第11話 4枚目の手紙
「ち、近いから」
出会ってから二日。短い時間過ごしただけだが、少しだけソレスがわかった気がする。離感がバグっていると言えばいいのだろうか。会話する時はキスができそうなほど近いし、食事という名の水分補給でも水筒は一緒の物を、横になっても抱き枕。汗は掻かないが掻きそうなほど密着して緊張する。
ソレスの目的が本当に気になって来てしまったとのこと、過去の俺はとある作戦を実行したことを聞いた。それは中央都市のトップ、ソレスが「豚」と言ったトント・ロレスに平和協定を申し出ること。俺はソレスと出会い、天使の兵力および技術力の差に驚愕した。二倍三倍の話じゃない、次元が違う理が違う と知りそのような行動に出た。結果、俺は一旦殺され天使に寝返った罰を受け 、体の半分を天使に変えられた。その反動で紛失した記憶を整えると見えることもある。
ヤー爺が、過去に中央市街の門を超えた人がいた。言っていたがあれは俺だったということだ。
そうなれば俺しかできなくて、俺がやらないといけないことは、おのずと決まって来る。そう、もう一度門を超える。どんな手段を使ってでも。
「難しい顔してる。今度は私を置いていかないでよ」
「ああ、そうだな。そういえば俺は記憶喪失なんだが、その、気にしないのか?外見は一緒でも中身は違うようなものなんだぞ?」
「どうして?中身も一緒だよ?記憶がないだけ、魂は変わらない」
「魂?」
俺は首を傾げたが使なら当然だよとソレスが笑う。どうやら俺は人間が造り出した天使ということで本来できることができないらしい。その一つが魂を見る。人が物の本質を見て善し悪しを決めるように、天使も魂を見透かすらしい。
色によってその人の魂の性質が別れ、色のイメージではなく性質に似ているらしい。赤は赤でも明るければ感情的、暗ければ嘘が上手。青でも明るければ自制心が高い、暗ければ周りを一切見ないなど細かく色分けされて見えているらしい。中間色もあるので本当に十人十色なんだそうだ。
ソレス曰く、俺の魂の色は何物にも染まらない黒の特性を持った透明なんだそうだ。揺らぎ続ける灯と例えられるとのこと。火が現象であるように、そこにあるようでない、ないのにある意思、志の塊なんだそうだ。誰かから意思や志をもらい蠟が無くなるまで揺らぎながらも貫き通す。だから初めはクリアカラーとも認識されず誰かに火をもらってからクリアになるし、揺らぐせいで周りから見れば危うい。
この他にも肉体のない魂の声を聴いたり、魂と記憶を持った輪廻転生、オリハルコンの形成、五感の一極化、ができる。また特別な能力を持つ天使もいるらしい。どんな能力かははぐらかされたが、遠い目をするソレスの様子を見るに人では理解できないものか、理解を拒むものだろう。そんなソレスが座りながら洞窟から見える星を見ながら言う。
「私もっと地球を見て回りたいんだ」
「なんで?」
「まだ産まれたばかりでおぎゃあと鳴く18歳。天使からすれば赤ちゃんみたいなものだから、好奇心旺盛!だから色んな所に行って色んなものを見たいの。宇宙で地球の美しさは有名なんだよ!」
「人間は18だとほとんど大人。おぎゃあなんて泣かないよ」
口に手をやって大げさに驚くソレス。
ソレスは人間の形をした天使。人間の卵子に天使が用意した精子を用いてできた受精卵から出来た天使なんだそうだ。天使が造った天使の性質を持った人間。正式な手順を踏み造られたので天使の能力に抜けはない。
俺の他にも天使に付く人も居るようで、実際に人間の女性が出産して産まれているとのこと。別に母体から産ませる必要はないが、卵子を提供した女性がこだわり駄々をこねたとか。こうして人と天使が手を取り合えるという事例を作るために産まれたのが、彼女ソレスだ。
「こんな綺麗なんだね、地球から見る星って」
更にはソレスにはもう一つ特別な能力があるらしいが、教えてはくれなかった。過去の俺が口止めしたらしい。危険な能力なのだろうか。能力と聞くと心躍り憧れるのが男の子だが前述のとおり俺には一切ない。・・・別に悲しくなんてない。
「どうしてこんなに綺麗な空が見えるのに、人間は見ないのだろう」
「それは、きっとあるのが当たり前だから。当たり前だからいつでも見れると考えて見ないと思う。俺からすれば天使の羽が麗だ、でもソレス達にしてみれば当たり前のことで、いちいち自分の羽をみてうっとりしないでしょう?」
「確かに、むしろ今は少し邪魔かも」
ソレスは3対の内真ん中の背中の羽を展開し、立ち上がりその場でくるっと一周すると羽が壁に当たった。触った程度なのだが、気にならないはずがない。普段は糸状にして折り畳み、使う時は編むように展開するから特に気になることもないが、収納及び展開する手間があるそうだ。
こんな風にソレスに気になったことを聞いて授業のように質疑応答を挟む。話が脱線したこともあるが、純粋に会話を楽しんだ。きっと過去の俺でも感じなかったほどの幸福感だったと思う。だからこそ別れる時がつらいと思った。愛しいと思ったからこそ、目の前でいなくなるのが怖かった。自分の目に見えないところへ行ってもいい、だけど幸せになって欲しいと思った。だからこそ、決めた。自分がなすべきと思ったことを。
「あ、何か通った。綺麗だったな~」
「凄いな、多分それ流れ星だよ」
「流れ星?え!今の一瞬で星が移動したの?!凄い!」
「ははっ、そうじゃないよ。星じゃなくて太陽の周りにある小天体っていう小さな石が地球の重力に引っ張られて地球の大気圏に突入したものだよ」
時折は立場が逆転して俺がソレスに教えていた。記憶喪失でも案外知っていることは多いらしい。自分に関することが消えているのかもしれない。
「そうなんだ、実際に星が高速移動しているわけじゃないんだ。でもあんなに綺麗だと星って思っちゃうくらい地球から見る星は綺麗だな~」
「地球では流れ星が消えるまでに3回心の中で願い事を唱えると願いが叶うって迷信があるよ」
「そうなの?じゃあ次に見えた時にやってみよっと」
「願い事は?」
「これからもあなたと一緒に居られますように」
ただただ純粋に嬉しい。嬉しくて恥ずかしくなって、つい顔を逸らしてしまうが、ソレスとの距離が近すぎるせいでうまく隠せない。
「あ~隠した~、ねえねえ見せて見せて」
「嫌だよって、あ、流れ星だ。俺にも見えた」
「え~どこどこ?」
瞼が自然と重たくなってくるまで話した。その後二人数センチ先がお互いの顔ぐらいの距離で横になって瞼を閉じる。
「ねえ、セイム起きてる?」
「起きてるよ、どうしたの?」
「えっとね、好き。大好き」
「俺も、過去の俺がソレスを好きになった理由がわかったよ。俺も好きだ。おやすみ、あるがとう」
ソレスが目を閉じた後、寝顔を数分楽しんで洞窟を後にした。一通の手紙を置いて。ふと空を見ると流星群が見えた。迷信かもしれない、それでも祈った。彼女の元に帰れますようにと。
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