第19話 旅立ち
雲ひとつない爽やかな朝。
陽の光に照らされて輝く湖から長閑な村へと心地良い風が吹いていた。それはまるで、新たな旅立ちを祝福しているかのようだった。
村から街へと向かう側の入り口の広場には、心地良い長閑な空気とは裏腹に、全ての村人が集まっているかのような喧騒が広がっていた。
アイドルのコンサート前のような熱狂と期待、それでいて一体感のあるその喧騒は、待ち人がいつ来るか分からないにも関わらず破綻せずに秩序を保っている。
しばらくすると待ち人がやってきた。
数日前から村に滞在していた、黄金の瞳を持つ幼くも強い竜王と、この村を幾度も助けてくれた風の女神の巫女とその眷属である可愛らしい猫たちだ。
不思議なことに高まっていた熱狂と喧騒は、待ち人たちの到来により途端に静けさを取り戻していった。
◇
街へと旅立つ日の朝、アルマさんの家を出て村の入り口へと向かっていると、目的の方向から祭りの日かのような騒がしい声が聞こえてきた。
俺は不思議に思いつつもふとある予感が浮かんできたが、意識してそれをなかったことにした。
村の入り口に近付くと周りには村中の人たちが集まっていて、それまで騒がしかったのが嘘かのように何故か静かになっている。
村人の中から村長のダフルが、申し訳なさそうな表情をしながら前へと出てきた。
「おはようございます、アルマ様、ススム様。お騒がせして申し訳ありません。村の皆んなもお二人をお見送りしたいということでして……」
「まあ、こうなるんじゃないかと思ってました。皆んなに内緒で村を出るのも心苦しく思っていたので、こういうのも良いんじゃないかな」
アルマさんは苦笑しながらも、村人たちへと手を振って答えた。
迷惑をかけないように意識して静かにしていたのだろう。手を振るアルマさんに箍が外れて騒がしくなってきた。しかしそれは、村を旅立つ俺たちに向けた暖かい騒がしさだった。
「寒くなる前には、またこの村に戻ってくるつもりだから、またその時はよろしくね。勿論ススムも一緒にね」
「はい」
「是非お越しください。村人一同、お待ちしております」
こうして俺たちは、村人の声援を背にして新たな街へと旅立つことになった。
村が小さくなるまで歩いてから振り返ると、俺の鋭敏な視力では未だに手を振る村人たちが見える。
向こうから見えるかは分からなかったが、俺は感謝の意を込めて大きく手を振って村に別れを告げた。
するとそれを祝福するかのように頭の中に声が響いた。
『実績が解除されました。報酬が与えられます』
俺はスマホを出しながらも、待ってくれていたアルマさんと猫たちと共に街へと歩き始めた。(⚠︎危険ですので、歩きスマホはやめましょう)
—————————
▼《Tips》
〈
合計二十個の実績解除による報酬を得たことに対する
熟練特典アプリ。
使用頻度の高いアプリへトロフィーを授与し、アプリの制限を一部解放する。銅のトロフィーから始まり、銀、金の順にランクが上昇する。
Dragon App -ドラゴンアプリ- 坂条 伸 @PotQue
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