番外編 看病回 4(完結)

「も、もしかして、あの頃の私って、結構ワガママだった?」


 今ならわかる。きっと、すごく迷惑かけたよね。

 激しく後悔しながら頭を抱えると、それを見たユウくんが、少しだけ吹き出した。

 ますます恥ずかしくなって、掛け布団で顔を覆ったまま、ダンゴムシみたいに丸くなる。


「ごめんごめん。でも、俺は気にしてなかったからさ」


ユウくんはそう言うけど、たくさん迷惑かけたんだって思うと、私の方は気にしちゃうよ。


 だけどユウくんは、そこから落ち着いた声に変わって、更に続けた。


「熱出してる時くらい、ワガママになったっていいと思うよ」

「でも……」

「そういう時は、気持ちだって沈んでくるだろ。それを少しでもなんとかできるなら、ワガママくらいいくらでも聞くよ。昔だけじゃなくて、もちろん今も」

「そ、そう?」


 顔を覆っていた布団を少しだけズラして、ユウくんを見る。

 そうしたら、落ち込んでいる私を安心させるように、ニッコリと笑っていた。 


「って言っても、今の俺にはできることなんてあまり無いけどな。もし幽霊じゃなかったら、もっとちゃんと看病してやれたんだけどな」

「そんな事ないよ。ユウくんがいてくれてよかったよ」


 昨日、晩御飯の後片付けをしてた時も、ユウくんは自分じゃ役立てることが少ないって言ってた。だけど、全然そんなことなかったよ。


 倒れた私を、部屋まで連れてきてくれた。水や風邪薬のような、必要なものを用意してくれた。

 幽霊になったユウくんは、できることに限りはあるかもしれない。けどそんな中でできることを探してやってくれたのが嬉しかった。


そして何より、今だってこんなにも気遣ってくれている。私にとっては、それだけでもう十分すぎるくらいだよ。


「本当に、ありがとう」


もう一度改めてお礼を言うと、ユウくんは嬉しそうに微笑んでくれた。


「それじゃ、病院に行かないなら、あとは叔父さんと叔母さんが帰ってくるまでゆっくり休みなよ」

「うん、そうする」


 そうしてユウくんは、邪魔にならないよう部屋から出ていこうとする。

 だけど、ユウくんの体が扉を突き抜けようとしたその時だった。


「待って」


 どうしてだろう。特に用があるわけでも無いのに、気がついたら呼び止めていた。


「なに?」

「えっと……」


ううん。本当は、用がなかったわけじゃない。

実は、もう一つだけ、頼みたいことがあったの。


「もしかして、何かやってほしいことでもあるのか?」

「えっ……えーっと……」


 さすがユウくん。小さい頃から私のお願いをたくさん聞いてきたせいか、こういう時はすごく察しがいいの。


 だけど私は、なかなか言えずに口ごもる。

 わざわざ呼び止めておいて何を今更って自分でも思うけど、このお願い、言ってもいいかどうか、すごく迷う。

 けれど、こんな時のユウくんはとことん察しがいいし、どうすれば私が言いたくなるか、十分すぎるくらいわかってた。


「さっきも言ったけど、熱出してる時くらい、ワガママになっていいと思うよ。何か言いたいことがあるなら、遠慮しないてほしいな」


 ほら、これだ。

 そんな風に言われたら、ついつい頼りたくなる。お願いしたくなる。


 おずおずと布団から右手を突き出して、ユウくんに向ける。


「……手」

「手?」

「その、あの……私が眠るまででいいから……手、握っててくれる?」


 言っちゃった。

 今の私は、熱で少しおかしくなってるのかも。いつもなら、こんなこと恥ずかしくてとても言えないよ。


「ああ、いいよ」


 なんのためらいもなく、すぐにうなずくユウくん。

 そして私の手を取って、自分の両手で優しく包んでくれた。


 すり抜けるから、本当は触れられることのない、ユウくんの手。


だけどこうしてお互いの手を重ねると、確かにそこにあるんだと感じられるような気がした。


 そうして、私は静かに目を閉じた。


「……お休み、藍」


 寝息を立て始めた私を見て、ユウくんもそっと部屋を後にした。









…………だけど、だけどね。実は私、本当はまだ寝てなかったの。

それどころか、ユウくんが出ていった後、一人で布団の中をゴロゴロ転がり回ってた。


「~~~~~~っ!!!!」


眠るまで手を握っててって言ったの、失敗だった。

だって、ユウくんがあんなに近くにいて、手まで握られてるんだよ。そんな状態で、眠れるわけないよーっ!


 どうしよう。ゆっくり寝て休むつもりだったのに、今もまだドキドキして、全然休める気がしなかった。






※ これにて番外編も完結となります。最後まで読んでくださって、ありがとうございました(*´▽`*)

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