第91話 それぞれの未来 ②

 現実世界のヒカリが僕の家に遊びに来た。


 綺麗な私服を着こなしている彼女は、向こうの世界で見るよりもさらに美少女である。


 こちらの世界に戻ってから、ヒカリもリルも休日になれば毎日遊びに来る。


 あれから予定通りオフ会は行われて、僕たちは同じゲーム内ギルドのメンバーとなった。


 しかし、何故かそれは僕の家で行われた。

 初めてのオフ会はゲーム大会である。


 その時、千奈とリルがついに対戦したのだが、勝ったのは僅差で千奈だった。


 リルはそれがよほど悔しかったらしく、休日になると、僕の家に通いつめて再戦をしている。


 ヒカリは付き合いで来ているのだろう。


「ヒカリもリルに付き合わされて、大変だね」

「そんなことありませんよ」


 ヒカリは楽しそうにに笑っている。

 彼女は本当に人が良い。


「私がここに来るのは、付き合いなんかじゃないです。私は、トオルさんに会いたくて……」


「……ヒカリ?」


「何でもないですよ~だ。ふふっ」


 小悪魔のような表情をして僕を見るヒカリ。

 少しからかわれているような気もする。


 しかし、驚いたのはヒカリもリルも僕達と同じ本名だったことだ。


 特にリルは漢字で書くと璃瑠(りる)と読むらしい。珍しい名前だ。


 流行りのキラキラネームというやつだろうか。


 ちなみに僕は漢字で書くと透(とおる)ね。

 透き通るような綺麗な名前だと覚えておいてくれるといい。


 周りからは空気のように透き通っていて、中身がまるで無い存在だと思われている気がします。


「……む?」


 ほどなくして、また家の呼び鈴が鳴った。

 どうやらリルが到着したらしい。

 僕は玄関までリルを出迎えにいった。


「やあ、遅かったね。……………リル?」


 なぜかリルは俯いていた。

 いつもみたいに、いきなり中二病的な発言をすると思っていたのに、どうしたんだろう。


「…………あ、あの…………初めまして」


 初めまして?

 どういう意味だ?

 いや、待て。

 まさか……


「君は……リルの主人格なのか!?」

「……………………はい」


 リルの話だと、いじめられて心に大きな傷を負ったせいで、現実に絶望して消滅したと聞いていた。


 でも、違ったのだ。

 彼女は、きちんとリルの中にいたのだ。


「私も、逃げるのは止めにしました。勇気を……出すことにしたんです」


「そっか…………そっか!」


 リルは主人格の自分を救えなかった事に、責任を感じていた。


 しかし、彼女はきちんと役割を果たしていたんだ。


 よかった。

 きっと副人格のリルもご主人様を救ったことで、自分が誇らしく思えているはずだろう。


「えっと。改めて、初めまして……になるね。よろしくね」


「は、はい」


 顔を赤らめて照れている。

 リルが絶対に見せないような表情だ。


 なんだろう。

 新鮮で、とても可愛いと思う。

 こんな子がいじめられていたなんて、酷い事をする奴もいたものだ。


「ご、ごめんなさい。あの子に、変わります。まだ、慣れていなくて、今日は、挨拶だけということで……」


「……ん?」


 リルは糸が切れたかのように、いきなり俯いた。

 そして……


「ククク、本当の闇はこれからだぜ」


 ……ああ、『いつものリル』となったようだ。


 こっちの方が副人格みたいだけど、僕たちからすれば、この副人格の方が慣れ親しんだリルである。


 妙な安心感を覚えてしまった。


 まあ、まだ無理はさせられないのだろう。

 主人格である彼女も、ゆっくり慣れていけばいい。


 これからの時間は、たっぷりあるのだから。


「…………トオル」

「えっ?」


 その時、リルが後ろから僕を抱きしめて来た。


「ありがとう。きっと、お前らのおかげだ」


 これまた初めて見るリルだ。

 主人格が戻ったので、少し影響があるかもしれない。


「あの時、トオルの言葉を……信じてよかった」


 大したことは言っていない気もするけど、まあそれでも、よかった。


「むむ? リルめ。急にあざとくなって来たわね」

「このままでは、私は負けヒロインに!?」


 ヒカリと千奈が恨めしそうに僕たちを見ていた。


「ク、ククク。ボクとしたことが、闇の封印が解けてしまったか」


 顔を真っ赤にして離れるリル。

 どうやら恥ずかしかったようだ。

 こんな風に照れている姿も、中々に可愛いものである。

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