第11話 紅の悪魔
優火とカルラに招待状を渡した翌日、私はある頼み事をするために木口魔法店にやってきていた。
「優火さーん。起きてますかー?」
ドアをノックしても来る気配がない。おかしい。前に来たときは声をかけただけで来たというのに。仕方ないので諦め、少し周りを歩くことにした。
「にしても、随分歩いたところにあるんですねぇ」
そう。この店、王都の近くにある魔法の森にあるのだが、ここに来るまでにかなりの時間を要した。王都を出てから、大体一時間くらいだろうか。迷ったとはいえ、空から来てこのくらいかかるのだから、地上からならもっと掛かるだろう。しばらく歩いていると、私の魔力探知に何かが引っかかった。
____誰かしらが戦ってる?こんな森の中で?
気になったので覗きに行ってみると、そこには優火と一人の魔族がやりあっていた。様子を見るに、おそらく模擬戦といったところだろう。しばらくすると覗いていることに気がついたのか、「サタン、ストーップ。もういいよ。なんか少し覗いてるやつがいるからね」
「あやや、気づいてましたか。」
「まあね。で、なんの用?冷やかしなら帰ってもらうけど。」
「違いますよ。これです」
そう言い、持ってきていた私のものではない招待状を取り出す。
「えーサタンにはもう渡しちゃったけど?まさかもう一枚?」
「そのまさかですよ。手伝ってもらわないと昨日の件はなしですからね。」
「いややるけどさ、写利空、それ誰に渡すの?」
「いやそれがめんどくさいところなんですよねぇ、押し付けられたというか」
「いいから、早く。」
「____
「げぇ、あの吸血鬼かよ。ハイテンションだし、苦手なんだよなぁ」
「ですよねぇ。同感です。まあうじうじしてても仕方ないし、行きますか。」
「そうだね。行こう。」
うまく依頼を承諾してもらい、私は心のなかでガッツポーズをする。なんせこれを私に渡された理由が、「最悪戦闘になるかもしれないから、対応できる人物に渡してね?」とレオナが言われたらしく、それに足りうると思われて渡してきたものだ。流石にこんなところで死にたくはないので、彼女を誘った。そういえば、まだ隣にいた魔族のことはきいていなかったか。
「そういえば優火さん、一緒にいるその方は?もしかして、彼氏さんとかだったりします?」
「おいわかってて茶化してるだろ。ただの居候。サタンだよ。」
「自己紹介が遅れたな。サタン。元魔王だ。よろしくな。」
「これはこれは、サタン様。私はマジックスタイル編集長の飯綱写利空でございます。以後お見知りおきを」
ちなみにマジックスタイルというのは、私の国で発売されている雑誌である。春、夏、秋、冬、号外の、年四回(+不定期)発行されている。だがそのことは気に留めず、
「飯綱か、懐かしいな。あのバカ烏のことを思い出す」
私の名前を聞いてサタンは、昔を懐かしむような表情を見せる。そういえば、私の家系の先代は、魔法大戦でも活躍したと聞く。何もその妖術から、とても戦場では恐れられていたんだとか。
「ああ、すまない。すこし感傷に浸っていた。写利空、といったか。これから会いに行く吸血鬼の名前はなんという?どうせ知っているんだろう?」
この街にいればわからない人はいないだろうに。かなりの有名人、いや人ではないので有名鬼?まあどちらにせよ、なぜわざわざ聞いてくるんだ?何より只者ではない雰囲気から、なにか企んでいそうで怖かった。
「___ねえ優火さん、こいつ、何者なんです?」
「そうだね、最近復活した、元魔王だよ。ほら、魔法大戦時から生きている、あの」
「!!?」
正直に言おう、信じられなかった。だってそうだろう、死んだとされる魔王が、眼の前に立っているんだから。だが同時に納得もした。150年も前から来たのだから、今のことは仕方ない。だが、だとしたら、彼と、今から紹介する吸血鬼は、知り合い、それも上司と部下のような関係だあった可能性が高い。あの吸血鬼は魔王軍に所属していた、という経歴があるからだ。
「早く言え。こちらも暇というわけではないんんだ。」
彼がいれば、多分うまく収まる。そう確信して、私はその名前を口にした。
「彼女の名前は、ローズ・アーレット、です。」
「ほぉ、あいつか」
なにか少し好戦的な笑みを浮かべる。その笑みは、周りを飲み込んでしまうような、正に、魔王の笑みと呼ぶにふさわしい権威のあるものだった。
「さあ、行きましょうか。時間も結構押してますし」
それに飲まれる前に、私は出発することとした。
____吸血鬼の館につくまで、丸一日かかった。
「あっはっはっ。面白いね君たち。気に入ったよ」
その後、私達は、意外なことにメイド長に通達がいっていたらしく、無事、主のいる部屋へ案内させてもらった。そこで主であるローズ・アーレットと対面しているのだが、まず、ひと目見て感じたのは、なんか女王みたいな人、だった。おそらく目測で私より上背はあるし、それに加え、肩まで伸ばした長く紅い髪が、部屋の雰囲気と相まって、とても映えている。そして何より特徴的なのは、背中に生えた大きな羽だろう。それは黒く、大きく、畏怖のあるものであった。だがそんな見た目に反し、性格に畏怖のかけらなど全く感じられなかった。
「いやー、サタンとは久しぶりにこうやって話したわ。まさかまた会えるなんてね。死んだと思ってたよ」
「まあ、そう思っていても仕方ないさ。死んだことになっていたからな。」
「まあそうか。さて、君たち、何の用で来たんだい?用もないのに来れるようなところじゃないからね。」
そのタイミングで、私は持ってきていた招待状を取り出す。
「これを渡しに来ました。中身はあなたもよく知っているでしょう?」
こう見えても、彼女は王都武道会の常連になれるほどの実力の持ち主である。仕えている者の強さがその証左だろう。
「向こうで渡してくれても良かったじゃない?ここまで来るのも大変だっただろうに。そうねぇ、立ち話も疲れるし、場所を変え___」
と、そのタイミングで話を遮るように、その部屋のドアが勢いよく開いた。
「ちょっとローズ、いい加減に私の魔導書返しなさいよ!」
振り返ると、そこに現れたのは、美人とはっきり言えるほどに整った顔立ちをした、金髪の魔族だった。身長もそこまで高くなく、少女、と言うにふさわしい姿をしていた。
「あれ、お客さん?_____って、え?」
彼女は、サタンの方を見て、驚いたような顔をしている。そしてそれは、サタンも同じだった。それこそ、死んだ人が蘇ったみたいな反応である。その裏には、僅かな希望と、警戒が見て取れた。
「まさか、セリカなのか?」
彼女は、魔王の娘、セリカであった。
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