いらない僕⑪




「・・・あれ?」


見渡すとここは病院だった。


―――何だか今日は意識が戻った時には違う場所にいることが多い。

―――俺が知らない間にクロが色々とやってくれていたんだな・・・。


包帯でぐるぐる巻きの片足を見る。 座っている隣には松葉杖があった。


「これからどうしようねぇ。 また一から物を揃えないとだしゆっくりやっていこうかしら」


家が燃えたのに少し暢気だなと思う。 ただ何よりも家族に被害がなかったことがよかった。


「・・・あ。 思えば俺の財布やスマホは家の中に置きっぱなしだ」

「ごめんなさい。 お母さんが管理しているものは持って出たんだけど、要の部屋にあるものまでは手が回らなかったの」

「ううん、どうせ財布には大してお金も入っていなかったと思うし・・・。 あ!」


家や財産については両親に任せておけばいいだろう。 ただスマートフォンが手元にないということは水島にも連絡ができないということに気付く。


―――できるだけ時間は空けたくない。


「・・・俺、行かなきゃ」

「行く、ってどこへ?」

「お母さん! 500円だけちょうだい!! 今すぐに行かないといけないところがあるんだ!」

「いいけど・・・。 帰りはどうするの?」


そう言って要の足を見る。 スマートフォンもなく連絡手段がないのだ。


「・・・最寄り駅まで迎えにきてくれたら嬉しい。 お母さんはお父さんと良に連絡して合流してて。 そして二時間後に最寄り駅まで俺を迎えにきて」

「その足で大丈夫?」

「うん、大丈夫」


要は松葉杖を使い最寄り駅を目指した。 水島の家は前に一度家まで送ったことがあるため憶えている。


―――直接押しかけるなんて迷惑かもしれないけど俺の気持ちがスッキリしないから。


その思いで数十分かけ水島の家まで到着した。 だが勇気を出しチャイムを鳴らすも出てくる気配がない。


―――・・・いないのかな?

―――それとも居留守を使われている感じ?


「水島さん! 俺だよ、俺! 要!!」


大きな声で言うも返事はない。 それでも水島が家の中にいることを信じ声をかけ続けた。


「さっきは本当にごめん! ちゃんと謝りたくてここへ来たんだ!! ・・・あの時、水島さんを遠ざけちゃったのは俺のせいなんだ」


あの時はカッとなってクロばかりを責めていた。 だけどその気持ちは自然となくなっていた。


「俺がずっと子供でどうしようもなくてそろそろ大人にならなきゃと思っての行動だった。 ・・・俺はずっと水島さんに甘えっぱなしだったから」


クロが自分勝手に作ってくれたきっかけは自分では作ることができなかったものだ。 クロの存在の大切さにようやく気付くことができたのだ。


「でもやっぱり俺には水島さんが必要なんだ! 水島さんのおかげで毎日楽しく幸せに過ごすことができていた。 ・・・だから水島さんがいないと俺は大人になることができない」


クロは嫌がらせで水島を遠ざけたわけではない。 ただ後ろを振り向かず前を向いて生きるためにそうしたのだ。 もちろん水島を巻き込んだことは要としては思うところはある。

ただそんな不器用なところも含めクロの魅力なのではないかと思った。


「毎日幸福を与えてくれたそのお返しに今度は俺が水島さんを笑顔にさせて守る番だと思った! だからッ・・・」


水島がいるであろう二階を見て要は叫んだ。


「俺でよければもっと傍にいさせてください!!」


―――俺の想いは伝え切った。

―――水島さんにこれが伝わっているのならもう悔いはない。


そう叫んでから数十秒後。 ゆっくりと玄関の扉が開き水島が顔を出した。


「水島さん!!」

「ッ、要くん・・・!? どうしたの、その怪我!」


感動的な再会だというのに怪我を心配されてしまった。 確かに数時間前までは松葉杖もギプスも影も形もなかったのだ。


「あぁ、これは大したことないから大丈夫。 ちょっと色々とあって」

「色々、って・・・」

「ごめん。 水島さんの返事が聞きたい。 水島さんが迷惑だと思うのなら俺は今後一切水島さんの前に現れないから」


そう言うと少し考えてから水島は言った。


「・・・私も要くんが必要だよ?」

「・・・ッ、本当に?」

「私も要くんの傍にいてもいいの?」

「も、もちろんだよ! 俺、凄く嬉しい!!」


その言葉に水島は笑った。


「その発言が既に子供っぽいけど」

「あ・・・」

「じゃあ明日からもまた要くんのためにお弁当を作ってもいい?」


そう言われ口を噤んだ。 クロの影響で明日からお弁当は母に毎日作ってもらうことになっているのだ。


―――今は家がないから負担をかけないために水島さんに頼った方がいいのかな・・・。

―――でも多分そういうことじゃないと思う。

―――俺のお弁当を毎日作ることになってお母さんは凄く喜んでいた。

―――だから・・・。


「・・・実は明日からお母さんにお弁当を作ってもらうことになったんだ。 だけど昼食は水島さんと一緒に食べたい。 ・・・駄目、かな?」


そう言うと水島はふわりと笑った。


「もちろんいいよ。 お母さんを大切にしているの、とても素敵なことだと思うから」


家が火事になって燃えたというのに要の心は満たされていた。


―――あ・・・!

―――そうじゃん、家が燃えちゃったのにお母さんにお弁当を作ってもらうなんて無茶だ!!


「ご、ごめん。 締まらないんだけど、家が燃えちゃったから明日はお弁当作ってもらえないかな?」

「えぇッ!?」



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