村人を捜し出せ

藤泉都理

村人を捜し出せ




 魔王を倒す為のアイテムを教えてくれる、たった一人の村人を捜す為には。

 まず、百本ある緑の楓にあなたは村人ですかと十回問いかけなければならない。

 百本全ての緑の楓に問いかけ終えると、未来の村人が出現する。

 未来の村人に現在の村人がどこにいるかを教えてもらわなければならないのだが、未来の村人は認知症を患っていて教える事ができないので、認知症を治す薬を見つけなければならない。

 認知症を治す薬を見つける為には、黄葉している百本の銀杏すべてに認知症を治す薬を教えてくださいと十回お願いしなければならないのだが、銀杏はまだ黄葉していないので、銀杏を黄葉させる為の薬を見つけなければならない。

 銀杏を黄葉させる為の薬を見つける為には、そこらへんにうじゃうじゃいる自分と同じプレーヤーである勇者二人を誘って、洞窟に行って、蝙蝠を百匹集めて、村に戻って来て、村の薬屋に百匹の蝙蝠を渡して薬をもらうのだが、もらえる薬はひとつだけなので、ここで、戦闘シーンに入り、勝ったプレーヤーが薬をもらい、百本すべての銀杏を黄葉させて、認知症を治す薬を教えてくださいと十回お願いして、認知症を治す薬を教えてもらう。




「で、治す薬じゃなくてさ、治す薬の材料を教えてもらうらしいんだよ。その材料を集める為に国中回ってさ、またこの村に戻って来てさ、薬屋に渡して、薬をもらって、未来の村人に渡すだろ。そして認知症が治った未来の村人がさ、現在の村人の居場所を教えてくれるんだけどさ。無料では教えられないってさ、ランダムで捕まえて来てほしい魔物を指定してくるわけよ。その魔物を倒してさ、捕まえてさ、未来の村人に持って行くだろ。そうしてやっと、現在の村人の居場所を教えてもらえるんだけどさ~。俺、勇者同士の闘いにどうしても勝てなくてさ~」

「なあ」

「なんだ?」

「今おまえがやっているゲームって、魔王を倒すのが最終目的だよな?」

「ああ」

「村人を捜し出すのが最終目的じゃないんだよな?」

「そうだけど」

「村人を捜し出すっていう過程だけで、おまえの人生終わりそうじゃね?」

「まあ、人生、過程が大事って言うしなあ」

「いや、否定しろよ。つーか。別に未来の村人の認知症が治ったら、その未来の村人に魔王を倒すアイテムを教えてもらえばいいんじゃね?」

「おまえ。最低だな」

「何でだよ」

「誰にも見つけられない現在の村人の気持ちを考えてみろよ。早く見つけてって思っているだろうに。あ~。最低だなおまえ」

「二度も言うなよ」

「………最低」

「三度も言ったな」

「………人でなし」

「おーし。分かった。人でなしだからな、俺は。未来永劫、俺の手作り菓子をもう、おまえにやんねえよ」

「………いーもんねー別にー。おまえの菓子だけしかないわけじゃないんもんねー。世界には美味しい菓子であふれているもんねー」

「ああそうですか。じゃあ俺は帰りますよ。見つけ出したら、現在の村人によろしく言っといてくれよ」

「おお、伝えといてやるよ」

「じゃーな」

「じゃーな。ふん。いいもんねー。別に。さあって。現在の村人捜しを頑張らないと………俺は悪くないもんね。現在の村人を軽んじるあいつが悪いんだ………ふん。早く見つけて。見つけたって言いに行ってやる。言いに行って、今度は魔王を倒すから傍で見ていてくれって、言うんだ」




 俺は止めていた手を動かしてコントローラーを操作し始めた。


 待ってろよ現在の村人。

 俺が必ず、見つけてやるからな。











(2023.10.19)



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村人を捜し出せ 藤泉都理 @fujitori

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