第31話 IT企業がなぜか名乗りをあげた

 ソンジェは親友ルーカスの頼みであったことと、ミニ・コンサートで聴いたマイケルの歌声にもひかれ、それからも力になってくれそうな知人に会って相談していた。

 しかしグループ脱退の直接の引き金となった自殺未遂のことは、触れるわけにゆかない秘密事項だった。

 アイドルの自殺が相次いでいた。マイケルが所属していたG音楽事務所はまだ自殺者が皆無の珍しい事務所だった。それゆえ、自殺未遂のことは外部に漏らさないことが、マイケルがG音楽事務所を辞める時の交換条件だったのだ。

 それゆえ交渉はいつも難航した。


 しかしあきらめかけていたころ、暗礁に乗り上げていたマイケルの再起は、思わぬところから助け船が入った。

 IT企業が力を貸してくれると云うのだ。

 その新興企業は国家中央情報院の仕事もしていた。デジタル関係のプラットフォームで成功し、最近は業界第1位の有名音楽事務所を買収したばかりだった。

 ただマイケルが脱退したグループが所属する芸能事務所は、マイケルの悪い噂を流し、マイケルひとりを悪者にした。同情を集めてグループ存続を図ったのだ。その噂のせいで、IT企業の経営本部と大手音楽事務所側は対立し、マイケルの大手事務所からの再デビューはなかなか承認されなかった。


「大手音楽事務所から再デビューさせたいところなのだが、悪い噂のせいで、音楽事務所側と折り合いがつかないらしい」

とソンジェはルーカスに言った。


「ただ。方法はあると云うんだ。新しい音楽事務所を立ち上げるという方法だ」


「どうする? 新音楽事務所設立に資金援助はしても良いが、お前の資金援助も必要になる。業界のことを良く知っている人材を集めてくれるそうだが、失敗するリスクの方が高いかもしれない」


「俺がお前に頼んだことだ。資金援助は可能な限り、したいと思う。

 音楽事務所を設立しよう。彼の歌は最高だ。このまま終わらせたくない」


 そのようにして、マイケルは小さな音楽事務所からソロ歌手として再デビューした。





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「シャーマンの末裔」 夢のスターランド  来夢来人 @yumeoribitoginga

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