第46話 将軍_海を臨む

◆ガイウス将軍視点



「異世界召喚者たちが大陸統一を果たしてから、もう一ヶ月か……。彼等は、元気かな~。元気なんだろうけど、姿を見せないと心配にもなる」


 本当に、七日間で大陸を統一してしまった。

 私は元西国を任されている。

 私は一応将軍職だが、実質的に統治を任されている。後に公爵になれるだろう。


 異世界召喚者たちは、笑って『これ、火の七日間じゃね?』とか言っていた。

 笑いながら、制圧して行く彼等には、恐怖しかなかった。

 それは、私だけでなく、制圧された敵国の民も同じだったようだ。その異様な雰囲気だけで、敵国を制圧してしまったのだ。武力だけではない。姿を見ただけで降伏って……、どれだけ恐れられたのだろうか。


 『火の七日間』の意味は、彼等以外に意味は分からないが、歴史書にそう書かれるのだろう。異世界召喚者の言葉として……。

 窓際から城下町を見下ろす。


「内乱も起きないんだよな……。兵士だけでなく、民衆の心も折るって、どんなスキルを使ったのか」


 それと大陸は、物資で溢れている。貧民層は、異世界召喚者の信者となっている。もう支持基盤が膨大だから、王様よりも支持を受けている。まあ、この大陸にはもういないんだけどね。


 悲しみに暮れる人たちもいるが、戦乱の世は終わった。

 それと……、武器を取る者がいなかった。

 異世界召喚者の武器は、余りにも強力だったからだ。

 石と鉄くらいの差がある。歯向かう気力さえ挫いてしまったみたいだ。


 いや、生物として違うとしか表現できない。おとぎ話に出て来た魔王が集団で現れたみたいだった。本当に味方で良かったと思う。


「最終決戦と銘打たれた北西の平野での戦いも、大規模魔法で殲滅したと聞かされた。あの時は、大地が揺れたな~。火山の噴火と見まごうばかりの火柱も確認した……」


 稲葉殿の本気の魔法とのことだ。

 大地を溶かし、天を焦がした。たしか、ギラグレイドとか言う魔法だったな。(げふん、げふん)

 あの平野は、クレーターになっている。怖がって誰も近づかない。


 鈴木殿の武器だけではなかったのだ。稲葉殿の魔法も規格外としか言えない。

 魔導士たちも、研鑽を止めてしまった。

 魔導士たちが一生をかけても、あの魔法は作り出せないのだとか。

 これからは、生活に役立つ魔法を作り出していくと言っていたな。


 折られた心……、制圧された土地は、数十年間は平和が約束されている。

 そうそう、迷宮ダンジョンは、閉鎖になった。物資が溢れているんだ。危険を冒してまで潜る理由がなくなった。冒険者ギルドも閑散としているらしい。



「異世界召喚者たちは、今何処にいるのかな~」


 半分が元の世界に戻ったそうだ。一応、呼び戻せるみたいだが、池本殿たちが禁忌指定している。それと王家も、異世界召喚は二度と行わないのだとか。女王の一族が追放されたのが大きい。

 そして、残った9人の異世界召喚者たちだ。


「大陸の外側に行ってみようぜ! なんかでっかい大陸があるんだってさ。話を聞く限り面白そうだった!」


 軽いノリで、行ってしまった……。外海に行くのも禁忌指定なのだが、止める人がいなかった。止められる人……か。

 この大陸を取り囲む海には、巨大な海獣が生息している。

 大昔、海が凍った時に、調査団を派遣したことがあったらしい。


「巨獣を遠目で確認したので、引き返したと、歴史書に記載されていたんだけどな~」


 若槻殿が、巨獣を一匹狩って戻って来た時には、王都が揺れたモノだ。

 その後、巨大な船を作り、海獣を狩りながら、火力の調整を行っていた。

 そして……、異世界召喚者たちは、戻って来ない。


「いや、まだ数週間なんだ。生きているだろう……」


 あんなチート集団が、全滅するとは思えない。

 この閉ざされた大陸以外にも、知的生命体がいて友好関係を築けるかもしれない。

 もしくは、未知の薬草とか欲しいな……。


「だけど、怪我を全快させるポーションだけでも、十分なんだよな~」


 レシピを残してくれたので、量産体制に入っている。


「それと、若返り薬だ。大人気なんだよな~」


 後、長寿薬かな……。不完全だと言っていたけど、結果が出るのは数十年後だ。

 この大陸の人間は、平均寿命が何処まで延びるか……。結果を楽しみに待とう。


 ここで、部下が来た。


「将軍! お時間です!」


「うむ、会談だな。行くか!」



 これから、町長たちを集めて、復興の話し合いだ。

 本当なら、功労者である異世界召喚者が仕切るのだが……。外海で遊びまくっているし。役職について内政を手伝って欲しかったな~。

 何処かの元王都にでも押し込んでおけば、監視もし易かったけど。彼等は、自由人だった。


 それと、リーダーだった池上殿はもういない。元の世界に帰ってしまったからだ。

 まとめ役がいなくなった彼等を止めることは、出来なくなっていた。


「でも、いなくなってくれれば、それはそれで平和になるのかな~」


 あんなチート連中を従えて尊敬されていた池上殿とは、どんな人材だったのだろうか……。私は、会えなかった。


 これから復興だ。この期間が一番危ない。

 不穏分子も動き出している。中央国出身者が、怪しい動きをしているみたいだ。


「統一を果たしたが、制圧のために戦力を失った中央国……。いや、セントラルガルド統一国か。平和になるといいな~。もう、異世界召喚とか行いたくないよね」


 空を見上げて、一人呟く。


「……戻って来ないといいな~」

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真の求道者は異世界を救う~異世界召喚者の中にオタクが含まれていました~ 信仙夜祭 @tomi1070

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