第13話 お泊りの真意
「やあ優火、君の家に泊まりに来てやったわ。私の部屋はどこかしら?」
王都武道会の前日の朝、優火の家に泊まりに来た私、ローズ・アーレットは、事前に伝えておいたのでそのことくらいはしてあるだろうと考え、ドアを開けてそう声をかけた。だが返事はない。
「仕方ないわね、優火、入るわよ」
本人が出てこないので仕方なく家に上がり、優火を探すこととした。間取りはわからなかったので、適当に廊下を歩いていると、背後から声をかけられた。
「ローズ、ここで何をしている?」
その声の主は、懐かしく、よく聞き馴染みがある声だった。私は振り返り、朝早くなのに寝起きじゃない彼に感心しながら、声を掛ける。
「やぁ、サタン、私はここに来ると言っていたぞ?一週間前、お前もいただろう?」
「ああ、そうだったな。あいつはまだ起きていないが」
そのタイミングで、この家の主が寝起きの顔で部屋から出てきた。だが
、寝間着姿で、寝癖までついている。意外にも、彼女の私生活はだらしないのかもしれない。
「ふぁ〜。にゃむい。あ〜しゃたん〜おはよ〜。あれ〜、ろーずもいるじゃ〜ん、きょうからとみゃりだっけ?」
「「・・・」」
両者、困惑を隠しきれなかった。それもそのはず、普段彼女は、こんな姿を見せることはないし、見せようともしないからだ。そして、呆れた顔でサタンが彼女の方を見ている。おそらくこいつは何度もこの醜態を見ているからだろう。その視線には、諦めも混じっているように見えた。
「はぁ、優火、いい加減寝ぼけていないでくれ。客人がいる」
「ふぇ〜?わたしはねぼけてにゃいけど?ちょっとあたまがふわふわするけど、たいしたことじゃないとおもう。らいじょ〜ぶ、らいじょ〜ぶ」
そしてこの反応である。サタンがこの反応をするのも納得である。そしてそれと同時に、ある事実に気がついて、少し複雑な気持ちになった。そんなことを思っていると、無言、かつ真顔で彼が優火を魔法で浮かせ、洗面台のある部屋に放り込んだ。
「すまない、話がそれたな。お前の部屋はこっちだ。ついてこい」
「え、ええ、わかったわ」
なぜ何事もなかったようにできるのか、思いっきり優火を洗面所に放り込んだ罪悪感やら何やらはないのかと思いつつ、私達は部屋へと向かった。
「ここだ。入れ」
そう言い連れてこられた部屋は、もともと物置だったはずの部屋だった。ここに来たのは少し前のことなので、なにか変わっていたのかもしれない。ただ一つ、気になることがあった。
「サタン?」
「なんだ?なにか不満でもあるのか?」
「いや、そうじゃなくて、なんであなたもここにいるのかしら?」
「ん?ああ、私もここに泊まるからな。あともう一人来るそうだが」
「ああ、そういうこと。もう一人は誰なのかしら?」
「知らんな」
そんな会話を交わし、荷物の整理をしていると、着替え終わった優火がこの部屋に入ってきた。
「サタン、起きた?って、あれ?なんでローズがここにいるのさ?」
「いや、あんた私が気ているところ見ていたでしょう。覚えてないとは言わせないわよ」
すると優火は、首を傾げて、
「おかしいな、私はさっき起きたばかりなんだけど」
この瞬間、少し私は固まった。数秒理解が追いつかなかったからだ。そしてある結論を出し、それで納得することにした。
「はぁ、そういうことなのね。わかったわ。ところで優火」
「何?まだ寝癖ついてる?」
「入口にセリカがもうじき来ていると思うんだけど、見ていないかしら?」
「あー、もう部屋にいるよ。会いたいなら勝手にどうぞ。私はご飯作るから」
その事実に少し安堵する。なんせ彼女とはぐれてしまい、少し迷子になりかけていたからだ。ここに来られていなかったらどうなることかと思った。
そんなことを思いつつ、持ってきた荷物の整理を再開した。
_____一時間後
王都武道会の前日、私は今日泊まる家の玄関を勢いよく開け、家主の名前を呼んだ。
「優火、泊まりに来たよ〜。起きてる?」
「流石に起きてるよ、カルラ。キリアも久しぶり。入りなよ」
「「お邪魔します」」
前から思ってはいたが、店とはいえ、彼女の家は一人暮らしには大きすぎる位のスペースと部屋がある。ただしその大半は、整備されておらず、ホコリだらけの物置き場と化している。そのような部屋に紹介されるのかとヒヤヒヤしていたが、連れてこられた部屋は、彼女の自室だった。
「じゃ、二人共、泊まる場所はここね」
「優火、一つ良いかい?」
「なんだいキリア?部屋の変更は受け付けないよ?」
「わかってるけど、なんで君の部屋なんだい?もっと他の部屋も空いているはずだけど」
「ああ、そのことね、後で話す。少し君たちに話たいことがあるからね」
「なんだ、そういうことか。わかった。散らかってなくてよかったよ」
どうやらここで、あのことを話すらしい。そうなるともう一人、彼女も来るみたいだ。そう思っている矢先、玄関からノックの音がした。
「優火さん、いるんですか?入りますよ?」
「あー、今行く。ちょっとまってて」
そう言い彼女は玄関へ向かった。私達も少し支度があるので、部屋に入った。
______その彼女が来たのは、日が落ちてからだった。
「遅いね。あいつも来ないと話が進まないんだけど」
そう口にしたのはこの家の家主である優火だった。もうご飯も出来ているし、彼女たちが来るのは遅いが、気にするべきことか?と私は思った。そう思っていた頃、彼女たちが到着した。
コンコン、と、この家をノックする音が聞こえてきた。
「お、ようやく来たみたいだね」
そう言い彼女は玄関へと向かった。だが彼女が見たのは、想像していたものとは少し違った姿の彼女たちだった。
「遅かったじゃないの、どうしたの?なんか仕事でも____」
「助けてください鬼に追われているんです早く入れてくださいお願いします」
そう迫ってきたのは私達が待っていた人物の一人である、風間美咲だった。だが明らかに様子がおかしい。化け物に追われているかのような鬼気迫った表情をしている。だがその理由はすぐに分かった。背後にもう二人ほどの影が見えたからだ。その影は彼女の両肩に手を置き、その正体を表した。その正体に美咲は血の気が引いたような表情をしていた。
「美咲?どうして逃げたのかしら?理由次第では説教だけにしてあげるわ」
「美咲、いくらなんでも出来ないからと言って逃げ出すのはどうかと思うよ。出来ないならしっかり様子を見てあげるから、覚悟してね?」
そこには明らかに目が笑っていない魔法使い二人、ロゼリアとフォーレイが立っていた。なんとなく中にいた者たちも事態を察し、心のなかで合掌していた。そんなふうに思っていると更に美咲がすがりついてきた。
「うわぁぁぁん、いくらなんでもこの数日間で魔法式介入と反射技を覚えろというのは無理がありますよぅ。ねえ優火さん、そう思いません?だから助けてくださいよぅ」
彼女の心の叫びだった。もはやこれには同情よりも呆れが来るだろう。別に彼女なら出来ないわけではないと思うのだが。
「出来ないなら最初からやってないわよ!それにあんたはもう基本的にはできるようになってるでしょうが!それをモノにしろって言ってるのよ!」
「これに関してはロゼリアの言う通りだね。というわけで、今日は許すけど、明日の朝、覚悟してね?」
もはや気の毒でしかなかった。だが彼女は出来ないというわけではないので、心配はしなくていいだろう。
「はぁ、3人共、喧嘩はあとにして、みんなが待ってたんだよ。もう晩ごはんも出来てるし」
「___ええ、そうするわ」
「___わかったよ。そうする」
彼女たちは周りを見て頭が冷えたのか、大人しくそれには従った。晩ごはんを食べ終わったあと、それぞれに割り振られた部屋へと向かい、明日へ向けてのミーティングを始めた。
ロスタイムレコード 天見レイ @rei-amami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ロスタイムレコードの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます