文例3『お飲み物はいかがなさいますか?』 (傍観者型、一人称との混在型)
「おっと、今日は当たりだ!」とお前は突然声をあげた。
「え、何だって?」と訊かれるが、お前は答えなかった。
間もなく一番レジが空いた。先頭にいたお前は連れの背中を押してそこに行かせた。
そしてお前は次に空いた真ん中の二番レジに向かった。
「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」
「はい」
「では、ご注文をどうぞ」
「ヒューストンバーガーのセットで」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
ドリンクを訊かれたお前は、返事をする代わりに紙切れを女子店員に見せた。「これで」
彼女は紙切れに目を走らせた。
「承知しました。お会計は六百円です」
お前はそっぽを向くようにカウンターとは反対の方を向いてオーダーが揃うのを待った。
一方、二番レジの彼女は三番レジの女子店員に紙切れを見せ、何かひと言ふた言囁きあった。
三番レジの女子店員はドリンクを三つ用意していた。コーラ、オレンジジュース、そして最後のひとつにはウーロン茶を注いだ後にジンジャーエールを注ぎ足した。
お前はよそ見をしていたからそのことに気づかなかった。そしてその特製ドリンクはお前のもとへ渡った。
「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
トレイを受け取ったお前は蓋越しにドリンクを見つめた。そしてテーブル席に向かった。
テーブル席ではバーガーにかぶりつく者がいる中、お前はじっとドリンクを見つめ、やがて意を決してドリンクに挿したストローをくわえた。
ストローが茶色に変わった瞬間、お前は顔をしかめ、「……だよねー」と叫んだ。
「ん?」とお前の連れが不思議そうにお前を見たが、俺はいつものようにポーカーフェイスを維持しつつも心の中では大笑いしていた。
どんな味がしたのだろう。
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語り手が「お前」のすぐそばにいるタイプである。傍観者型だとあなたは理解する。
そして最後になって語り手は「俺」と言って舞台に姿を現す。
二人称小説の場合、一人称との混在がよく見られることをあなたは思い起こす。
人称の混在は、三人称と一人称の混在が不自然である一方、二人称と一人称の間では自然に行えることをあなたは改めて知ることとなった。
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