第8話 ドーベル VS バルバロッサ
バルバロッサが先に動いた。
斧がドーベルの頭目掛け振り下ろされる。
ドーベルはその斧を剣で防ぎ、そのまま反動をつけて弾き返す。
バルバロッサの身体は後ろへ反れるが、すかさずドーベルの右側から瓦礫を飛ばす。
瓦礫はドーベルを直撃し、一瞬の隙が生まれた。
バルバロッサはそれを逃さず、ドーベル目掛け斧を振る。
ドーベルは剣でその攻撃を防ぐが、さっきの瓦礫が影響し思うように力が入らない。
結果衝撃を抑えきれず、ドーベルは瓦礫の進行方向へ弾き飛ばされる。
ドーベルの身体は広場の周囲にある建物に直撃し、壁に大きな穴を作って止まった。
その衝撃で辺りに土埃が舞い、周囲の視界を奪う。
そしてその刹那、土埃の中から縦、横、斜めの赤色の斬撃がバルバロッサに向かって飛んで来た。
バルバロッサは斧を構えてその斬撃を受け止める。
しかしその直後、剣を赤く光らせたドーベルが斬撃よりも速く飛んで来た。
それを見たバルバロッサは、ドーベルが自身に到達する瞬間、地面を強く蹴って空中へ飛び上がる。
10メートル程浮上した後、バルバロッサは斧を赤く光らせ振り上げる。
しかしドーベルも同じく地面を蹴りあげ、一瞬でバルバロッサよりも高く浮上した。
「おいおいマシかよ」
バルバロッサは思わず声を漏らした。
ドーベルはバルバロッサ目掛け空中から剣を振り下ろす。
バルバロッサはそれを斧で受け止めるが、そのまま地面へと叩きつけられ、その場に大きなクレーターを作った。
ドーベルはすかさずクレーターの中で横たわるバルバロッサへ追撃を始める。
落下しながらバルバロッサの首元に狙いを定め剣を構える。
その時、バルバロッサは下から無数の瓦礫を飛ばす。
ドーベルは飛んで来る瓦礫を剣で掃い剣を振り下ろす。
バルバロッサは斧を両手で横に持ち、ドーベルの一撃を受け止めた。
「……少し弱くなったか?」
ドーベルが呟く。
「お前こそ。ちょっと頭悪くなったんじゃねえか?」
バルバロッサがそう言うと、突如としてドーベルの背後に数丁の宙に浮いたライフルが現れた。
どのライフルも装填を終え、銃口をドーベルへ向けている。
ドーベルは珍しく冷や汗をかき、息を吞む。
バルバロッサは静かに笑うと、ライフルの引き金を一斉に引く。
銃口から弾丸が発射された瞬間。
ドーベルは身体を回転させ後ろを向く。
そして全ての弾丸を僅か一太刀で振り払った。
一見すると神の技だが、この悪手となる。
ドーベルが背を向けた事で生まれた隙を、バルバロッサは見過ごさなかった。
バルバロッサはドーベルが弾丸を振り払った瞬間、斧でその背中を切り裂く。
ドーベルの身を覆っていた鉄製の鎧に大きな切り傷ができ、その奥から血があふれた。
「物陰に潜んだ狙撃兵の存在に、俺が気付かないとでも思ったか?」
倒れるドーベルを見てバルバロッサは笑う。
ドーベルは息を整え、バルバロッサの方を向く。
「はあ……はあ。何年経ってもずる賢い奴だ」
「それが味ってもんだろ」
バルバロッサはドーベルに向けて再び笑う。
「それより、そろそろ見逃しちゃくれねえか? 流石の俺も、今のままじゃお前の相手をするのはきついんだよ」
バルバロッサは頭を搔き、わざとらしくそう言った。
「人の目が無ければしてやらんこともないが。ここまで派手にやられるとそうもいかん」
ドーベルは再びバルバロッサに剣を向ける。
「そうか。じゃあ無理矢理にでも逃げるぜ」
「俺からそんなことが出来るとでも?」
「出来るさ。手段は択ばなけりゃ無限にある」
バルバロッサは不敵な笑みを浮かべた。
それと同時に、ドーベルの全身に悪寒が走る。
そして、それは見事に的中した。
突如として地中からは荒々しい音が鳴り響き、地面が大きく揺れ始める。
ドーベルは両足に力を入れて踏みとどまり周囲に気を配る。
そして、目を疑いたくなる光景を目にした。
広場の背後にある教会が地面から剝がれ、空へと持ち上げられていた。
更にその周辺に建っていた建物までもが持ち上がりった。
それらは空中で1つに合わさり、惑星の様な大きな球を作る。
「察しのいいお前なら俺がこれから何するか分かるよな!?」
バルバロッサは悪い顔を浮かべドーベルを見つめる。
「救ってみろ! 軍曹殿!」
バルバロッサが叫ぶと、球はその場から大砲の様に放たれた。
「相変わらず滅茶苦茶な男だ」
ドーベルは地面を蹴り上げ、球の軌道上へ飛び立つ。
「軌道からして狙いは中心街か」
ドーベルは剣を構え赤く染める。
そして球へと狙いを定め、縦に振り下ろす。
球は真ん中から2つに割れ、左右に分かれた。
続けて剣を横に振り、球を4つに割る。
ドーベルはそのまま縦、横と高速で剣を振り続け、球を細切れにしていく。
やがて球の形は完全になくなり、周囲には大量の砂が漂っていた。
ドーベルは再び剣を構え、うちわで仰ぐようにして振る。
すると爆風が発生し、辺りの砂はそれに乗って遥か遠くへと飛んで行った。
ドーベルは体勢を整え、中心街へ着地する。
そして広場の方を見つめ、後悔の念に駆られた。
「逃げられたか」
広場にはバルバロッサとミカエラの姿は確認できなかった。
いるのは広場の真ん中で股間を濡らしながら失神しているアルクノン=イヤンのみだ。
してやられたと、ドーベがは不覚の念を覚えた時、広場の方から数名の兵士が駆け寄ってきた。
「ドーベル軍曹! お怪我は!」
「問題ない。それよりも、バルバロッサと竜人族の女はどこへ逃げた?」
ドーベルが問いかけると、兵士達は下を向いて口を閉ざす。
「……まあよい。イヤン氏の容態は?」
「っは! 意識はありませんが、命に別条は無いようです」
「そうか」
ドーベルは広場の方に再び目を向ける。
「どちらにしても、これだけの事をしたなら国も黙っていない。しばらくは忙しくなるぞ。気を引き締めておけ」
「っは!」
兵士達が敬礼すると、ドーベルはその場を後にする。
これから荒れる世界を予期しながら。
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