あとがき
魔王軍来たる。すでに辺境諸国は陥落し、多くの人々が虐殺されている。
対する人類はすべての騎士、冒険者らに号令をかけ、存亡をかけての一大反攻作戦を開始した。
「俺のエクスカリバーが!」
ぽっきりと折れた剣を手に呆然とする冒険者に、
「ほら」
頭にハチマキを巻いた大男が代わりの剣を投げてよこす。
「大将助かるぜ!」
そして冒険者は再び魔物の群れに斬りこんでいく。
「銀貨40枚!」
「生きて帰れたらな!」
騎士や冒険者の中から選抜した精鋭でもって魔王軍本陣を急襲する作戦だ。敵を陽動する連合軍本隊が潰走する前に決着をつけなければならない。
おびただしい魔物の群れに正面切って、
「ローランド家の誇りをかけて、貴様らをここで討つ」
立派な甲冑を身に纏った騎士が斬りこんでいく。
襲い来る死の魔法、矢。たちまち騎士は負傷するが、
「ヒール!」
すかさず回復魔法がかけられる。
「かたじけない」
「あのぉ、頑張ってください!」
「おう!」
そして再び前線へ。さらに、
「参ります!」
華麗な剣舞をもって美しい青年が加勢する。
青年の剣は舞とともに次々と急所を掻っ切り、敵を屠っていく。
「お見事」
それに大剣を手にした男らが続いて殺到し、堅い守りに突破口を開き、
「いまです! 先生!!」
生じた敵陣の乱れをついてドラゴンスレイヤーを背負った男が、
「地裂崩落拳」
渾身の技を繰り出した。
地面を突いた拳から無数の地割れが走り、それが敵軍奥深くまで伸びて崩落し、多くの魔物を地の底へと落とし込んだ。
『小癪な。ここは我がゆこう』
迎え撃つ魔王軍からは魔王直属四幹部の一角、山のように大きなゴーレムが一行の前に立ちはだかる。が、
「ゴーレム一つ胴水平断ち!」
その胴体をひとりの剣士がまたたく間に両断した。剣の刃より遥かに大きいゴーレムが音を立てて瓦解し、土煙があがる。
「腕は衰えていないようだな。剣聖殿」
「お前の剣と違って、俺の称号は飾りじゃないからな」
先生と剣聖は互いに背をあずけ、三方の敵に備える。
「そういえば新聞読んだぞ。剣聖殿はいまだにお盛んらしいな」
剣聖はたたらを踏んで転びかけたが、
「ああ、俺はいつだって現役さ。悪いが妻を待たせてる。あれがキレる前に片づけるぞ」
なんとか上体を起こして敵陣へ突撃していった。
連合軍の精鋭は奮闘し、敵兵力を削っていく。しかし、
『アニメイデッド』
倒した魔物をネクロマンサーがアンデッドにして操り、すぐさま戦線へと復帰させてしまう。
「どうする?」
「どうしましょう?」
ファイターとメイジが顔を見合わせる中、
「俺に任せろ!」
シーフがなにやら巻物を取りだし、敵ネクロマンサーめがけて投げ、ぶつけた。
するとたちどころにネクロマンサーは封印され、操っていたアンデッドは死体へと還った。と、
「はにゃ~~~~~????」
後方から素っ頓狂な声があがる。三人は首をかしげた。
「気が付いたか……」
「ここは? わたしはいったいどうしたのでしょう?」
ひらひらのドレスを着た女の子が連合軍の救護部隊のベッドで目を覚ました。
「……悪いが問答をしている時間はない……」
女の子を運んできた男はすぐさま天幕を出ていく。
「声がする…… 最速を呼ぶ声が……!」
男は愛馬にまたがり、戦場を駆ける。そう彼は戦士。
「相変わらずだな」
砂煙をあげて疾走する男にユニコーンへ乗った女が追いつき並走する。
「そっちこそ…… 衰えてはいないようだな…… 元チャンピオン!」
「ぬかせ。たまたま勝ったくらいで調子になるなっ」
「偶然で最速はとれねえ…… だが、納得いかないのなら何度でも受けてたとう……! 俺は最速だ!!」
二人は前線と後方とを行き来して、負傷者を運び出していく。
地上戦で劣勢に立つ魔王軍は前線からガーゴイル軍を呼び戻し、空から攻撃を仕掛けてきた。
空から降り注ぐ火や雷、氷の魔法が冒険者の行く手を阻む。
「ふう。オーロラのマントを持っててよかったぜ」
「ですね。まさかオアシスのクエスト:虹の泉が鍵になっていたなんて」
魔法のマントが敵の攻撃から身を守る。
「ですが、このままではジリ貧です」
「つったって、俺たちの武器じゃ反撃できないぜ」
「……あれはなんでしょう?」
指さす先、空を覆いつくすガーゴイルの群れに、白亜の鳥が向かっていく。
「いや、鳥じゃない! ペガサスだ!」
ペガサスにまたがった冒険者は槍でガーゴイルを撃ち落としていく。さらに後ろに乗せた女が魔法で支援する。
「ペガサスなんていったいどこのクエストで手に入るんだ?」
「あとで聞いてみましょう。いまはここのクエストに集中です!」
「そうだな!」
人類は攻勢を強める。魔王はもうすぐそこだ。
――必殺剣 ツキカゲ――
勇者が魔王軍四幹部のひとりを斬った。
『バカな。この白昼に月など……』
「まばゆき太陽にこそ隠れているが月はそこにある。なればこそ、ツキカゲは白日のもとでその真価を発揮する」
『……魔王様、万歳!!』
戦いを見守っていた賢者は微笑む。
「ずいぶんと成長しましたね。王からわずかな支度金を与えられて旅立ったあのころとは大違いです」
「君の導きと祖父が伝えし技があったからこそだ」
またしても魔王軍幹部が討たれた。魔物にも動揺が走る。だが、
『くっ……ここはボクらで足止めするしかない』
大量のスライムが数に頼んで押し寄せてきた。
「ここは私たちが!」
若い冒険者らが押し返す。
「勇者様は先へ」
「できるのか?」
「はい。スライムは散々倒しましたから!」
「かたじけない」
勇者は仲間が切り開いた道を進んでいく。
魔王軍最後の壁。魔王軍四幹部最後のひとり、
『ここは通さぬ』
暗黒宰相が立ちはだかる。これを倒せばあとは魔王が残るのみ。
「おっと、俺たちを忘れちゃいないだろうな」
「君たちは?」
「俺たちは南大陸冒険者四天王!」
駆けつけた最後の仲間たちが暗黒宰相と対峙する。
『五人で四天王とは……クククッ』
「ハッ。ひとりで四幹部名乗ってるてめえには笑われたくないな」
「そうですね」「そうね」「そうじゃな」「(^^;」
五人は勇者のため、人類のために、
「ここは俺たちに任せて、勇者様は先へ」
果敢に暗黒宰相へと挑む。
「勇者よ。いきましょう!」
そして勇者は賢者とともに魔王のもとへ。
彼らの戦いはこれからだ!
ご愛読ありがとうございました。
題されることもない冒険者たちの話 上馬祥 @KamiumaSyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます