第11話 交渉

「そりゃ俺らはそこらで名を上げた程度の冒険者じゃねえからな」

 

「あら。じゃあなんなの?」


「未来の大金持ち」

 

「死になさい」

 

 周囲の影が鋭い針と化し、バルバロッサを襲う。

 

「ちょっと待てって。俺らはお前のスカウトにだな。ちょ、これ止めてくんない?」

 

 バルバロッサは自身を襲う影の針を右手で掴み抑えている。


「スカウト? あなた達が? 私を?」


 シャルロットは笑う。

 

「馬鹿にしないで頂戴。私はいつか全吸血鬼の王になるのよ。人間の下に着くほど落ちてないわ」

 

 バルバロッサを襲っていた影の力が更に強くなる。

 

「ちょちょちょっと待て! だったら協力関係ってのはどうだ? 俺らはこれから翼の大地に向かう。全吸血鬼の王になるってんなら、当然翼の大地にだって行くだろ? その時の仲間はちょっとでも多い方がいいと思うぜ?」

 

 バルバロッサは腹の底から声を出して訴える。


「つまり立場は対等ってこと?」

 

「そうそうそう。納得してくれ……ってないな。力余計に強くなってるじゃねえか」

 

「対等はダメよ。下僕か奴隷でないと」


「お前が?」


「あんたたちがよ!」


 シャルロットは影の力を更に強くする。


「……もう無駄だろうバルバロッサ。価値観が違いすぎる」


 いつの間にか戦いから離脱し、近くのソファーでくつろいでいたミカエラが、呆れ気味でバルバロッサを諭す。


「あら。お連れの人間はよく分かってるみたいね。だったらとっとと死になさい!」


 シャルロットは背後にもう一本、影の槍を生み出す。


 そしてそれをバルバロッサ目掛けて放とうとした、その時だった。


 バルバロッサ達が入ってきた玄関の扉が突如として破壊され、周囲に砂埃が舞う。


「なんだ?」


 ミカエラは玄関の方を向き警戒を強めるが、シャルロットはその顔を青ざめさせた。


「まずい!」

 

 シャルロットは慌ててバルバロッサに向けていた影の槍を戻し、砂埃の方へ向ける。


 するとやがて、砂埃の中から事の犯人が姿を見せた。


 白い肌に赤い目、そして長く鋭い牙と爪。


 それは間違いなく吸血鬼だった。


 吸血鬼はバルバロッサやミカエラには興味を示さず、一直線にシャルロットの方へと飛んでいく。


 シャルロットは歯を食いしばり、迎撃の態勢をとる。


 やがて二人の吸血鬼が衝突する、その直前。


 バルバロッサの左手が吸血鬼の頭を掴み、地面へと叩きつけた。


 吸血鬼は顔を地面にめり込ませ、身体を痙攣させている。


「横入りはよくねえな吸血鬼くん。シャルロットは今俺と話してんだ」


 バルバロッサは左手で吸血鬼の腰に座り込み、頭を地面に抑えたまま嘲るように笑う。


 シャルロットはその光景に、ただ息を飲むしかなかった。


「あなた……何者なの?」


 シャルロットは声を震わせながらバルバロッサに問いかける。


「言ったろ。未来の大金持ちだって」


「そうじゃないわよ。あんたが今椅子代わりにしてる吸血鬼は、ここらじゃ相当な実力者よ。そうでなくても、吸血鬼が片手で制圧されるなんて、ありえないわ」


 シャルロットの表情には疑問と屈辱が混ざっている。

 

「そりゃ、俺だって地元じゃ負けなしだったからな。普通の吸血鬼ぐらい屁でもねえ」


 バルバロッサはそう言いながら、すっかり気を失った吸血鬼から指輪などの装飾品を剝ぎ取り、ミカエラへ投げ渡した。


「追い剝ぎか? 趣味が悪いな」


「いいじゃねえか入り用なんだよ。この服仕立てるのに全財産使っちまってな。このままじゃ翼の大地に行ったって餓死しちまう」


 ミカエラはため息をつき、バルバロッサから渡される装飾品を持っていた袋に入れていく。


 その奥でシャルロットは何か決心を固めたような顔を浮かべ、やがてバルバロッサの下へと歩き出した。


「ねえあんた達。私の依頼を受けるなら、翼の大地に同行してもいいわよ?」


 シャルロットはまだプライドの残る声でバルバロッサ達に話しかける。


「依頼だと?」


 ミカエラが問いかける。


「ええ。内容は、あんた達だったらそこまで難しくないでしょうね。ある吸血鬼の一族を私と一緒に滅ぼして欲しいのよ。今すぐに」


「そりゃ、物騒な依頼だな。で、その一族ってのはどこの連中だ?」


「……ボイラ家よ。今ほかの一族を吸収して急速に勢力を拡大しているの。その吸血鬼もそいつらの手先よ」


「ボイラ家? ああ、あいつらか」


 バルバロッサはどこか心当たりのありそうな顔を浮かべた。


「ボイラ家はジンバッド家と昔から仲が悪くてね。それまで家の顔だったお父様が亡くなってから猛攻撃を受けて、今じゃジンバッド家は私1人よ」


 シャルロットは半場やけ気味に答える。


「それで他の吸血鬼を殺して回っていたと言う訳か」


「そうよ。1人になったからと言って、ジンバッド家を潰す訳にはいかないわ。だから恥を忍んであんた達に頼み込んでるのよ」


「その割には態度が大きがな。……どうするバルバロッサ。ボスはお前だ。私はその決定に従おう」


 ミカエラはバルバロッサを見つける。


 バルバロッサは口元を緩ませ、吸血鬼から立ち上がる。


「要はボイラ家の奴らはっ倒せば吸血鬼の王族が仲間に加わるってわけだ。こんなにいい話はねえ。軍隊に追いつかれる前に片付けちまおう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追放された元冒険者、無法地帯で成り上がる。 久佐朗 @kyusaburo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ