いらない僕⑫




数ヶ月後



家が燃えてしまいまだ始末が終わっていないため、臨時でアパートを借り要一家はそこに身を置いていた。


「要、本当に大丈夫? まだ松葉杖がなくなってから一日目なのよ? なのに今すぐ行かなくても・・・」

「できるだけ早めがいいんだ」

「手土産とか持っていった方がいいかしら」

「よせ」


出かける準備をしていると父が口を挟んできた。 今日は少し気を引き締めなければいけないイベントがある。


「あまり接点を持つようなことはしない方がいい」

「でも・・・」

「要。 ちゃんと良も連れていくんだぞ」

「俺は行きたくないんだけど」

「それでも要を見守ってやってくれ」


行きたくないと不機嫌な顔をする良。 これから要と良は元母のもとへ向かおうとしていた。 最初は父に話し会いに行くことを否定されていたが粘って何とか説得した。

一人ではなく良も連れていくという条件で成立した。 父は要が前の母親のことを引きずっていると知っている。 表面的には大丈夫だと考えているが、心の奥底では取り込まれることを心配していた。

当然今の母も今から元母に会いに行くということを知っている。


「いいか? 相手の家には入るんじゃないぞ。 そして絶対に一人行動はするな」

「分かったよ。 いってきます」


要と良は家を出る。 元母は隣の県へと移動していた。 父が元母と連絡を取り居場所を確かめてくれたそうだ。


「俺は本当に行きたくないんだよ」


そう呟く良の気持ちを要はよく分かっている。 要にとって元母の記憶は優しい笑顔だが、良にとっては激しい暴力なのだから。


「分かってる」

「・・・でも兄さんがこれで今の家族を見てくれるならと思って俺も付いてきた。 会ったらすぐに帰るから」

「あぁ。 それでも付いてきてくれてありがとう」


そうして数時間かけ父に教えてもらった住所までやってきた。 そこには立派な一軒家が立っており外には子供用の遊具が置いてある。


「・・・新しい家族ができたんだ。 そりゃあいるか」


再び良が呟く。 そして要もそれを見て心にざわつきを感じた。 それでも勇気を出しチャイムを鳴らす。


「はい。 ・・・もしかして要と良?」


出たのは丁度元母だった。 あまり驚いておらずすぐにバレたことから父との連絡で悟ったのだろう。 元母はすぐに家の外へ出てくれた。 元母は二人の姿を見るなり大きく目を見開く。


「・・・! 二人共、大きくなったね」


その言葉以降しばし沈黙が訪れる。 良は何も話さないだろうと思い要が口を開いた。


「もう縛られないようにけじめをつけに来たんだ」

「・・・そう」

「俺は毎日貴女のことを思い出していた。 今でも本当のお母さんは貴女だと思っていた。 だけどそれはもう止めにしようと思う」

「・・・要」

「だけど少しでも温かく大切に育ててくれていた事実は変わらない。 短い間だったけど俺たちを育ててくれてありがとう」

「お母さーん?」


元母が口を開こうとした瞬間家の中から男の子の声がした。 声変わりはしていなくハッキリとした口調から小学生くらいだと分かった。


「それじゃあ、俺たちはこれで」

「待って!」


そう言って踵を返そうとすると元母に呼び止められた。 振り向かないまま言葉を待つ。


「・・・今まで辛い思いをさせちゃってごめんね。 ここまで大きく育ってくれて本当に嬉しい。 これからはどうか自分に自信を持って幸せに生きて」


その言葉を聞くと振り向かないまま要と良は去った。


「よかったよ。 兄さんがあの人に感情移入しなくて」

「はは。 でもスッキリしたよ。 人生の区切りをつけるために最後に会いにいってよかった。 ・・・でももう一人ともお別れしないとな」

「もう一人?」


―――俺には本当に大切なものができたんだ。

―――それを教えてくれたアイツには感謝をしなくちゃ。


要は自分の心に手を当てた。


「これからは俺一人で大丈夫だ。 だからお前は必要なくなったからもう出てこなくていい。 今まで俺を守ってくれていてありがとう」






                               -END-



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いらない僕 ゆーり。 @koigokoro

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