戦争P‐Ⅲ:間四麻「夜坂蓮」

 私は1年1組前の廊下を歩いていた。

「あっれ、蓮来てない。」

 教室の中にいないだけ、というわけではないらしい。第一あいつは必要もないのにリュックを持ってきているので、机の横にある引っ掛けられるアレ(多分フック?)に何もかかってなかったら、それは休んだと同義なのだ。

 だからといって寂しいわけでもないが、心配くらいはする。なんせ幼馴染なのだから。

 まあ、幼馴染というよりは腐れ縁と言ったほうが正しいのだが。

「また妹ちゃんとゆかいな仲間たちに構われてるのかな。」

 と、呟き終わりかけたときだった。

「イイヤ、違ウ」

 後ろから声が聞こえた。

 しかし振り返っても、そこには誰も居なかった。


――ジジッ。


 いいや、正確に言えば、そこにあったのは『鳥』もどき――以前『協力者』が使っていたあれだった。要は鳥型トランシーバである。

 そして妙に間抜けで腑抜けた見た目をする『それ』は、特に大した引きをするわけでもなく言った。

「夜坂ハ機関ニ監禁サレテイル」

 その情報を私の頭が処理しきれていないうちに校内放送がかかる。

 内容は上の台詞そのまま、つまり復唱であった。

「…まじで?」

「マジ!…マジ!」

 あいつが捕まることが信じられなかった。というか信じられるはずもない。能力が妄想を現実にする能力なのだから、自身に実害が及ぶことなんて考えるはずもない。

 かといってあいつが捕まえられるようなやつか、捕まえる意義があるかと言われれば……いや、普通に意義しかないか。

 妄想を現実にする、なんて大層な能力を放っておくはずがない。しかし、そんな大層な能力だからこそ、今までそう言ったトラブルが起きなかったのではないのか?


 能力を狙うやつをその能力で跳ね返す、ある意味完成されたそのサイクルにイレギュラーが発生した――。


 つまりそれが『機関』だということか。

 なんとなく読めてきた。そもそも存在しない書物を見せられて読めと言われているような状態なのだから読めても仕方ない気はするのだが。

「蓮……」

 しかしピンチであることに変わりはないだろう。

「アア、チナミニ妹モ同時ニ攫ワレタゾ。恐ラク夜坂蓮ガ逃ゲタ時ノ保険ダロウ」

「機関のくせに狡い……」

 いいや、むしろ機関だから狡いのかもしれない。


 ……というか、機関って何なんだ?

 確かに蓮は一時期『機関』とか言ってたけど、それはあくまで妄想の中でのそれだろう。

 ならば一体、今回の話の主題である『存在する』機関とはなんなのだろうか。

 さっきは存在しない書物なんて言ったけど、これだけ手がかりがあると存在しないとは言えない。ここまできたら伝説とかそういう部類だろう、徳川埋蔵金とかそういう類。

 どうせ見つからない答えを探させるのだからたちが悪い。


――それでもヒトは希望を持っちゃうんだよ、馬鹿だからね。


 いつの記憶か、そんな声が遠くから聞こえた気がした。

「四麻!」

 物思いに耽る、というほど黄昏てもいなかったが、ほんのりと雰囲気を壊されたときの――一人の世界に不法侵入されたような感じかな――苛立ちのような感情になりながらも、私は振り返った。

「……急に呼び捨ててどうした、環」

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