第13話 選んだ結末は手のひらの上。

 次に目を開いた時、目の前に広がっていたのは床だった。地下の独房か何かだろうか。空気が重い気がする。状況を理解しようと体を起こそうとしても動かない。そもそもコアを撃たれたのだ。人間でいう心臓を撃たれたのに不思議と生きている。きっといつ死んでもおかしくない。目を開けたこと自体奇跡だ。


「お、なんだまだ息があるにゃな」


「そうみたいですね、言葉を発せるかは難しいでしょうが」


「ぁ・・・ぁ」


 確かに言葉はもう出せない。 目を開けるだけのエネルギーしかないのかもしない。


「まあいいにゃ。久しいにゃ、セイム。お主があの日ここに来た以来にゃね」


 クソほどに似合わない語尾の太った男。トント・ロレスはそう言った。まさに汚職ばかりする政治家のような見てくれで、変な語尾をしているから、いつもの俺なら笑っているだろうが、今は煽りに聞こえて殺意が湧く。体が熱い。全身の血が燃えるようだ。いやもっとだ。信じられないくらいアツイ。


「ぁ!・・・あぁぁ!」


「何か言いたいけどないも言えないとは、落ちたもんだにゃ、そもそも生きていること自体不思議なのにゃが、それはお主が今ここにいる事実を受け入れるにゃ。だけど馬鹿な奴にゃ、一度死んだのにまたのこのこと戻って来るなんて、犬かなにかにゃ?まあいいにゃ、さあ、イルセ―ト。こやつを殺せ」


「ぁ、ぁぁ?」


 会話の中にノイズが走っている気がする。耳を澄ますと、誰かがすすり泣いているような、悲しい声だとわかる。でもこの場には三人だけ・・・気づいた。そうか、イルセ―トの背負っていたものは・・・


 その真実に気付いた時、コアからエネルギーが流れてくる。まるでエネルギーに感情があるように、俺の感情と反応して爆発的に熱くなっていく。


「な、なんだにゃ」


「今すぐに殺す!」


 全身の力を振り絞ってトントの太い足に噛みつく、弾丸が腰部を貫通したが、まだだ。コアが異常なほどエネルギーを蓄え、俺が思っているように動くならばと、コアにエネルギーを集中させて、一気に解き放つイメージを浮かべた。ここまで来てわかった、この天使のコアは思い描いているイメージに合わせてエネルギーを増減させるのだと。そのコアは膨大なエネルギーによって形を失ってもなお、エネルギーが作られ瞬く間に半径10kmを光で覆った。


「これでいいよな、ヤー爺・・・」


光はは地下だけでなく、門の先にある敷地全てを飲み込み消滅した。




 その消滅する光景を見ていた天使がいた。天使は光が収まると、一人爆心地に飛び膝をついて泣いた。


「なんで、こんな無茶するの?どうして?」


 彼女はしばらく泣いた後、何もない空間を大切に抱きしめ、空へ駆けた。まるで彼女にしか見えない物を抱きしめているかのように。


 中央都市にいる人々は当然パニックになった。火事だと思ったら屋敷ごと消滅しているのだから。しかも、住宅街にまで影響が出ており、家が無くなった人、恋人を亡くし嘆く人、天使が攻めてきたと思い荷造りを始める人。統治する人間どころか、兵もわずかしか残っておらず援軍も直ぐには到着しない。階級と身分がが違う人間同士の指示が飛び交い、中央都市は大混乱に陥った。地下も蒸発し、対天使兵器の研究施設も消滅したため人類にとって劣勢になることが確定事項となった。


 月日は流れ、天使により中央都市は当然ながら陥落していた。かつてのように他社の不幸を多数で笑うことはなくなり、代わりに戦争前の雰囲気が戻った。そう終戦したのだ。天使が世界を制圧したが、代表同士の話し合いにより地球で暮らす種に天使が加わったのだ。ここまでが予定通りかのように。


 中央都市は現在とある夫婦によって統治されている。名はムアバとヴィーチェ。そうあの二人だ。あの二人が都市を立て直したのだ。二人は別れたあと、中央都市でまた出会い今度はお互いに嘘を吐かず付き合っていくことを決め、中央都市を良くしていくことに決めた。その時に地上にいる熾天使が命を出したとのうわさがあるが、真実を知る人間は少ない。天使との契約の中に緑を増やすことが入っているため、現在緑地化計画を遂行中なのだとか。


 


月日がどれだけ流れても変わらない様子の二人が居た。今日も野外に置かれたテーブルに紅茶とお茶菓子を置いて。


「ほんと、どこまで見通しての?そろそろ教えて欲しいかな、中央都市を落とせる状況だと、情報を持ち変えれば、お父様が折れることも知っていたみたいだし」


「どこまでかな。わからない、道筋を建てるのは苦労したよ。手紙を誰に渡すか、内容はどうするか、ほんと骨が折れた」


「手紙ね・・・そうだ!あの手紙、返事まだだったね」


「手紙?あ、ああ・・・知ってる。愛してるよ」


「ってなんで知ってるって当たり前か。私たち結婚したもんね。あなたはなぜ・・・いえ、愚問かな」


「いや、答えておくよ、僕は転生者、異世界からの人間だからね。天使とか見て興奮しない男の子はいないさ」


 星が綺麗に見える場所で2体の天使が夜空を見上げていた。ここで悠久の時を二人で過ごすのだ。

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「その手紙、啓示であるか否か。」 雪水湧多 @yukimizuwaita

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