第2章 吸血鬼抗争編

第9話 討伐依頼

 広場から数キロ離れた先にある小さな街。


 都会の謙遜から切り離された平穏な地域のある酒場で、バルバロッサとミカエラはテーブルを囲っていた。


「というわけで、バイソン・ファミリーの旗揚げを記念して乾杯!」


 バルバロッサはジョッキを持ち上げ、一気に飲み干す。


「バイソン・ファミリー? なんだそれは」


 ミカエラはビールを二杯飲み干して尋ねる。


「ああさっき考えたんだ。いい名前だろ。翼の大地で一発当てるには、でけえ組織を作るのが一番だからな」


「……なる程。という事は、他のメンバーも既に確保済みなのか?」


「いんや。お前以外いねえよ。まあ翼の大地に入るまでに一人ぐらいは確保したいな」


 バルバロッサは笑いながらテーブルの肉に手を伸ばし、ミカエラは頭を抱えながらため息をついた。


「まあそう落ち込むな。俺らなら何とかなるさ」


「だと良いのだがな」


 ミカエラは悩むことをやめ、運ばれてきた料理に手を伸ばす。


 そして時間が進み、日が沈み始めた頃。


 店にいた他の客が焦った様子で帰り始めた。


 店主もそそくさと片づけをはじめ、バルバロッサ達の方へ寄って来た。


「お客さん。もう店じまいだから帰ってもらえるかね」


「もう店じまい? 酒場なのにか」


 普通酒場は夜の営業が本番だ。


 昼間から酒を飲む輩はいるが、夜の方が圧倒的に多い。


 だからこそ、バルバロッサには店主の言っていることが理解できなかった。


「ええ。最近、この辺りで吸血鬼が縄張り争いみたいなことをしてるんですよ。そのせいで夜出歩けなくってね」


 店主はため息をつきながら店内のテーブルを周り皿を片付けていく。


 そしてバルバロッサのテーブルに来た時、椅子にもたれかかったバルバロッサの斧を目にした。


「お客さん。随分と物騒なもんを持ってるが、もしかして冒険者かい?」


「え? まあな」


 店主からの問いかけに、バルバロッサは適当に返事をする。


「なら頼まれてくれよ。いい身なりしてるんだ、結構な手練なんだろ? 今依頼書持ってくるからよ」


 店主はバルバロッサが返事をする暇もなく、店の裏へと消えて行った。


 少しして再び姿を見せると、今度は手に依頼書を持ってバルバロッサの下へ駆け寄る。


「こいつがその吸血鬼だ。あっちこっちで同族を殺し回ってるらしい」


 店主はそう言って依頼書をテーブルへ叩きつける。


 紙には討伐依頼書と書かれており、右上に討伐対象の写真、それ以外には討伐対象の情報が記されていた。


 バルバロッサは依頼書を手に取り目を通す。


「えーっと、名前はシャルロット=ジンバット。なんだガキっぽい見た目だな」


 依頼書に掲載された写真には、ツインテールの華奢な少女が写っていた。


 知らぬ人が見れば、貴族か商人の娘だと認識するだろう。


「討伐レベルは、18? 随分高いじゃねえか。この辺りの吸血鬼なんてせいぜい高くて10いくかどうかだろ?」


「そいつは吸血鬼の王族なんだ。力も他の吸血鬼なんて比較にもならないぐらい強いらしい」


「へー王族ねえ」


 バルバロッサは顎を手で触り、何かを考える。


「よし。引き受けよう。行くぞミカエラ」


「え? あ、ああ分かった」


 ミカエラは困惑した顔を浮かべながら、バルバロッサと共に店を後にする。


「頼みましたよ。お客さん」


 店主はやたら大きく見えるバルバロッサの背を見つめそう呟く。


 バルバロッサがさらっと食い逃げをしたことに気が付くのはその後だった。

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