第12話 吸血鬼ボイラ

 シャルロットの城から更に北西。深い霧の中にそびえ立つ古城。


 ボイラ家が代々当主を務めるその城に、奇妙な馬車が次々と集まっている。


 赤い目をした漆黒の馬が引っ張るその車から、物騒な表情をした吸血鬼の当主たちが降りてくる。


「お待ちしておりました。ボイラ様は城内の食卓でお待ちです」

 

 タキシードを着たグールがお辞儀をしながら吸血鬼達を迎え、城内へと招き入れていく。


 傍から見れば吸血鬼の決起集会。そんな恐ろしい光景を、バルバロッサ達は直ぐそばの岩場から観察していた。


「おいおいなんだあいつら。どいつもこいつもそれなりに名の通った吸血鬼ばっかじゃねえか」


 双眼鏡を除きながら、バルバロッサは驚愕する。


「ボイラ家は本気で天下を取る気なのよ。今集まってるのはボイラ家の計画に賛同した吸血鬼達。これ以上戦力を蓄えられたら堪ったもんじゃないわ」


「それで今すぐ潰したい訳か。上手いこと利用されたな」


 シャルロットの愚痴に、ミカエラがため息をつく。


「おいおい。ありゃ相当大物の吸血鬼じゃねえか。こりゃ気合い入るぜ」


 浮ついた声を上げ、バルバロッサは双眼鏡から目を離す。


 そして事前にシャルロットから手渡されていた古城の図面を広げ、ボイラ家攻略の作戦を説明し始めた。


「ここが正面玄関。ここをぶち破って中に進入し、中にいる吸血鬼達を殲滅。その後各部屋の財宝を物色し、馬車に積み込んで逃走。質問は?」


「質問というか文句ならあるわ」


「つまり内容は理解できたってことだな。よしそうとなれば直ぐ決行だ」


 シャルロットの文句を無視し、バルバロッサは一人城の玄関へと走り出した。


「諦めろシャルロット。これがバルバロッサと共にいるということだ」


「あいつ組織作ってもすぐに潰すんじゃないの?」


「……いや、案外そうでもなさそうだが」




 古城のある一室。城内でも最も広い部屋には巨大なテーブルが設置され、それを囲うように吸血鬼達が座っている。


 テーブルにはワインや血液、数多の動物の生肉などが並び、吸血鬼達がそれらを堪能していた。


「こんな豪華な食事なんていつぶりだ? 最近は不景気だったからな」


 金髪の吸血鬼が声を発す。


「ああ。冒険者や衛兵の締め付けも随分きつくなったからな。吞気に狩りもできやしない」


 隣にいた長髪の吸血鬼が答える。


「冒険者の数が増えたにも関わらず吸血鬼は減る一方。先祖代々の城を捨て、洞窟でひっそりと過ごす日々。討伐依頼書がステータスだった時代はとうの昔か……」

 

「おいおいそう落ち込むなよ。そんな日々も今日までさ。そのためにボイラ家の計画に賛同したんだろう」


 落ち込む金髪の吸血鬼を、長髪の吸血鬼が慰める。


 周囲にいる者たちも今までの経験を思い出し、涙ぐむ者もいた。


「失礼します。当主様がお見えになりましたので、皆様ご静寂にお願いいたします」


 タキシードを着た顔色の悪い執事がそう言うと、賑やかだった部屋に静けさが生まれる。


 それからしばらくすると、執事は扉を開ける。


 すると、扉の奥から豪華な服に身を包んだ吸血鬼が姿を見せた。


 ボイラ家の現当主。オイラーク=ボイラだ。


 ボイラは皆に一礼されながらテーブルの上座に向かい、そこに置かれた椅子へ腰かける。


「皆、今日はよく集まってくれた。料理の味はどうだったか?」


「こんな絶品を食べたのは久しぶりです」


 ボイラの問いかけに、長髪の吸血鬼が答えた。


「それはよかった。これから私の下へと付いてくれる者たちに、相応しい物を提供できたようだ」


 ボイラはテーブルに置かれたワインを手に取り、香りをかぐ。


「吸血鬼の当主が誰かの下に着くことは相当な屈辱だ。それが例え同族であっても。だからこそ、私は尊敬する。自らの恥を知りながらも、吸血鬼の未来のために行動する諸君らをだ」


 ボイラはワインを掲げる。


「私はその心意気を無駄にはしない。この先どんな困難が訪れようと、必ず吸血鬼の栄光を取り戻してみせよう」


 ボイラが演説を終えると、他の吸血鬼達が一斉にワインを掲げた。


「世界をこの手に」


 乾杯の音頭を終えようとした時、突如として扉が蹴破られ、一人の吸血鬼が部屋の中へ投げ込まれた。


 突然の出来後に、周りの吸血鬼たちは困惑が隠せていない。


 しかし、ボイラだけは冷静を保ち、扉の奥に佇む人物を見つめていた。


 


 


 

 




 

 


 


 


 

 

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追放された元冒険者、無法地帯で成り上がる。 久佐朗 @kyusaburo

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