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「で、この子が?」
カノがこちらを品定めするような目つきでこちらを見ながら、私の周りを旋回する。視線は若干の敵意が含まれているのに、背中の羽はパタパタと羽ばたいているのがなんだか可愛らしい。
「うん。エマさん。昨日わたしを閉じ込めてた御札を剥がしてくれたの」
「えっと、岩崎惠真です」
まさか、幽霊と妖精と話す人形を相手に挨拶する日が来るなんて。人生何があるか分からない。
「本当に怖がらないみたいね」カノが感心したように言う。
「うん。前の人は逃げちゃったのに」
本当は何度も怖がっているし、逃げないのではなくて、逃げるタイミングを失っているだけ。それに、逃げようにも何故か玄関から出られないんだからどうしようもない。
「それなら、今度こそ?」
「そうだね」
「う、うん」
三人は示し合わせたように目配せすると、子供が悪巧みをするような輝いた目で一斉にこちらを見た。
「な、なんですか?」
私は何事かと後退りする。今度こそ、窓を割ってベランダから飛び降りてでも逃げなければいけないかもしれない、と覚悟する。
「歓迎会をしますっ。カノ特製のお茶会ですっ」
シズナの楽しそうな宣言に、カノは拍手を。手の動かせないらしいアオイは「パチパチ」と口で言った。拍子抜けした私からは「へ?」と変な声が漏れていた。
「じゃあ、準備開始っ」
シズナとカノが慌ただしく準備を始めようとする。
「私は何をすればいいですか?」
「もう、エマさんの歓迎会なんだよ? 主役は座ってればいいの」
自分だけ動かないのも悪いので手伝おうとしたのだが、肩を押さえられ無理やり座らせられてしまった。
シズナは忙しなくキッチンの戸棚や冷蔵庫を何度も開けたり閉めたりしている。カノは出てきたシンク下の収納に入ったまま出てこない。もしかしたら、あそこに妖精の国への入り口でもあるんだろうか。動けないアオイも「綺麗にしなくちゃね」とシズナに連れて行かれてしまった。
そんな彼女たちを眺めながら、私は居心地悪く座っている。
みんなが働いているのに、自分だけ休んでいることのなんと居心地の悪いことか。声をかけられれば、すぐにでも立ち上がって手伝うのに。
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