文例8『お飲み物はいかがなさいますか?』 (現在形の多用、催眠術型)
あなたは千代田ゼミナール現役部に通う高校生。
今日は夜の講習の前に小腹を満たすために連れの高校生ふたりとともに近くにあるファーストフード店クイーンズサンドに来ました。
店に入った瞬間、あなたの目に真正面二番レジの少女の姿が映ります。
その神々しいまでの美しい姿にあなたは興奮を覚えます。
「おっと、今日は当たりだ!」とあなたは思わず声に出してしまいます。
「え、何だって?」と問う連れの声などただの雑音にすぎません。
あなたはその連れを隣の一番レジに向かわせて、自分は彼女がいる二番レジに立ちます。
「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」
彼女の美貌は夢にまで見たものです。
「はい」とあなたは上擦った声で答えます。
「では、ご注文をどうぞ」
あなたは答えます。「ヒューストンバーガーのセットで」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
その問いを聞いた瞬間、あなたにスイッチが入ります。
あらかじめ用意しておいたメモを懐から取り出します。そして「これで」と言って彼女に見せます。
「承知しました。お会計は六百円です」
彼女の笑顔にあなたは心臓を撃ち抜かれます。
あなたは落ち着かない心持ちでセットが用意されるのを待ちます。
「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
あなたはハンバーガーのセットが載ったトレイを連れの高校生とともにテーブル席まで運びます。
そして最後の仕上げです。
そのドリンクの味は何なのか。その味によってあなたの反応は決まります。
あなたは蓋にストローを挿します。
そしてストローの先を口にくわえます。
一息吐いたのち、あなたは一気にドリンクを吸います。
あなたの舌にドリンクの味が伝わります。
そしてあなたは言葉をもらします。
「……だよねー」
「ん?」という連れの声を聞いても、あなたはただその苦い余韻にひたります。
どんなことがあっても、今もなお、彼女はあなたにとって女神に変わりはないのです。
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これこそ二人称小説の真骨頂。現在形多用の催眠術型をあなたは堪能する。
「あなたは……する」という口調にあなたは催眠術をかけられ、物語の主人公に同化していく。
小説の中の世界にひたる、その主人公に感情移入する、それには一人称よりも二人称の方が効果的だとあなたは思うようになる。
動作分割する技法も催眠術型に適している。
さあ、あなたも書きたくなる、二人称小説を。
あなたはその技量の最善を尽くして二人称小説を編み始める。
あなたもはまる二人称小説 はくすや @hakusuya
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