アーシャと新聞記者

「君は新聞記者なのか? 」


その言葉に昨日の事を思い出してムッとしてしまった。


「確かに記事を載せて貰えない未熟な記者ではありますけど。」


私の言葉を聞いてわたわたと慌てだした。どうやら言いたかったことは違ったみたいだ。


「いや、俺は真実を語る女性は占い師か探偵かのどちらかと思っていたんだ。気を悪くさせてしまって申し訳ない。」


彼の言い分を聞いてそういう観点になるだろうなとは思った。女性になれば尚更占い師が濃厚な線と彼は思っていた筈。


「新聞記者はアロンドでは大変な人気職だと聞くけど君は人気者になりたくて新聞記者を志願した感じはしない。なった経緯は?」


「物書きになりたかったので。」


彼の顔を見たけどやっぱり信じてくれていない。

私は新聞記者になる当初の目的を話し出した。


「察していると思いますがアロンドの新聞記者は外国の関所を通れる手形があります。それが欲しかったのは確かです。」


貿易が盛んなアロンドでは他の国とは桁違いに色んな情報が飛び交っている。しかし、それが真実かどうかは確証が得られない情報が多かったりするのだ。


確証を得る為に調査が必要だったりするけど、その情報は海を越えてやってきたものでしたなんてのも実は珍しくなく、アロンドの新聞記者限定で外国へも行ける通行手形が発行される。


……それ目当てで来て次の日には事務所へ返却されてるって光景も珍しくないとも付け加えておく。


(確かに最初は通行手形が欲しかったのが本音だった。でもーーーー)


「でも、私の記事を見てもらいたい。その思いがあるのも本当なんです。」


信じてもらえないのなんて承知の上だ。これは私が言いたくて言っているだけなんだから。


「えっと……。君の動機を疑っているんじゃないんだ。きっと本当のことだと思う。」


なら何故そんな微妙な表情を浮かべているのだろうか。


「俺が気になったのはそこじゃない。その……、気を悪くしないで欲しいんだけど、新聞記者は人気職だ。そして競争社会だとも聞いている。」


「あー、なるほど。理解しました。」


彼が聞きたいのは私が今もなお新聞記者であり続けることが出来るか、だと思う。


「確かに競争社会ですし、記事を載せることが出来なかったら来なくていいって言われます。人気職ですから解雇したって翌日には違う人が辞めた人の机で仕事してるなんて日常茶飯事です。」


「へぇ、思ったよりも競争社会なんだ。」


だからこそ、私の現状が理解出来なかったんだろう。


「上司は私がこの国で1番スクープを持ってくる人だと思っています。事件の時は積極的に協力してくれますし、現状は事務所に詳細を提出して席がある状態です。」


「随分と待遇が良いのはその為か。でも、それじゃあ君は新聞記者と言うよりはそこで雇われた探偵という事にならないか?」


その言葉に返す事が出来ず唸ってしまった。


「実質そのような立場です……。でも、自分の体験した事を記事にして提出はしているので記者と名乗らせていただいてます。」


「物書きになりたいだけなら、そこまでして新聞社にいる意味が分からないな。そんなに通行手形がなくなるのは困るのか?」


これは私に国外逃亡する気があるのかと聞いているのだろうか。だとしたら答えは一つだ。


「困りますね。何かあった時の生きるための手段は多い方がいいでしょう?」


「戦争が起きるとでも思っているのか?」


「さぁ?起こすのは私たちではなく国同士ですから。」


こういう質問は返しが困ってしまう。お互いが気まずくなって会話が出来なくなってしまった。


そんな空気を壊したのは気まずくなった状況を作った本人だった。


「無粋な事を聞いてしまってすまなかった。君は俺の恩人なのに……。」


「いや、まだ貴方からのお話も聞いていませんし解決もしていませんけど?」


そう言うと彼は私を見て微笑んだ。心なしか彼の背景に花が咲いているように見えた。


(キラキラしてるなぁ……)


微笑むだけでこの威力なら満面の笑みを浮かべたらどれ程の破壊力なのだろうと思っていると今度は照れたような顔をしていた。


「恥ずかしい話だけどここ最近は寝る事も出来なくて食事も億劫だったんだ。あの空間を作ってくれたおかげで安心して眠れたから久しぶりに体が軽くて頭も冴えてる感じがするんだ。」


彼が朝に言ったことはそう言う意味だったのかと理解した。まぁ、想像の範囲内ではあったけど。


「あんな場所が安息地になるなんて随分と気を張って生活をしていらっしゃるんですね。」


「それが僕の頼みたい事と繋がるんだけど話を聞いてくれるかい?」


やっと本題に入れると思って、そう言えばとずっと思っていた事を口にした。


「それは、貴方がお茶を飲めない事へと繋がります?」


その言葉に彼はヒュッと息を詰まらせていた。

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