文例6『お飲み物はいかがなさいますか?』 (過去形の多用、尋問型)
お前は店に入って、それらしい人間がいないかと窺った。そして二番レジの店員がそうではないかと思い、わざとらしく、よく透る声で叫んだ。
「おっと、今日は当たりだ!」
「え、何だって?」というツッコミが入るのも織り込み済みだ。
お前は順番が来たのに、空いた一番レジに後ろにいた連れを向かわせ、自らは二番レジに立った。
「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」
「はい」
「では、ご注文をどうぞ」
お前たちはありふれたやりとりを交わした。しかし互いにそれぞれの役割を認識していたはずだ。
「ヒューストンバーガーのセットで」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
そこでお前は仕込んでいたメモを相手に見せ、「これで」と言った。
二番レジの店員は取引に応じた。
「承知しました。お会計は六百円です」
お前たちは会計をしながらさりげなくやり取りをしたはずだ。
「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
店員に渡されたトレイを持ち、お前は連れの高校生とともにテーブル席についた。
一緒にいた高校生は仲間ではなく周囲をごまかすための単なるモブだ。
しばらくお前はタイミングを見計らっていた。もう一人の男が席につくまでだ。
そしてもう一人の若い男が近くのテーブル席についた瞬間、お前は飲み物を吸い込み「……だよねー」と奇声を発した。
「ん?」と不思議そうにお前を見る高校生がいるのが幸いした。
それを合図に、もう一人の若い男が立ち上がったのだ。
そいつが二番レジの女子店員のところに向かい、その店員からさきほどのメモを受け取る手筈になっていたということだ。
そうだな?
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その場に張り込んでいた刑事が語り手だとあなたは思う。
過去形を多用しているが、二人称が「お前」になっていたり、少々乱暴な語り口から尋問型だとあなたは思う。
尋問を受けたことのないあなたには実際の尋問がどのようなものかわからない。この文例の作者もおそらくは刑事ドラマの安っぽい尋問シーンを参考にしてこれを書いたのだろうとあなたは推察する。
いずれにせよ、二人称が「お前」になるだけでも随分と印象が変わるものだとあなたは思った。
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