第14話 アリと二年前
「さっきあの人が探している人って、どう考えても二年前の彼、ですよね」
バスに乗っている最中、美波が俺にそう言ってきた。
俺は返答しなかった。俺だって馬鹿じゃない。それくらいわかっている。
二年前の惨劇に関わったある男……公的にはあいつは行方不明になっているはずだ。
「……だとしたら、なんだよ」
俺がそう言うと美波はクスッと小さく嗤う。
「いえ。あの女、馬鹿だなぁ、って。探したって見つからないのに、ねぇ、士郎」
「……見つかったら困るだろう。むしろ」
見つかるはずがないのだ。アイツがこの世界に存在していたという証さえ、もう欠片を残っていないのだから。
しかし……自分でも驚く程に思い出すと嫌な気持ちが溢れてきた。そうか……、あんな男でさえ、探しに来る女がいるっていうのか……。
「大丈夫ですか、士郎」
大丈夫ではないのがわかっているように、少し嬉しそうに聞いてくる美波。
「……俺に構うな。平気だ」
「まぁまぁ。そう怒らないで。大丈夫ですよ。お爺さまと兄様たちが適当に処理してくれます」
「……まさかとは思うが、あの女探偵も行方不明にするんじゃないよな?」
俺は思わずそう聞いてしまった。美波は無表情で俺のことを見つめてくる。
「何か問題でも? 村にとって害を成す余所者なら、いなくなってもらったほうが良いのでは?」
「それは……、だが、まだそうと決まったわけじゃないだろう? それに、あの人は見つからないものを探しているだけだし……」
「……余所者に、慈悲をかけるのですか?」
美波の視線が鋭くなる。俺は思わず視線をそらす。
「違う。違うが……穏便に物事が済むならその方がいいじゃないか」
「穏便に? 馬鹿なこと言わないでください。『餌落とし』なんてことをしようとしているアナタが穏便なんて言葉……反吐が出ます」
と、美波がそう言ったのと同時に、バスが停車した。学校に着いたようだった。
「……とにかく、今はアナタがしなければいけないことに集中してくださいよ。まぁ、もっとも、餌は順調にカゲロウ様と接触してくれているようですが」
そう言われてまたしても気分が落ち込む。佐伯について聞いた時の千影のあの表情……。
千影は、佐伯のことを自分を村ではないどこか別の場所に連れて行ってくれるような素敵な存在だと思っている。
佐伯のことは千影のことをどう思っているかは……あまり考えたくなかった。
「さぁ、降りますよ」
美波はそう言ってスタスタと先に降りていってしまった。俺は重い腰を上げ、バスを降りたのだった。
アリとカゲロウ 味噌わさび @NNMM
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