目録1.謎の男とお茶の秘密

「突然死、ですか。」


そう聞くと力無く頷いた。心なしか顔色も悪くなってきている気がする。

落ち着いてもらおうと白湯を彼の前に置くと礼を言ってから口をつけた。


「最近になって俺の身近な人の不可解な死が多い。調べてみると年齢や性別、職種等にも共通点は見られなかった。」


『自身の知り合いが理由も分からず死んでいく』


彼にはそう見えているのだろう。だって共通している事は自分とかかわりがある事だけなのだから。


(今考える事の出来る謎は2つ)


彼らの死因とそれに繋がる反応を示した彼の異常なまでのお茶への恐怖心。


(まずは死因を考えてみよう。彼の恐怖心の手掛かりもそこから出てくるはずだし)


「全員に共通するのはが貴方のお知り合いだったと言う事だけで死因はバラバラということでしょうか?」


「死因は特定できていない。だが、皆が死ぬ直前にティータイムを過ごしてから亡くなっているらしい。」


申し分ないくらい十分な共通点だ。何故、彼はこれを共通点に入れなかったのだろう?


もしかして彼は容疑者として疑われているって事なのだろうか。ここまでの彼の話だと事件を調べている治安部隊の騎士団から疑われていても可笑しくはない筈。


(いや、疑いを晴らしたいという気持ちで来たんじゃないと思う)


彼を観察していると少し落ち着いたのか顔色が良くなってきた。やっぱり、憔悴はしているけど犯人にされるかもしれないという焦りは感じなかった。


「死ぬ前に皆んなお茶を飲んでいたそうだが調べても全員のお茶から毒物は出てこなかったらしい。」


「では、他の原因で亡くなった可能性が高くなりますね。」


毒でないなら何が原因だろうかと考えているとまだ何か言いたいことがあるのかこちらを伺っている。


「何か事件に繋がることをご存知なのですか?」


「……言って信じてくれるのか?」


しかし彼の言い方や表情には諦めが混ざっているようにも感じる。証言したとしても言っても無駄と思わせるようなものがあったのだろうか。


「それは私が決めますので。でも、貴方が今ふざけて発言しないとは思っています。」


しかし、彼は机を見るように下を向き口を閉ざしてしまった。どうやらここからは根競べになってしまったみたいだ。でも、彼を見ていると妙な引っ掛かりを覚えた。


(彼からは何というか、もっとこう……昔に言って信じてくれなかったのに?感があるというか)


駄目だ。話を聞かないといけないのに彼の先ほどの言動で意識がそちらに行こうとしている。何とか妄想から抜け出そうとしているとぎゅっと結んでいた彼の口がゆっくりと開いていくのが見えた。


(根競べはあっさりと終わったわね。まぁ、彼もきっと1人で抱えるにはしんどかったのかもしれないわ)


そう思いながら彼の言葉に耳を傾けた。


「彼らの死に方が……似ているんだ。俺が幼いころに死んだ両親に……。」


どうやら思った以上のものを抱えていたっぽい。私の妄想もあながち間違いではないのかもしれないと体を少し乗り出して詳細を聞いた。


「ご両親もお茶を死ぬ前に飲んでいたのですか?」


「あぁ、飲んでいた。実はその前から両親はおかしな行動をとるようになっていた。」


(おかしな行動?)


どう言うことだろうと首を捻ると記憶を探るように説明をし出した。


「狂ったようにお茶を欲しがるんだ。お茶を異常な程に欲しがり、最終的には聡明な2人とは思えないほど支離滅裂な言葉を言いながら死んでいった。」


それを幼いころに見たのなら恐怖でしかないだろう。狂ったように欲しがったなら家の中で暴れている可能性もあるし、支離滅裂な言葉を言ったって事は会話だって碌に出来ていなかったかも知れない。


「貴方はお茶を異常に欲しがる両親を見てお茶を飲むと言う行為が出来なくなってしまったと言う認識で間違いありませんか?」


そう聞くと彼は静かに頷いた。


自分の親がお茶を飲んで可笑しくなったのなら自分も飲んだら可笑しくなってしまうのではと考えてしまって飲めなくなってしまったのだろう。


「失礼な事を聞きますが、それはドラックを入れられたお茶だったのでは?」


聞く限りだと依存性が極めて高く、支離滅裂な言葉を言っていたのは幻覚を見ていたからだと思う。考えられる可能性の中ではこれが一番高いだろう。


「ドラックの類は見つからなかった。他の死んでしまった人達も所持していなかった。」


彼の言葉から私と同じ答えに辿り着いたのが伺えた。しかし、所有していないとなると何が彼らをそうさせたのか謎が深まってしまった。


「因みにご両親の件を町の治安部隊はどのように処理されたか伺っても?」


「原因不明の心臓発作による死亡と処理された。皆んなは狂っていく人を見たことがないからあんな処理が出来るんだ。」


また随分と雑に処理されたものだ。これでは彼だってやりきれないだろう。

その証拠に手から血が出そうなくらい自身の手を握りしめていた。


「俺は何度も言ったんだ、さっき君に話したことを。……でも証拠がない子供の言葉なんて誰も信じてはくれなかった!!」


そう言って力を入れすぎて血が出ている手で机を叩いた音と、彼の叫びが響く。


その光景はこの事件が彼自身を大きく蝕むものだと私に理解させるには十分だった。

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新聞記者アーシャの妄想目録 emi @emi_1012

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