第二章 王都武道会編
第10話 腐れ縁の烏天狗
魔王討伐任務から2日後、私は優火とともに王都にあるとあるカフェを訪れていた。落ち着きのある店内で、この後に控えることを考えると、合わないよなぁと思いつつ店内に入った。
「いらっしゃいませ。4名でご予約のアーサー様ですね。こちらへどうぞ。」
そう言われ、私達は窓際にあるテーブル席へと案内された。その席には、もうすでに来ていた二人の知り合いがいた。その一人を見て優火は怪訝な顔をした。
「げ、クソ烏、なんでここに?」
そう言われたのは烏天狗の記者、
「あやややや、冷たいですねぇ、優火さん。まあいいですよ。わざわざ和国から来たというのに、ここでターゲットを失っては困りますからね。」
不満そうにする優火に対し、写利空は少し笑みを浮かべている。何かしらの意図を含んでいそうな、正直気味の悪い笑みである。まあ立っているのもつかれたので、椅子に座ることとした。そしてもう一方にいる金髪猫耳少女に声をかける。
「久しぶり、レオナ。待たせた?」
「いや〜、そんな待ってないよ。写利空もいたし、すこし話をしてたからね。」
獣人族である彼女、レオナ・リンクスは、少し優火の方を見つめ、話しかける。
「久しぶり。優火、最近どうなの?上手く行ってる?」
すると優火は、一息置いて、
「それなりに充実してるよ。まあ、こいつに振り回されることもあるけどね。」
そう言いながら優火がこちらを少し睨む。私は何もした覚えがないが。
「おまたせしました。ブラックコーヒー、4つになります」
反論しようとしたところで、おそらく先に来ていた彼女らが注文していたであろうコーヒーが来た。写利空がそれを少し飲み、こちらに目線をよこした。
「全員揃いましたし、本題に入らせてもらってもいいですかね?」
私は無言で頷くと、彼女の手から手紙のようなものが私と優火に渡された。それを見て、私と優火は目を丸くした。
「____なんでこのクソ烏がこんな物持ってるの?これって王都武道会の参加招待状だよね?あれ、あとなんでレオナにはないの?」
その疑問に対し、レオナが答える。
「私は運営側だからね。この武道会の実況をさせてもらうことになったの。仕事の関係でね。だからこいつもいるの。」
そういい彼女は隣りにいる写利空を指差す。なるほど。だからこの二人だったのか。
「まあ、ただで取材させてもらえるわけじゃなかったんですけどね。」
そう言うと、写利空は私達が持っているものと同じ招待状を取り出した。
「____ん、ということは、クソ烏も参加するってことでいいんだよね?」
優火がそれが誰に向けた招待状かもわからないまま、その質問を切り出した。まあ、彼女自体のポテンシャルは問題ではなさそうな気がするが、正直参加してほしくはなかった。相性が悪いため、というのもあるが、こいつが苦手というのが一番大きかった。だが彼女はそれに頷いた。
「それもそうですが、これ、もう一枚あるんですよね。まあ、優火さんなら、何を意味しているかわかりますよね?」
そう言いもう一枚の招待状を取り出し、それを優火に渡す。それが何を意味するかに気付かないほど、私も馬鹿ではない。つまり彼女は、彼女ならば、この大会に足り得る実力者を知っているだろうということだ。
「はぁ。クソ烏からの依頼は気がのらないけど。わかったよ。受ける。報酬は?」
「参加後の独占インタビュー権と和国への一週間分の旅行券四人分をあなたにプレセントします。それでいいですよね?ね!」
彼女、やけに乗り気である。ここまでグイグイ来るから、彼女も嫌っているのだろう。
「わかった。わかったから。一旦離れて。」
「写利空、優火が困ってるよ。離れて。」
写利空の隣りにいたレオナが、彼女を取り押さえる。写利空が机に叩きつけられた瞬間、この机がなぜ耐えられたのかと思うくらい凄い音がした。おお、怖い怖い。あの腕で抑えられたら身動き取れないだろうな。もっともそれを受けている写利空は少しうなだれて、「はいぃ」と返している。彼女を細目で睨みつけレオナが、
「まったく。写利空、ハイになるとグイグイ来る癖、直しなよ。あんたの場合行き過ぎて相手に迷惑をかけることが多いんだから。あと優火、写利空をクソ烏呼びしない。まだ嫌がってないけど、こいつの心はわからないからね。いつやり返してくるかわかんないよ。友達なんだから、仲良くしなさい!」
「友達じゃない!」
「友達じゃありません!」
そんなことを言われて、二人共同じ反応をした。この二人、性格は違えど、似てるんだよな。学生の頃もこんな感じだったし、いがみ合ってはいるし、仲は良くは見えないけど、相性はいい。そういう、なんか、不思議な関係だ。これで友達じゃないというのだから、どちらも頑固なのだろう。そんな反応をされたレオナは、目を丸くして、
「え、友達じゃなかったの?仲良さそうに見えたんだけど?」
「えーヤダなーこんな妖術魔法両方使ってくるうえ頭も回る烏と友達なんて」
「そうですねー空間ごと自身の魔法に落とし込む便利屋とは一緒に居たくないですね」
相変わらず頑固である。それに対し、呆れたように質問する。
「じゃあ、君たちは一体どういう関係なの?」
彼女たち二人は、少し黙ったが、お互いに目を合わせて、こう答えた。
「腐れ縁だね」
「腐れ縁ですね」
そう顔面にうっすらなにか意図を含んだような笑みを浮かべつつ二人は答えた。このときの表情を、私はしばらくは忘れることができないだろう。
「あ、そういえば、その招待状ですけど、招待する種族のことを伝えていませんでしたよね?」
「いや、伝えられなくてもわかるよ。魔族でしょ?」
「そうですね。・・・なんでわかったんです?」
「そりゃあ___________________________」
そのようにして話は進んでいき、一部インタビューまがいのことをして、そのカフェを出た。そのカフェを出禁になったのは、言うまでもない。
その日の夕方、木口魔法店にて
ガチャ、とドアの開いた音がする。魔王城にあるものとは違い、軽く、緊張感のない音。私はまだ慣れていないが、彼女が帰ってきたのだろう。
「疲れた______ってサタン、どこからその魔導書取り出してきたの」
そう言い、我の持っていた魔導書を指差す。
「そうだな、この地下室で少し懐かしいものを見つけてな。少し借りさせてもらってるぞ。」
「いや、それはわかるんだけどさ、なんでこの家の地下室がわかったのよ?私、バレるようなことしたっけ?」
「いや、見つけるのには苦労したぞ。魔力を辿って、魔法暗号を解いて、大体3時間ぐらいはかかったか?よくあそこまでのものを作ったよ。」
「な、なんだと・・・一度突破されて更に強化したというのに?あれを?たった3時間で?」
なぜか知らないが、彼女、ものすごく動揺している。いっそここまで来ると面白く見えてくる。
「________はぁ、まあいいや。それよりサタン、これ」
彼女はそう言い、手紙のようなものを我に渡した。
「何だこれは?なにかの招待状か?」
「お、サタン、察しが良い。それは、王都武道会の招待状でーす。あ、王都武道会って知らないよね。ごめんごめん。そこから話すわ」
すると彼女は、王都武道会についての説明を始めた。
「王都武道会っていうのは、簡単に言えば世界最大級の武道大会。今年は来週、つまり7月の最終週から始まる。そこから、予選がA〜Gの、七ブロックあって、それぞれ一日1ブロックずつ対戦して、各ブロック1位が、決勝トーナメントに上がれる。この予選に参加できるのは、1ブロック四人。つまり二十八人の招待された者たちが、予選に参加できる。そこからふるいにかけて、敗者復活枠も含めると八人が決勝トーナメントに上がれる。決勝は1V1だから、ここで三回勝てば優勝。まあ、そんな簡単じゃないんだけどね。まあ、1週間後だから、気長に準備してよ。」
説明が終わり、再び自身に渡された招待状を見る。なぜだか少し、あの因縁のエルフの影を感じる。やはり彼女は昔から変わっていないようだ。少し安心した。
その日の夜 ヴァイオレット邸にて
今年もこの季節がやってきた。そう。王都武道会である。この国の七月の風物詩と言ってもいいくらい、盛り上がるし、楽しめる。そう私、風間美咲は、そのイベントを楽しみにしていた。闘技場での決闘は、殺し合いとはいえ、スポーツのようなもので、やられても悔しいという感情が残るだけだ。そんな事を考えながら自室でくつろいでいると、ドアからノックの音がした。
「美咲、起きてるかしら?」
そこには眠そうな顔をした寝間着姿のお嬢様の姿があった。尊い。
「起きていますよ。どうしたんですか?まさか寝れないとか?添い寝してあげましょうか?」
そうではないと思うが、そうであってほしい。それならば添い寝してもいいという何よりのご褒美をもらえる。私はこれを生きがいにして生きていると言っても過言ではない。だがもちろん、そんなことはなかった。
「違うわよ。急用で、やることができたの。しばらくこの館をあけるから、お留守番お願いねって言いに来ただけよ。」
正直気が進まなかった。今はメイド服姿ではないが、この家のメイド長として、やらなければならないことなのはわかっている。だが、次に紡がれたことだを聞いて肯定せざる絵を得なくなった。
「まあ、そうね。そのお詫びとして、あなたがしたいことの一つくらいなら、してあげてもいいわよ。あ、もちろん常識の範囲内で、ね。」
「じゃあ今日、私と一緒に、寝てくれますか?」
あえて甘えるような声で言う。するとお嬢様は優しく、
「いいわよ。こういうのも久しぶりね。六年ぶりくらいかしら。」
と答え、笑いながら私のベットに腰を掛けた。その姿も素敵だったので、しばらく見てれていたが、眠そうな顔で「早く寝ましょう。明日もあるんだから」というお嬢様の声で意識が戻った。私はそれに笑顔で「はい。お嬢様が素敵なので、つい見てれてしまいました」そう言い、私はお嬢様とともにベットに入る。
「・・・変わったわね。美咲は」
ベットに横になりながら、お嬢様はそう言葉をこぼした。その表情は少し懐かしんでいるようにも、自嘲しているようにも見えた。私が寝た振りをしているのには、気がついていないようだ。なぜだろうか。私も少し、お嬢様の気持ちがわかる気がする。長く一緒にいると、やはり相手のこともわかってくるものだ。そしてそれと同時に、この関係がずっと続けばいいな、とも思った。もう、報われなかった人生に、戻るのは嫌だったから。自身のやったことに、後悔はしたくない。だが、もっと良い選択があったのではないか、と思う。こうすればよかった、ああすれば助かった。しても仕方がないというのに、未だに幼かった頃の夢を見る。焼けていく館、人々の悲鳴、そしてその中に立っていた、私の姿。もう二度と、あんな過ちを繰り返してはいけない。そう思い私は、深い眠りの海へと飛び込もうとするのであった。
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