、時に詩的に表現してくれる文章は必見! ネーミングの一つに至るまで作者様のセンスと強いこだわりを感じます。まるで業界の威信をかけた高額予算の洋物映画を見ているような満足感。文字が紡ぐ映像美を堪能したい方に特におすすめしたい一作です。
閉鎖的な箱庭、空飛ぶ監視艇、猛獣兵器、etc。残酷な世界であればあるほどひたむきな少女がいっそう輝いて見える。黄金を使役する女王が虐げられた世界を導く奴隷蜂起ファンタジー、ぜひご一読あれ!
『貴様らは幸運だ。その下品な頭に染み付いた汚らわしい三等国の習性は、人類のために浄化されねばならない。晴れて立派なベルチェスター国民となれば、大手を振ってこのゲートから外に出ることができるであろう!』
レムリア大陸の覇者となったベルチェスター連邦共和国は、トゥラン人たちをそう言って貶めた。
トゥランの子どもを強制的に収容する区域の通称は、箱庭《クープ》。
まるで奴隷の子どもを作る工場や農園のように、彼らは押し込められていった。
反抗する大人たちは、無惨に死刑にされる。
「信じるんだ。おれたちには、王がいる。必ず、救いに来る」
万能の王ハルヴァハル。
それに選ばれたのは、愛情深く勇敢な少女。その名前は、エル。
「お前は人間では無い」と徹底的にしらしめされ、この箱庭の中では誰も手を差し伸べてはいけないというルールの中、彼女は緑の目を輝かせ、鮮やかにこう告げる。
「自分にガッカリされることに比べたら、なんだってただの掠り傷だわ!」
そんな彼女の前に現れたのは、トゥランの素性を隠すロス。
はたして、小さな女王の黄金の武器は何を射抜くのだろうか。
その口から紡がれる未来と世界は。
強制収容所『箱庭』
人々から尊厳と自由が剥ぎ取られ、代わりに暴力と屈辱が与えられる。
権力者の気まぐれで、あっさり人命が奪われる閉じた世界。
だが、そんなどうしようもない世界の中でも、エルと呼ばれる少女の誇りは誰にも奪えなかった。
ときに仲間をかばうために、身を挺して支配者へ立ち向かう彼女は、えてして無謀そのものだが、人々は敬意を込めて、こう呼んだ。
クイーン。我らが王、と。
ある日、彼女に、差出人不明の不思議な力を持つ黄金の鍵がとどく。
そこから、反逆の運命の歯車が回り出す。
強制収容所というシビアな舞台で、カリスマ少女エルが持ち前の頭脳を駆使して、人々を助けるためにがんばる姿は、カッコよくて憧れちゃいます。
脇を固める男性キャラも魅力的。
本来はエルと敵対する立場の、銀髪イケメン青年将校なんかは、掛け合いがいちいち切れ者オシャレ感満載で、思わず自分でも言ってみたくなる台詞ばっかりです。
こんな方にオススメ。
:絶望的な状況でも、己を貫く強い女性主人公が見たい方
:軍服系男子の、洗煉されたイケメンムーブにキュンキュンしたい方
舞台は箱庭。
あるものは、抑圧と理不尽。ないものは自由と正義。
人の皮を被った獣たちが支配するそこは、一瞬の油断が死に直結する、いわば収容所です。
絶望の渦巻く箱庭──ですが、14歳の少女、主人公エルの誇りを奪うことはできません。
彼女は、どんな困難があってもひるみません。
身を挺して仲間を守る気高さ、絶対的な支配者を前にして一歩も引かない毅然とした眼差しは、読み手の心を熱くさせます。
差出人不明の黄金の鍵、正体不明のおじさま、ミステリアスで有能なハンサム副隊長……ファンタジー好きにはたまらない要素が、随所に散りばめられています。
果たしてエルはこの先、自由を手にすることができるのか──いえ、さらに大きな展開が控えているのではないか、ワクワクして目が離せなくなるに違いありません。
ぜひぜひ、この機会にご覧下さい。お薦めのダークファンタジーです♪
箱庭(クープ)のクイーンとして君臨するエル・スミスが鍵を受け取ったところから始まる物語。
これでもかというほど「残酷さ」を盛り込んだ小説。
くそったれな世界で、一人の少女と一人の男が革命を起こすために動き出す──
一文一文から伝わる世界の卑俗さ、海外映画でありがちな下品さやブラックジョークを交えた文章は読んでいて胸糞悪くなります。けれど、それが良い。
下品だからこそ、主人公のひたむきさ、勇敢さが際立ちます。無謀だって? 馬鹿だって? そんなことありません。クイーンは強く気高い王だから。
トゥラン人を見下し、蔑み、人として扱わないことを〝常識〟と思って生きているベルチェスター人。彼らの鼻を明かしたくないですか? 彼女たちの有志を見届けましょう!
まさに、最底辺から始まる下剋上 ~燻る恋心を添えて~ です。
………なーんて言ってみましたが、泥水啜って地べた這い蹲って進む主人公が好きな人なら、絶対にはまるでしょう。
一言で言ってしまえば、作者様である愛実さんは天才だッ!!