文例5『お飲み物はいかがなさいますか?』 (過去形の多用、裁判型)
〇〇年○○月○○日午後○○時、あなたは東京都千代田区神田駿河台○○にある飲食店「クイーンズサンド」○○店を二人の高校生を伴って訪れた。
店内に入ったあなたは、二番レジに意中の女子高生店員がいることを知って高ぶり、「おっと、今日は当たりだ!」と声を発した。
「え、何だって?」と問う連れの高校生を別のレジに押しやり、あなたはわざわざ二番レジに向かった。
「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」と二番レジの彼女は営業スマイルを浮かべる。
しかしあなたは彼女が自分に気があるかもしれないと思っていた。
「はい」と答えながら、あなたはひたすらタイミングを計っていた。
「では、ご注文をどうぞ」
「ヒューストンバーガーのセットで」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「これで」と言って、あなたはいつでも使えるように用意していた例の紙切れを彼女に見せた。
彼女をデートに誘う文言を書いた紙きれだ。そこにはこう記してあった。
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こんど遊びに行かない? 返事はドリンクで返して。
「よろしくね♡」→コーラ
「あなたのことまだ良く知らないわ。だから保留。また誘って」→オレンジ
「タイプじゃないわ 二度と誘わないで」→ジンジャー
「私、彼氏いるの。だからダメ」→ウーロン
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「承知しました。お会計は六百円です」彼女は普段通りに応対した。
あなたは飲み物としてコーラが出てくることを期待していた。
もし本当にコーラが出てきたら、どこに行こうか。あそこに行って、その次はあそこに行き、そして最後は……とあなたは彼女に背を向けながらあれこれ妄想した。
「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
彼女に差し出されたトレイを受け取り、あなたは連れの二人の高校生とともにテーブル席へと移動した。
連れの高校生がハンバーガーを食べる中、あなたはしばらくの間、ドリンクをじっと見つめ、それが何なのか思いめぐらせ、そうしてようやく意を決してドリンクを飲んだ。
そして、その味がコーラでなかったことにあなたは気づいた。
あなたは落胆し、「……だよねー」と声をあげた。
「ん?」と不思議そうな顔をする連れのこともすっかり忘れ、あなたはため息をついて何が悪かったのだろうと
以上、間違いないですね?
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過去形を多用する裁判型だとあなたは理解する。
この語り手はエピソードの場にはいなかった。どこからか情報を仕入れ、まとめ、「あなた」の行動を順次列挙し、ときには「あなた」の心中への憶測を交えて、語っているのだとあなたは解釈する。
最後に「間違いないですね?」を入れることで、一人称との混合型にもなるとあなたは思う。
この文例、口調を変えることで全く別の様相を呈するのではないかとあなたは気づく。
そしてそれが次のページにあるのではと思って、あなたは次のページを見るのだ。
もうあなたは止まらない。眠れない。
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