第19話「ドラゴンとの交渉」
「獣はダメだ。鳴き声が癇にさわる」
ウェンティさんに水を入れてしゃべってたところ、いきなり現れたドラゴンにあっさりと却下されてしまう。
しかも人間にも共感できてしまう理由だったのであきらめるしかなさそうだ。
「ヘビくらいならかまわないぞ」
「ヘビを食うために育てるのはちょっと無理なのでは?」
疑問を呈すると、
「ならば狩猟にでも行くなり、狩人から直接買うなりするのだな」
そっけない返答を言われる。
どうやらこの点に関してドラゴンは譲歩してくれそうにもない。
「なら、狩りに必要な装備を交換というのはどうでしょうか?」
と提案してみる。
正直、狩猟には興味自体はあった。
素人が軽い気持ちでやるのは命に関わるくらい危険そうなイメージなので、あと回しにしてきたんだけど。
「それなら貴様が持ってくるモノ次第で交換しよう」
とドラゴンは答えた。
「わかりました」
ちょっと安心するとウェンティさんが「よかったね」と言わんばかりに微笑む。
ドラゴンが湖の中に消えていくと彼女は「ふーっ」と息を吐き出す。
「何回見ても迫力がすごくて、ビビっちゃうな」
と彼女はつぶやいてこっちを見る。
「ケージさん、よく普通の態度をとれるよね」
感心するような視線がくすぐったい。
「たしかにドラゴンの姿は迫力がすごいのですけど、人間の姿だと普通に話しやすいかなと思っています」
クールな見た目だからとっつきにくそうに感じるけど、話してみるとそうでもないからな。
もちろん機嫌が悪くない前提なんだろう。
「肝が据わってるよね。あたしはこわくて仕方なかったよ。獅子の群れに囲まれるほうがまだマシってくらいに」
「そんなにですか」
たしかにウェンティさんは緊張しているように見えたけど。
やっぱり俺は「こわいもの知らず」なのかな?
可能性は大いにありそうだ。
魔法が使えないので、魔法に関することだってさっぱりわからないし。
「異世界人って豪胆なのかなぁ」
とウェンティさんがつぶやく。
鈍感なだけじゃないかなと思ったけど、空気を読んで発言はひかえる。
「今度戻ったら、ドラゴンが興味を持ちそうなものを何かとってきます」
と俺は告げた。
「了解。あたしに気を遣わなくてもいいよ。興味本位で来ただけだから」
ウェンティさんはそう言うけど、俺がこっちでちゃんとやっていけそうなのか、心配して見に来てくれたのだろう。
「さすがにそんな失礼なことはできませんよ。王都まで送っていきます」
と申し出ると彼女はちょっと目をみひらく。
「じゃあお言葉に甘えようかな」
断られてたら気まずい思いをしてたので、受け入れてもらえてよかった。
話のネタはもっぱらウェンティさんに提供してもらいながら王都の前まで彼女を送り届け、俺はヌーラの街へと向かう。
「いちいち帰るのが面倒になって来たな」
魔石車の運転は楽しいし、ドラゴンとの取り引きもあるからやむを得ないのだけど。
「いっそのこと魔石車以外の移動手段についても、ドラゴンに相談してみようかな」
これまでのやりとりから推測すると、少なくとも聞く耳は持ってもらえそうだ。
狩猟の装備と移動アイテムのふたつを頼むなら、最低でも二種類のものが必要となるだろう。
今度こっちにやってくるまでにどんなものがいいのか、考えておかないと。
よい異世界生活を~地球より快適なのでのんびり楽しく暮らす~ 相野仁 @AINO-JIN
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