第18話 成長特化

 突如襲来した竜王の脅威が取り払われ、一度は静けさを取り戻した湖畔の村には、今は壊れた家々の復旧に勤しむ人たちの熱気で溢れていた。


 俺とアルマさんは、村の中央に位置していたのにも関わらず、奇跡的に無傷だった村長の家に滞在している。


「やはりススム様はしばらくの間、村から離れた方が良さそうですな」


 難しい顔をした村長がそう切り出した。竜王が村を襲ってきた理由が俺にあるのは、村人たちにも知れ渡っているのだろう。被害者はいなかったとはいえ、倒壊した家は五棟もあり、被害に遭われた人たちには恨まれているのが想像できた。


「そうですよね……。あの、被害にあった人たちに一度謝りたいのですが……」


「はあ、謝る、ですか?」


「え? はい、俺のせいでドラゴンが襲ってきたわけですし」


「あー、そういうことですか。ススム様が気にする必要はありませんよ。家が壊された者たちなど、むしろ喜んでいるくらいですぞ」


 なんでも村長の話によると、この村の竜信仰は俺が思っていたよりも極まっていたようで、竜王に襲われたにも関わらず生きていることが幸運を示しているらしく、家が壊された者たちは喜び、その他の村人たちはそれを羨んでいるらしいのだ。

 復旧についても竜王が壊した家などに関わること自体が名誉なことだと、村人皆んなが率先して手伝っていた。


 俺に対しても竜王同士の闘争の結果、より強い竜王であるということが分かり、村人たちの信仰爆上げに繋がってしまっていた。先ほどの話はその熱が治るまでは村から離れた方が良いという趣旨での話だったようだ。


「な、なるほど。分かりました」


 俺はドン引きしつつもそう答えると、今まで黙って聞いていたアルマさんが話始めた。


「一度街に連れて行く必要があると思っていたから、ちょうど良いかもね。ギルドについてもこの村と街とではやっぱり少し違うから、村のギルドで慣れてからにしたとしても、街だとそこまで意味は無かったかも知れないし——」


 アルマさんの話を聞きながらも、俺は先ほど戦闘が終わってすぐ、アルマさんの怪我の手当てをしたときのことを思いだしていた。


    ◇


 アルマさんの怪我の具合は、出血は止まってはいたが怪我の箇所が多く見ていてとても痛々しかった。

 この世界には怪我を早く治すことができる魔法薬が存在するようだが、最先端技術に相当するらしく大きな街でなければ手に入らない代物なようだ。

 回復魔法も希少なものらしく、使い手は殆どいないのだ。


 アルマさんは自身の保有魔法〝氷華〟の効果の一つである〝氷肌玉骨〟によって、傷が普通より早く治り傷跡も残らないようだが、それで今の痛みが軽減されるわけではない。出来れば早く治してあげたかった。


 今の俺にはその方法に心当たりがあった。

 それは二十個の実績達成により得た、特別な報酬のことだった。


 その特別な報酬がこれだ。



Achievement Trophyアチーブメントトロフィー

 熟練特典 / ALL+1%

 使用頻度の高いアプリへトロフィーを授与し、アプリの制限を一部解放する。



 スマホを確認してみると、いくつかのアプリのアイコンに銅のトロフィーマークが追加されていた。


 トロフィーが追加されたアプリは〈Magic Creatorマジッククリエイター〉と〈Magic Translatorマジックトランスレーター〉の二つのようだ。考えてみれば、この二つは常に使用しているようなものなので、当然といえば当然なのかもしれない。


 制限の一部解放について、それぞれのアプリを確認してみる。

 〈Magic Translatorマジックトランスレーター〉は読唇が可能になったようだ。唇全体の30%を目視できれば、日本語に翻訳した上でARにて字幕表示されるらしい。俺は竜瞳と竜刻眼によって視力がかなり強化されているので、だいぶ離れた位置からでも会話を確認できるようになった。

 〈Magic Creatorマジッククリエイター〉の方は創造できる魔法がもう一つ増えたようだ。たしか、この世界の生物が保有できる魔法は最大で五つだったはず。俺はすでに五つの魔法を所持していた。


 でこれなのだ。そう考えると、今回のアプリ〈Achievement Trophyアチーブメントトロフィー〉のヤバさが際立ってくる。


 しかし、これなら因子さえ手に入れれば回復魔法を創ることができるはずだ。

 何となくだがイメージはできていた。俺自身の保有魔法は戦闘に特化している。俺が回復魔法を使えるようになるよりは、使を創るほうが便利そうだ。アルマさんの猫たちを見ていてそう思った。


 召喚系の魔法創造には大量の因子が必要なようだ。鎮守の森で魔物を探すか、街の近くにあるという〝迷宮ダンジョン〟を探索するのが良いかもしれない。


    ◇


「——ススム、聞いてる?」


 思い出しながら回復魔法について考えていたら、街について話していたアルマさんに問いかけられた。


「はい、街に行く話ですよね? 俺も〝迷宮ダンジョン〟に興味があって、街には行ってみたかったのでちょうど良いと思います」


「そうなの? ススムなら迷宮に出てくる魔物は問題ないとしても、罠とかは危ないからしばらくは私と一緒に潜った方が良いかな」


「ススム様。キヴレントの街の近くには二つの迷宮があります。〝ゾトムの墓標〟と〝マハナク霊脈穴〟です。墓標には機械仕掛けの罠が、霊脈穴には自然の脅威を利用した罠が多いそうです。お二人ともお気をつけください」


 一通り迷宮について三人で話したあと、街へ行く日を決めてからアルマさんの家へと帰った。


 キヴレントの街へとむかうのは二日後になる。道中は徒歩で五日、街からであれば馬車で二日ほどかかるようだ。残念ながら村側から定期的に街に行く馬車はいないらしく、というよりは村人と一緒に街にいくことを回避するためもあり、今回は馬車ではなく徒歩で街へとむかうことになった。



—————————

▼《Tips》



Magic Shieldマジックシールド

 一定以上の衝撃を受け生存できたことに対する実績解除アチーブメントアンロックによる報酬。

 神造物アーティファクトでもあり異能の一部でもあるTranscend Smartphoneトランセンドスマートフォン内にアプリとして付与された。

 魔力式防御盾生成アプリ。

 魔力を消費して衝撃を分散させる特性を持つ魔力盾を生成する。一度に五つまで同時に生成可能。



Magic Evolutionマジックエボリューション

 初めて竜王を討滅して、その魂の一部を吸収したことに対する実績解除アチーブメントアンロックによる報酬。

 神造物アーティファクトでもあり異能の一部でもあるTranscend Smartphoneトランセンドスマートフォン内にアプリとして付与された。

 進化補助アプリ。

 所持者が竜神へと至るための進化を補助する。



Magic Evolveマジックエボルブ

 超越者への進化の階梯を理解したことに対する実績解除アチーブメントアンロックによる報酬。

 神造物アーティファクトでもあり異能の一部でもあるTranscend Smartphoneトランセンドスマートフォン内にアプリとして付与された。

 進化補正アプリ。

 所持者を望み通りの存在へと進化するのを補正する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る