Unison(1000文字版)
――どうして、目を離しちゃったんだろう……
リビングに戻ったアイは、ほんの数分前の行動を深く後悔し膝から崩れ落ちていた。
そして激しく動揺したらば、少し間を置き我に返る。
――連絡!とにかくすぐ……連絡しなきゃ!
そこまで考え、そう言えばとスマートフォンの存在を思い出し慌ててポケットから取り出す。
――こんな時は、えーと……電話!?文章!?
アイは仕事中の夫を
しかし、しばしの
*
「ただいま」
帰宅した夫は、自分の端末画面を向けながら心配そうに尋ねる。
「アイ……これ、何かあった?昼間にさ『メッセージの送信を取り消しました』ってあるけど」
「それね、なんでもない!」
この時アイは一つの嘘をついた。
大きな事件のための、小さな嘘である。
「そんなことより、こっち来て!」
「んー?」
そして、事件が起きる。
生後九ヶ月になる愛娘。
小さな命が起こす、とてつもない事件。
「
「おぉぉ、がんばれ!がんばれ!」
ベビーサークルの力を借りながら、はじめての〝
「立ち会えてよかったー」
「ね、私も今はじめて見た!」
大喜びする夫の顔を見ながら、アイは〝嘘をつき通す〟という決意を固めた。
そして、これからも今日のように小さいながら大きく、そして幸せな〝事件〟が増える予感がしたらば胸の奥が暖かくなる。
また、伸び
――いらなかったかなぁ、ベビーサークル。
――でも、あれのお陰でちょっと早かったのかも?
アイは姉の息子、つまり
本来、生後数ヶ月の乳児は四つん這い……いわゆる「ハイハイ」と呼ばれる移動方式の活動を行う過程で、
その結果、なんら
我が子への贈り物と成長の因果関係には諸説あるとは言え、それでもやはりアイは改めて嬉しい気持ちになった。
「なあ、アイ」
「んー?」
「
「ふふ、そうかもね?」
これからも今日のように、きっと多くの事件が巻き起こる。
その一つ一つを大切にしたいと思いつつ、アイは昼間に取り消した文面を思い出した。
『私はいま、事件の現場にきています』 完
*
1000文字版です。
Unison以外の読み切りや長編もぜひ、よろしくお願いいたします。
Unison トモフジテツ🏴☠️ @tomofuzitetu
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