第12話 Re:Start

「_____え、お父さん?本当に?」

 私は、現実だとわかっていても、夢ではないかと錯覚するほどの衝撃を覚えた。だってそうだろう、150年前死んだはずの人物が、今、私の目の前にいるのだから。 

 思考が停止している私に向かって、ローズが歩み寄ってくる。

「信じられないかもしれないけど、本当よ。やつの魔力を、この私が間違えるわけがないわ。」

 そう言い彼女は私の背中を叩く。

「あなたも、話したいことくらいあるでしょう。それに、あなたにとっては、唯一の家族じゃない。向こうだって、話したがっていたわ。気が済むまで、話してらっしゃい」

 優しい声でそう囁かれ、私は首を縦に振った。それに、お父さんに言いたいことはたくさんある。そう思い、彼と話してみることにした。

「久しぶり、お父さん」

「ああ、久しぶりだな。セリカ」


______1時間後


「______ん、もうこんな時間か。サタン、帰るよ。夜に出れば翌朝には街の方につくから。」

 様々な会話をして、かれこれ1時間が過ぎた。できればもっと話したかったが、仕方ない。

「セリカ、またな」

「えー、もう行っちゃうの?私まだ話したいのに。」

 名残惜しそうにこちらを見つめてくる。まだ親離れはできていないようだ。

「仕方ないだろう。こちらにも色々とあるんだ。また会いに来るよ」

「・・・わかったわよ」

 そう、拗ねたような口調で言った彼女は、少し経ってから、

「それじゃあ、またね。お父さん」

 と、少し寂しそうな表情をしながら言った。

「ああ、またな」

 そう言い、私達はその部屋を後にした。

「サタン、どうだった?実の娘に150年ぶりに会った感想は」

 その部屋を出た直後、私はローズにそう質問された。

「別に、懐かしさを感じただけさ。悪いか?」

 そう言い、彼女を少し睨みつけた。

「いや、気になっただけさ。それより今度、王都の方に行こうと思ってね。優火、あなたのところに泊まることにするわ」

「はぁ?」

 後ろに立っていた優火が、わかりやすく不満そうな声を上げた。

「なんでよ、私の家は宿泊施設じゃないんだよ!」

「あ、優火さん、せっかくなら、みんなで泊まりません?あなたの家、それなりに広かったですよね?ロゼリアさんとか、カルラさんとかも呼びましょうよ!」

「なんでみんなして乗り気なんだ・・・」

 少し拗ねたような声が聞こえたが、断るつもりはないのだろう。私はもうじき、魔王城に帰ることになりそうだが。

「___仕方ないな。やってやりゃあいいんだろこんちくしょう!」

 ヤケになった彼女を見守りながら、私達は王都へと帰った。


_____同日の昼下がり、王都騎士団事務所にて


「おいロイター、王都騎士団を辞めるっていうのはどういうことなんだい?」

 俺はかつての先生に問い詰められていた。それも、かなり怒気を含んだ声で。

「どうもこうもありませんよ。私は王都騎士団を辞める。それだけの話です」

 無論、口が裂けてもその理由は言える訳がないので。適当にはぐらかすしかない。それに、俺がこの立場にいて良いのか、未だに不安でもあるからだ。

「だから、その理由を聞いているんだよ。あんたが辞める理由なんて、どこにもないだろう?それにここ150年で、あんたほどの剣士は、数えるほどしか見たことがない。そんなやつがなぜ辞める?」

 彼女の言う通り、はたから見れば、辞める理由はどこにもない。それこそ、部外者が見れば、の話だが。

「ロイター・ヴァリアント、話があるわ」

 そのような話をしていると、もう一人、いや、もう一組の客人が乱入してきた。カルラ・アーサーと、キリア・プレファイスだ。あいつらにこのことを知られていることはないと思っていたのだが、違ったのか?彼女らが段々と歩み寄り、カルラがこちらを睨みつけ、机を拳でぶっ叩いた。

「王都騎士団を辞めるそうじゃないか、ロイター。一体どういうことだ?まさか、あのことで怖気付いたのか?そんなやわじゃないと思っていたんだがな?説明してくれよ」

 答えられるわけもないので、私は沈黙を貫いた。だが数秒後、その沈黙は、カルラによって壊された。

「なんとか言ったらどうなんだよ、なぁ!」

 胸ぐらをつかまれ、強引に壁に押し付けられた。背後にいる二人に助けを求めるような視線を送るが、どちらも完全に無視。そうされるだけのことをしている自覚はあるが、それを曲げるつもりはない。至近距離で数秒間睨みつけ合い、その後カルラが軽く舌打ちをし、私を地面に投げつけた。それと同時に、彼女は自身の魔力をわかりやすく開放した。

「_____言う気はないのね、わかったわ。それがお望みなら、やってあげるわよ」

 そう言い彼女は、腰に下げていた二本の剣を抜き、それを私の方に振り下げようとした瞬間、彼女の動きが止まった。

「カルラ、ストップ。やり過ぎ。ここでやっても、何の意味にもならない。それにロイターもロイターだ。少しはこの問いに答えたらどうなんだ?お前は、王都騎士団の名誉騎士兼団長、だろう?」

 相変わらず場をまとめるのがうまいな。そう思いつつ、魔法により拘束されているカルラと、その拘束をしたキリアに向かい、少しだけ説明をした。

「あんたたちに言うことでもない。俺は俺だ。他人に行き方を邪魔されるつもりはない」

「変わんないね。他人の面倒は見たがるくせに、自分は面倒をかけたがらない。そしてそれ故、人を頼れないし、素直になれない。君の悪い癖だよ。」

 痛いところを付かれた。もちろんそれを顔に出すようなことはしなかったが、こいつなら気付いてもおかしくはない。それに、これに関しては、そうやすやすと言えるようなものではない。だから黙った。それだけの話だ。彼は、俺の表情を見て、すぐにそれがわかったようだった。

「わかったよ。そういうことならこうしよう。ロイター、王都武道会に出るんだろう?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

「じゃあ、君がカルラに負けたら、このことを話すか、アーサー騎士団で暫くの間働くか、選んでもらうよ」

「あ?なんで俺がそんなこと____」

「君にその提案を否定する権利はない。それに、勝てばいいだけの話だ。それとも、王都騎士団の団長様が勝負を投げ出すとでも言うのかな?情けないねぇ」

 俺にはその言葉に反論することもできず、黙ってしまった。

「ま、そういうことだから、僕たちはこれでお暇させてもらうよ。じゃあ、また、王都武道会で」

 そのタイミングで、彼はカルラにかけていた拘束魔法を解き、彼女とともにこの部屋を出ていった。


「はぁ、疲れたわ。まさかあいつがあんなことを言い出すなんて、何があったのかしら?」

「考えても仕方ないよ。あいつが話そうとしない限り、僕たちから詮索するべきでもないし」

 ロイターに確認すべき話をし終えたあと、僕とカルラは王都内を歩いていた。武道会が目前に迫っているということもあって、かなり活気に溢れている。今日の昼ご飯は何にしようか、そんな事を考えていると、カルラが僕の腕に抱きついてきた。

「どうしたの、カルラ。最近あまり会えなかったし、寂しいのは分かるけど、人前でそういうことはしないほうが良いよ、恥ずかしいし」

 そう話しかけると、上目遣いで僕の方を見ながら彼女が答える。

「むぅ、しょうがないじゃん、寂しかったんだし。それに、あんたはもうあたしのものなの。今更そんな事を言ったってしょうがないじゃない」

 そんなふうにしながら言われたので、不覚にもドキリとしてしまった。こいつとの付き合いは長いし、今はそういう関係だが、昔に比べると丸くなったなぁ、と思い、ふと笑みをこぼす。

「ふふ。珍しく素直じゃないか」

「それは、その、キリアといるときくらいは、素直でいようかなって、思っただけよ」

 少し恥じらいが混ざったような、そんな笑みを浮かべる彼女は、いつもの様子からは想像できないくらい、可愛いものだった。それに、思わず頭をなでてしまった。撫でられた彼女も、満足げな笑みを浮かべている。

「それじゃあ、そろそろお昼だし、ご飯でも食べに行こうか。ちょうど行きたかったお店があるんだ」

「ふふ、楽しみね」

 その後1日、僕たちは王都デートを楽しんだ。

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