第10話 吸血鬼
「さてさて。上手いことタダ飯にありつけたし、このシャルロットって奴を勧誘しに行くか」
バルバロッサは歯を爪楊枝でほじくりながら依頼書に再び目を通す。
「随分と唐突だな。いきなり勧誘して、仲間に入ってもらえる確信があるのか?」
ミカエラが尋ねると、バルバロッサは笑って返す。
「ある訳ねえだろ。吸血鬼ってのはプライドが高いんだ。死んでも人間の下にはつかねえ。王族だってんなら余計にな。まともに話を聞いてもらえるかすら怪しいぜ」
バルバロッサの返答に、ミカエラは目を点にする。
「つまり当てずっぽうか? よくそこまで自信があるな」
ミカエラはため息をつく。
その時少し、バルバロッサに付いてきたことに後悔が生まれた。
「俺とお前がいれば何でもできる。そうは思わんか?」
「適当に丸め込もうとするな。全く。楽観的な男だ」
ミカエラの言葉にバルバロッサは笑って返した。
そして2人は歩みを進め、ある深い森へと入っていく。
「雰囲気あるな。何も見えねえ」
バルバロッサは辺りを見渡して呟く。
日はすっかり沈み、灯りはどこにも見えない。
地面に何があるのかすらも確認できない程、辺りには闇が広がっていた。
「こんな場所に吸血鬼の住処があるのか?」
「こんな場所だからこそあるんだ。吸血鬼ってのは日の光を極端に嫌うからな。……おっ、あれじゃねえか?」
バルバロッサは前方に見えた古城を指さす。
古城の全貌は辺りの暗さもあって把握できないが、それでも禍々しさが伝わってきた。
入口と思われる巨大な扉の奥からは冷気が漏れ、重い空気が漂っている。
「……凄いな。今まで感じたことの無いオーラだ」
ミカエラは思わず息をのんだ。
バルバロッサはそんなこと気にもかけず、入口の扉に手を着ける。
そのまま両手に力を込めて奥へと押し込むと、扉は木がきしむ音と共に開いた。
「お邪魔するぜー」
バルバロッサは気の抜けた声と共に城内へと入る。
ミカエラもバルバロッサの後に続いた。
「おー結構豪華だな」
暗い城内の天井からはシャンデリアがぶら下がり、床には真っ赤なカーペットが敷かれていた。
バルバロッサとミカエラが見渡していると、どこからか声が聞こえてくる。
『あら。招待したつもりはないんだけど』
声と共に冷気が城内に循環する。
「ちゃんと入る時挨拶はしたぞ」
バルバロッサはどこに居るのかも分からない声の主に返答する。
『許可してないのだけど。勝手に侵入なんて、人間は行儀がなってないわね』
声の主はクスクスと笑う。
「そっちこそ姿を見せずに会話なんざ、行儀がなってないな」
『侵入者におちおち姿を見せるとでも思ったの?』
声の主は再び笑う。
「どうするんだバルバロッサ。今のところ完全にこちらが不利だぞ」
「ちょっと待て今ジャストな言い訳を考えてるところだ」
バルバロッサは頭を抱えて考える。
『もういいわ。相手するだけ時間の無駄よ』
声の主はため息をつき、その後指を鳴らす。
すると2人を囲うように幾つもの魔法陣が現れる。
『精々耐えて頂戴。【死者の集会】』
魔法陣が光る。
すると、そこから無数のゾンビ達が姿を見せた。
「なんだこいつらは。人間ではないようだが」
ミカエラは迫りくるゾンビに警戒しながら問いかける。
「吸血鬼が使役してるゾンビだ。吸血鬼ってのはアンデッドの王みたいなもんだからな」
バルバロッサは斧を構える。
「ゾンビ……。なら、遠慮をする必要もないな」
ミカエラは腕を竜化させると、拳を作り、迫りくるゾンビに向けて撃ち込む。
拳はゾンビの頭を吹き飛ばし、辺りには肉片が散らばる。
「なんだ、これは」
しかし、ゾンビは倒れることもなく進み続ける。
ミカエラは再び拳を撃ち込むが、事態は変わらない。
「アンデッドってのは基本的に不死身だ。身体に大穴空いたくらいじゃ倒れねえ」
バルバロッサはそう言いながら斧に魔力を込め、ゾンビの頭に振り下ろす。
すると、ゾンビは断末魔をあげ、灰となって消滅した。
「倒すには、さっきみたいに魔力に当てるか、何でもいいから跡形もなく消し去るかの二択だな」
「跡形もなく……か」
ミカエラはゾンビの方を向き、大きく息を吸ってほほを膨らませ、巨大な炎を吐き出す。
炎を浴びたゾンビはその瞬間に塵1つなく消滅した。
「おいミカエラ。その炎ちょっと借りるぜ」
バルバロッサはあたりに散った残り火へ魔力を流し込み1つへ集めると、残りのゾンビに向けて放つ。
炎が放たれると同時に爆風が起き、ゾンビ達は一瞬にして一掃された。
「……熱いな」
ミカエラは腕で顔を隠し熱風を防ぐ。
その隣でバルバロッサは笑っていた。
『あら。意外とやるじゃない』
どこからか声が聞こえると、階段の手すりに一人の少女が表われた。
「あのゾンビ達を倒すなんて。一応、そこらで名を上げた冒険者風情じゃ相手にもならなかったのよ。あの子たち」
少女は長い銀の髪を左右で束ね、黒と白のドレスを纏っている。
そして、不敵に笑うその口元には鋭い2本の牙が見えていた。
バルバロッサとミカエラは、この少女がシャルロットであるとすぐに確信できた。
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