キリトリトラベル番外編
地崎守 晶
オフショット:ナースなつふゆ
「あ~最高! そう、その角度で視線ちょうだーい!
冬壁病院に入院してフユたんにお世話してもらいたいようハァハァ」
「……毎度のことだけど、どうしてそんなに写真撮りたがるワケ? 潜入用≪カバー≫の服でしょ」
ロングスカートのクラシカルメイドスタイルでローアングルからシャッターを連続で切る春咲紅葉を見下ろしながら、冬壁は呆れた声を投げかけた。
「そりゃあ、カワイイうちのフユぴが着ていく服だもん。気合入らないワケないよ!」
舐めるような視線と荒い息で畳に転がりながらレンズを向けてくる年上の女性。
毎度のことながら頭が痛くなってきた冬壁が頭を振ると、姿見の中の自分と目が合う。
艶やかな黒髪は高い位置でボリューミーなツインテールに結われ、白い看護服――やけにスカートが短く、生地も薄い――に体を包んでいる。胸元は相変わらず平坦。自分以外の三人のその部分が揃いも揃って自分より大きいということに、毎度のことながら打ちのめされる。夏樫などは「ちっちゃいほうが冬壁ちゃんのドキドキがよー分かるからおっきくならんといてほしい」などと言って抱き着いてくる。暑苦しいし恥ずかしい。
」
そこから勝手に左胸に手を這わせてくるのは腹立たしいのに妙な気分になるからもっとやめて欲しい――
「あ、今フユちめちゃくちゃかわいい顔した! もっかいやって!」
何かの記者会見かとばかりにフラッシュを浴びせてくる紅葉の言葉で冬壁は我に返った。
緩んで、熱くなっていた顔をしかめ直す。
潜入に当たって変装が必要な時はいつもこうだ。何枚着たか分からないほど、デザインのどこがそんなに違ってくるのか分からないほど衣装をとっかえひっかえしては着せ替え人形にされ、不必要なほど様々なポーズで写真を撮られる。
涎がこぼれそうな顔でカメラを覗く紅葉を冬壁が邪険にしきれないのは、なんだかんだどの世界に行っても並行同位体の「彼女たち」に世話になってきたからだ。
夏樫と離れて行動することも多い冬壁に取って、拠点や衣食住、現地の情報を提供してくれる紅葉たちの存在は大きかった。なにより、どんな見知らぬ世界でも自分のことを知っている相手がいるというのは、思った以上に精神的な支えになった。
そういう感謝を伝えようとしても、紅葉はすぐべたべたと猫可愛がりしてくるので困る。
「フユっち、ピースして~」
「はぁ……、これでいい?」
こっちの気も知らないで呑気にポーズ指定してくる彼女に半ば諦めて、片手で投げやりなピースサインを作る。
「お~よう似合うとるなあ冬壁ちゃん」
遠慮なく襖を開けて入ってきた夏樫が、ナース服の冬壁のキャップのてっぺんから足の先まで眺めてにんまり笑った。紅葉が『ねーねー、こゆきちゃんもナース着てみてよ!
フユぴんとお揃いで』と言って持ってきた黒染めのナース服を着て、髪を二つの大きなシニョンにまとめている。極まれに夏樫が見せる髪型だった。堂々と突き出した胸は冬壁とは対照的に盛り上がってる。
「やっぱり夏樫ちゃんナースも似合う~ あ、今ね、フユたんがめっちゃかわいい顔を」
「何しに来たわけ」
慌てて口を挟む。「ウチにもみせて~」と言われかねない。夏樫のことを考えているときの顔と知れたらたまったものではなかった。
「ふふ、お揃いの衣装着たならやることは一つ、ツーショットや。な、はるもみ」
「うん! さっそく並んで並んで!」
「まだ撮るわけ……?」
赤べこのように頷く紅葉の指示のままに、冬壁は夏樫と見つめあったり腰を抱かれたりと更にポーズを取らされる。夏樫と距離が近くて顔が赤くなる。隠そうにもはるもみのフラッシュは容赦がなかった。
結局のところ、冬壁はこの二人の姉のような、親のような少女の温もりから逃れられない。
「じゃー次は二人で並んで……
そうだ、ハート! 二人でハート作って!手で! アイドルがファンサでやってくれるやつ!」
ヒートアップした紅葉が二人に向かって両手でハートの形の窓を作る。
「お、ええな~やろやろ、冬壁ちゃん♪」
「ハートって……いやよそんなの」
ノリノリで夏樫が差し出してくる、曲げた人差し指と親指。
冬壁のささやかな抗議は、またも春と夏の名を冠する温もりに飲み込まれる。
「ハイ、チーズ!」
「チーズ♪」
「……はい」
夏樫のハートの片割れに冬壁がしぶしぶといった顔で差し出したのは、二本の指をピンと立てた、
「ピース……いや、ハサミ、やな。冬壁ちゃんらしいやないの」
照れ隠しのしかめ面で半分のハートに突き付けたハサミ。ただしそれは彼女達との縁を切ることはない。
それを見透かしてか、夏樫は笑みの色を深め、紅葉はさらにシャッターを下ろしながら鼻血を吹き出した。
キリトリトラベル番外編 地崎守 晶 @kararu11
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