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 真っ暗な浴室。浴槽には目一杯の水が張られていて、その縁から一滴、また一滴、ゆっくりと水滴がこぼれ落ちる。


 浴槽の中には女の人が沈んでいた。


 なんの感情も伝わらない表情でぼんやりと目を開いている。水中にいるというのに、気泡は出ていないし、苦しそうな様子もなくピクリとも動かない。


 見慣れた顔、姿。


 さっきまで鏡に写っていた顔そのもの。


 ああ、そうか、私は。


 彼女は私。


 浴槽に沈んでいるのは私の死体。


 会社で孤立してしまった私は、この世に居場所なんて無いと思い悩んでこの浴室で手首を切った。死んでしまった今となっては、死ぬほど辛いことだったのかの記憶は希薄になってしまっている。


 でも、その時の私には世界のどこにも居場所なんて無くて、その選択肢しか見えなかったから。


「エマさーん。まだー。カノちゃんのお茶が入ったよー。妖精の粉入りだよー」

「妖精の粉って何よっ? そんな危なそうな物入ってないわよっ」


 背後から楽しそうな声が聞こえる。私を呼んでくれている。


 一つ息を吐いてから、私は呼ばれた方へと足を踏み出す。


 洗面所を出る直前、最後に一度だけ振り向く。


「私は居場所を見つけたから。シズナたちに受け入れてもらったから。だから、あなたも早く誰かに見つけてもらってね」


 いつまでも、願ってるから。


 私はゆっくりと扉を閉めた。

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