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師走 こなゆき

P1

「んー、なにあれ?」


 仕事を休んでダラダラと寝転がっていた私は、押し入れの奥。隅っこ。外から見つからないような陰にひっそりと貼られたそれを発見した。


 前の人が張ったまま置いていったシールか何かのゴミかと思って、私は剥がして明るい場所に出る。


 色褪せて、湿気でへにゃってシワシワの紙。表面には書道の授業で習った書体、たしか行書体で十文字くらいの漢字が書かれているけど、達筆すぎて私には判別できない。


 ただ、この紙が何なのかは、なんとなく私にも分かった。


「これ、御札だ」


 わたしは首を傾げる。


 ひと月前、このアパートに入居する際に仲介の不動産屋さんは、この部屋で人が死んでいるとか、元は墓地だったとかの曰くは教えてくれなかった。周りに比べて特に家賃が安いこともない。


 それなら、前の住人がお守りとして貼ったまま置いて引っ越した? いや、それにしては押し入れに隠すように貼るのはおかしいか。おばあちゃんの家にも御札はあったけど、神棚に立ててたし。


「不動産屋にもう一度訊いてみようか。それとも、先に管理人さんかな」


 ひとりごちながらスマートフォンに手を伸ばす。すると、ふいに背後から肩を叩かれたような感触がし、驚いてビクっと身体が跳ねる。


 私は一人暮らし。悲しいかな、部屋に招くような友達は居ない。当然、今この部屋には私一人しか居ない。


 御札なんて不気味な物を見つけちゃったせいで敏感になってるだけ。気のせい、気のせい。そう自分に言い聞かせるが、確かめないでいるのもまた怖い。


 視線だけを動かして、スマートフォンや財布、鍵の位置を確認する。もし、何かが背後に居た場合、すかさずに貴重品だけ持って逃げられるように。


 それに、今はまだお昼。何かが出たって夜ほどは怖くない。はず。


 身体から飛び出てきそうな強さで鼓動する心臓を落ち着かせるために、何度か深呼吸をする。お腹の辺りに力を込める。


 ――よしっ。


 意を決して振り向こうとした瞬間、


「そろそろこっち見てくれない?」


 背後から女の人の声がして、わたしは悲鳴も上げることができずに飛び上がった。直前のシミュレーションなんて全く役に立たず、前に数歩つんのめりながらなんとか転ばないように力を込めて、体勢を立て直してようやく振り返る。


 そこには、キラキラした金色のショートヘアの女の子――私より若い。たぶん、高校生くらい?――が浮いていた。

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