最終話 それぞれの未来 ③

「それじゃあ、ゲームを始めましょう。いつも通り、ビリの人には罰ゲームだからね。兄さんはどんな刺激が欲しいのか、今のうちに考えておいてね」


「僕がビリになることが当たり前のように言ってるよね!?」


 まあ、それは事実なんだけどさ。


「大丈夫です! 今日こそはうまく看病してみせます!」


「そうだね。ヒカリの看病という名の拷問が、一番の危険だったよ」


「ううっ、酷いです!」


 ヒカリが自分の事をドジだと言っていた話は本当で、僕は彼女の治療により何度か死にかけた。


 特に包帯が首に絡まった時はやばかったな。

 もうネビュラとの戦いで体力が1になった時より死を覚悟したよ。


「そういえば、ダメージワールドの都市伝説は、まだ終わっていないみたいです」


「そうらしいわね。魔王は倒したはずなのに、まだ生きているのかしら?」


「クク、それなら、今度こそボクたちで倒してやればいい」


 ネビュラはある意味では、既に死んでいるみたいなものだ。

 不死身なのかもしれない。


「でも、ちょっと変わった噂に、変化しているんですよね」


「変化? どういう風に変わったの?」


「召喚される人が中二病のゲーム好きなのは変わらないみたいですが、その中でもいじめられているような人が多くて、その人たちが希望を持てるような体験ができるとの噂です」


「……なるほど」


「戻ってきた人は、皆が前向きに生きられるようになれた、とか」


 そうか。

 彼女は本当の『理想の世界』を作る道に進んだわけか。


「でも、一部の人は、戻ってくれなくなるという恐ろしい噂もあります」


「ああ、それなら私も聞いたわ。なんでも昔、ある一人の女の子を集団でいじめたり、性的暴行を加えたりして、自殺に追い込んだ連中らしいわ。こう言うのもなんだけど、天罰みたいよね」


「ボクのご主人様をいじめていた奴らも、消えてしまった」


 『本当の復讐』も、止められなかったか。

 それが良い事なのか、悪い事なのか、僕が偉そうに論じる気は無い。


 本物の正義とか、悪とか、そんなものはこの世界にないのだ。


 こんなのが、かつてヒーローなんてのを目指していたなんて、お笑い草だ。


 結局、僕も『俺』と変わらない自己中人間なのだろう。


 そんな自分を誤魔化そうとして、ヒーローという言葉を体よく利用していたのかもしれない。


 そして、もうそんな事をする必要もなくなった。


「兄さん、怖いわ。私も消されてしまうのかしら」


「千奈は、いじめなんてしないだろ」


「でも、兄さんをいじめていると判断されるかも……」


「それは……ああ、うん。あり得るかも」


「怖い! 兄さん、助けて!」


 何故か上目遣いで涙目になる千奈。

 か、可愛い!?

 ひょっとして、さっきのリルに対抗している?


「ちょ、ちょっと待ってください! 私も消されてしまうかもしれません! この前は包帯でトオルさんの首を絞めてしまいましたし! トオルさん、助けてください!」


 同じようにヒカリも上目遣いで迫ってくる。

 いや、その理由は無理があるのでは?


「ボクも闇属性だから、危ないかもな。助けて、トオル!」


 そして、リルも参戦。

 君のは完全にノリだろ!


「あ、そういえば、この前ゲーム内でレオンと会ったぜ」


 ちなみにどういう原理か、レオンも記憶を保持していた。

 魔王の部下になった特典だろうか?


 しかし彼の場合は、それが良い薬になっていたらしく、とても良識のある人になっていた。


 心も入れ替えたようで、今では尊敬できる立派な大人の社会人をやっている。


 もしや、今回の件で最も成長したのは彼だったのではなかろうか。


 なんか負けた気がしてちょっと悔しかったりする。


 ミリアやリック、アモンドともゲーム内で会ったが、こちらは残念ながら僕の事を覚えていないようだった。


 ミリアに関しては、実は職業が商売人だったみたいで、楽しそうにハイパーボードの販売に勤しんでいた。


 きっと商売人をしていたミリアが、正しい彼女の性格だったのだろう。

 本当は戦いなんて望んでいなかったのだ。


 そう考えたら、あの世界の悍ましい記憶なんて、忘れてしまった方が彼女は幸せだろう。


「ふう」


 まあ、そんなわけで僕は楽しく生きています。


 そんな僕も、もうちょっと変わりたいところです。

 結局、痛みを感じない体質は治らなかったし。


 でも、この体質もいつかは治る。

 そう信じたい。

 それに……一つ僕の中で希望が見えた。


 それは、リルの主人格が消滅していなかった事実だ。

 やはり、僕の妄想なんかじゃなかった。


 人格はそう簡単には消えない。

 今は眠っているだけだ。


 だから、いつかきっと『あいつ』も……


「よし、僕もこれから頑張ろう!」


 勢いよく立ち上がった僕だが、その瞬間、膝を椅子にぶつけてしまった。


「痛てえええええええええ!」


「まったく、なにやってるのよ…………え? 兄さん?」


 全員が驚いた眼で僕を見ている。

 ……なんだ?


「ねえ、兄さん。今、なんて言ったの?」


「え? だから、『痛い』って………………あ」


 どうやら僕の中でも、少しずつ変化が出て来たようだ。

 そして……


(ふっ、よかったじゃないか。ご主人様)


「っ!?」


 気のせい…………じゃない!

 ああ、まったく、起きるのが遅いんだよ。

 寝ぼすけめ!



―――――――――――――――――――――――――



 終わり♪



 最後まで読んでくれたあなたへ心より感謝を!!!

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痛みを感じない最弱中二病の僕は死にかけるほど強くなるゲーム世界に召喚されて無双します でんでんむし @dendenmusi3

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