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外に出られないのなら、会社に行けない。仕方ない。だって、そういうものだもの。今日は休み。連絡は……向こうがしてきたら返そう。
「良いの? 大人なのに仕事行かなくて?」
すぐ傍にしゃがんだシズナが顔を覗き込んでくる。
「大人にも色々あるんです」
「大人も大変ねー」
「大変なんですよー」
言いながらシズナがふざけたようにニヤニヤとしていたので、なんだかおかしくなってきて、二人してクスクスと笑った。身体中の力が弛緩して、今なら気持ちよく二度寝できそう。
「死にたいくらい大変?」
急に真面目な口調で言うから、私はうつらうつらとしていた目を開く。シズナは少しもふざけていなくて、どこか優しい表情をしていた。
「あー、いや、どうなのかな。分からない」
曖昧に私は答える。シズナは「そっか」と少しだけ目を細めた。
ここ最近、仕事で失敗し続けていて、どんどん会社での肩身は狭くなっている。その上、明るい性格でもなく、人に好かれる質でもない私は会社で孤立しつつある。居場所がないといっても過言じゃない。
でも、それが死ぬほどのことかと問われれば、よく分からない。気分が落ち込んでいる時に問われれば死ぬと答えるだろうし、明るい時に問われれば死なないと答える。そんな感じ。
ただ、生きている私以上に明るく、死んだことに微塵も後悔を見せないシズナを見ていると、死ぬのも悪くないと思えてしまうから困る。
「ならさ」何かを思い立ったように膝を打ち、シズナは立ち上がる「時間があるなら、友達を紹介していい?」
「友達?」
私はゆっくりと上半身を起こした。
友達って、幽霊の? まさか、この部屋にはもう一人幽霊が居たのか。そして、それに気づかず私はひと月近く暮らしていたのか。
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