あの別れの場面は本当に胸に迫るものがありました。主人公の目に溢れる涙、そして、言葉少なにそれを堪える王国騎士団のお姉さんの姿……。長きに渡る師弟関係の中で育まれた、言葉では語り尽くせないほどの深い絆が、静かに、しかし確かに断たれていく瞬間でした。剣を交え、共に苦楽を共にした日々が走馬灯のように蘇り、二人の間には、まるで時間が止まってしまったかのような、重く、そして美しい沈黙が流れていました。未熟で才能の無いそれでも剣士としての誇りを胸に、未来へと歩み出す主人公の背中を見送る女剣士の瞳には、寂しさだけでなく、託す想い、そして、わずかながら安堵の色が宿っているようにも見えました。その一瞬一瞬が、まるで映画のワンシーンのように、私の心に深く刻まれ、涙が溢れて止まりませんでした。
凝った世界観にネーミングのセンスがある人の名前や街の名前など、それだけでも凄いと思うのですが、主人公がいきなり解雇され、新たに仕事を探すという部分に近年の社会情勢のような感覚に襲われました。
地の文がメインの描写で異世界ファンタジーでも、純文学に近いような別次元のファンタジーといった新しい切り口です。
主人公が激弱であり、あるアイテムしか複製できない設定、さらに複製にも限度がある部分に自らの生きていく望みをかける心理描写な部分……そのような巧妙な物語展開にひたすら驚きです。
ただ、物語の進行具合が緩やかな部分には色々と意見が分かれそうですが、物語の構成や伏線がしっかりとしているため、読んで損はない内容だと思います。