第12話 切っても切れない因縁

 まだ日は上がっていない頃、俺は大きな荷物を背負って中央都市に向かっていた。問題は中央都市3つの出入口。行商人が行きかわないこの時間にどうやって中に侵入するか。基本的に行商人は朝7時までは動くことはない、7時にならないとどの街も目を覚まさないからだ。普通に考えれば遅いし効率が悪いとは思うがこれには訳がある。ヤー爺からの受け売りだが、政府が7時以前に出歩いている人間を捕縛するためらしい。従わなければそのまま前線に連れて行かれるか、入軍することになる。指示も聞かないようないらない人間を間引くためにできたものとのこと。残酷で一見効率を落としそうだが、使える人間が無駄に出兵して戦死することが減り効率をキープできているとのこと。ならばあえて捕まりにいくと考えたが今の自分は半分天使で背中には大きな荷物。確実に怪しまれてしまう。そのため、俺は塀を超えることにした。


ソレス曰く、体がエネルギーで強化されているため人間では考えられない力を発揮できる、だから俺は中央都市から漁村まで走ることができたし今回も大きな荷物を背負っているのに日が昇る前に来ることができた。予想よりも少し早くつけたのが若干気になるものの、今は構わずに塀を見上げた。高さはそれほどあるわけじゃないが、監視カメラに隠されたサプレッサー付マシンガンタレットがある。カメラは避けれても、塀で囲まれた木々に紛れるように塗装されたタレットの位置は目を凝らして見つけるのがやっとだ。全部を把握することは不可能に近い。そこで俺は背負っているバッグを開けて、粘土状のあるものを取り出した。


「使うことなんてないって思ってたのにな」


 そう、ヤー爺が残していったC4爆薬だ。ただ今回は爆発させるのではない、ヤー爺の遺品のライターで火をつけて木々に投げ入れる簡単なお仕事。火炎瓶のような使い方をするだけだ。


 3つほど、等間隔で投げ入れる。粘土状で形を変えやすいC4は木に当たるとぐにゃっと潰れて面積を増す。誤差ではあるが火も広がるためものの数分で木々が焼け、騒いでいるのが聞こえる。


「おい‼火事だ!誰か消防を!」


「誰かが火を放ったに違いない」


気づかれるのは当然だが、俺はここで一つ手を打った。消防が集まり、放水を始めたところで再度C4に火をつけて声のする方に5つほど投げいれる。C4爆薬は火をつけた程度は爆発せず、雷管や爆発等の強い衝撃がなければ爆発することのない安全な爆薬だ。だが、燃やすと有毒ガスを生んでしまう。消防はマスクなんてしてないため中毒症状で倒れる。そして火は勢いを増し、木々の隙間から見える屋敷に引火したのだろう騒がしさが増し、悲鳴が聞こえ始める。


「頃合いかな」


 ここにずっといてはいずれ人が来てしまう。ならばいっそこの炎の中に飛び込んで、さっき火が付いたであろう建物にいる俺をこんな体にしたトント・ロレスを殺すことが懸命だ。


 そうと決まれば脚は地面を蹴っていた。跳躍距離約30m。建物の屋根に乗れるほど十分安全な高さだ。カメラやタレットの配線は燃えてショートしているらしく動いている気配はない。なぜだろう、ここに来て少しだけ身体能力が向上している気がする。これまで自分の能力なんて測ってこなかったため比較対象が感覚のみだが、確実に上がっている気がする。頂点に達した時、燃えている建物を見て一瞬頭痛がした。本当に些細な頭痛。


「あ、くっ」


 脳裏に同じ様な風景が浮かんでくるのと同時に記憶を少しだけ思い出した。


「あいつは、今地下に!」


 建物から降りC4を3つほど建物の壁に貼り付け雷管を使って爆破する。近くで燃え残っていたC4も誘爆し建物が吹き飛んだ。俺は自分の装甲を頼り、その場に立っていた。


「これは天使に勝てないわけだ」


 C4を3つに加え、あらかじめ投げたC4推定8つを食らって多少擦りむいただけだ。一方建物の方は倒壊し、支柱こそ残しているが原型はもうわからない。あちこちから阿鼻叫喚の雨あられが降り注ぎ、良心が痛むがそれ以上に俺は怒っている。この街に、住人に、その街を統治するクソ豚に。


 爆破の影響で、地下に続く階段が丸出しになっていた。丁度良いところを爆破したらしい。残った爆薬を数えながら向かっていると、悲鳴ではない声がした。


「おい、止まれ。そこの半天使。実験で死んだと聞いていたが、のこのこ戻って来るとはな」


 振り返ると、金属でできたランドセルのようなものを背負い、そのランドセルから目を凝らさないとわからないぐらい細い糸が頭を始めとした四肢や関節に繋いでいる兵士が居た。頭にはまるで王冠のような被り物をしているが、細い糸が無数に出ていてどこか狂気を感じる見た目だった。右手には大きな大剣のような武器を持っていて、確実に逃がさないという殺気を感じる。


「あなたはここの兵士か。俺のことを知っているようだったが、どこかで見覚えのある顔だな」


「そうだろうさ、俺はあのヤクト・ルコールの処刑人を務めた男イルセート・ブーンドックだ。あのおかげで出世してコイツのテストパイロットさ。」


「そうかわざわざ自己紹介ありがとう、あなたであんたを殺す理由ができた。あんたとあのクソ豚だけは絶対に許さない」


 俺は背中で隠していたC4に雷管をつけ投げる。イルセートのいるところで手元のスイッチで爆破させる。普通の人なら避けることはできないし、上手く避けても致命傷は避けられないのだが、砲煙が晴れるとそこにイルセートは居なかった。ファンタジーみたいに爆散したのかと思った。


「っ!」


イルセートは俺の背後に居て発砲音から何かを発射したことがわかる。直後鋭い衝撃が背中に走る。背中の天使部分に当たった様で、潰れた弾丸がからんと落ちてくる。


 それはまだいい。問題はあの高速移動だ。爆発より早く裏を取り、発砲ができる能力。振り返るとイルセートが大剣を見て首を傾げていた。大剣をよくよく見ると、リボルバーのようなシリンダーが付いていた。つまりあの大剣は大剣ではなく、銃と剣が一体化したベイオネットとでも言うべきものだった。そして、その素材はオリハルコンだ。直感的に理解した。あれを食らうと難なく切り落とされる。


「ありゃー、やっぱ通常弾じゃ抜けないか。まぁ、でも?そっちの速度よりも速く動けるってのは大きな収穫だな」


「お前も改造されたのか?」


「ん?いいやアンタみたいに体をいじられたわけじゃないさ。ただ人間も生きるために対天使用装備を開発してたってことさ」


 イルセ―トがベイオネットを振りかぶって突撃してくる。横にするとさっきまで居た場所にベイオネットが振られていた。確かに速いが驚くべきことはそこではない。直接地面に触れたわけでは無いのに、振られた場所の地面がへこんでいたことだ。あのベイオネットの能力か、背負っているモノなのか、それともイルセ―ト自身の能力か。最後のは考えたくないな。


「避けるなよ、せっかく狙ってるんだからさ」


「死ねと言われて死ぬ奴がいるか」


「だよな~」


 再度イルセートが突撃してくる。幸いここは建物が倒壊したおかげで動き回れるが、こちらには決定打はC4ぐらいしかないと言えるが、そもそもC4が効くかどうかも怪しい。


「何度も避けんなよ。急いでるんだろ?」


 一度効かないとわかった銃は使用してこない代わりにベイオネットをこれでもかと振り回してくる。こちらも隙を見てC4を投げているが、雷管を爆破させるアクションを挟むためどうしても避けられてしまう。予測して投げてもそこには絶対に足を向けない辺り、こちらの負けは濃厚かもしれない。だがやられる気もない。


 俺は焼けたC4のガスで倒れている兵士を見つけた。武装したまま消火活動を手伝っていたようだった。


「っ!」


 イルセ―トの体が天使並みの強度を持っていないと踏んで兵士の傍に落ちている、ライフルを拾いに行き拾ったら即発砲。銃先5cmでベイオネットを振りかぶっているイルセ―トのみぞおちを弾丸が貫通していく。


「これで・・・」


 ダメージを与えていても力は衰えずベイオネットが振り降ろされる。


「ああああああ!」


 運よくコアは免れたものの、左腕を肩から切り落とされた。案の定オリハルコンに満たない装甲はバターのように斬れてしまった。


 痛みでどうにかなってしまいそうで、右手で切断面を抑えていると。


イルセ―トはベイオネットに何かを込めた。


「やっとおわるな、これでサヨナラってわけにもいかないか。コアは硬くて下手したらこっちが折れちまう」


 そういうとイルセ―トは俺のコアに何かを打ち込んだ。目の前がわからない程激痛がした。通常弾じゃない。おそらくは、オリハルコンの弾丸。叫ぶことなく、俺は不思議なくらい冷静に目を閉じた。

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