第五十代大統領ジャン・ポール・三木

近藤銀竹

第五十代大統領ジャン・ポール・三木

 2038年、その国で遂に歴代初の日系大統領が生まれた。


 ジャン・ポール・三木。

 正確には、日系人を父とし、フランス系の移民を母とするだけで、彼自身は長じるまで日本の地を踏んだこともない。

 日本のマスコミは、いつもどおり一滴でもルーツがあれば仲間扱いするという癖を出し、選挙中から勝手に応援を始めた。そしていつもどおり「ゴリ押し」と叩かれた。


 彼は複数の顔を持つ。

 辣腕を振るい、一代で自社を大企業へと成長させた、経営者としての顔。

 一方では、寄付や慈善事業を惜しまない、篤志家としての顔。

 軍属の経験もあり、愛国心も申し分ないとの評判だ。

 アジア人のステレオタイプである勤勉さを表に出さず、陽気に振る舞う姿も好感度が高い。

 そんな彼はいつしかスーパーマンになぞらえて「三木マン」というニックネームをつけられていた。

 新冷戦によって疲弊した経済の立て直しや貧困層の救済と撲滅を旗印に選挙運動を繰り広げ、見事過半数の選挙人を手に入れ、大統領へと上り詰めた。


 今日は就任演説。

 彼の登場前から観衆は熱狂していた。


「第五十代大統領……ジャン・ポール・三木!」

「うおおおぉぉぉ!」


 軽快な音楽が始まる。


「ジャン・ポール・三木! ジャン・ポール・三木! ジャン・ポール・三木!(コール)」

「ジャン・ポール、ZOOM! ZOOM!(自動車業界保護推進のアピール)」

「ジャン・ポール! ジャン・ポール! ジャン・ポール! ジャン・ポール! ZOOM! ZOOM! ZOOM! ZOOM! ZOOMZOOMZOOMZOOMZOOMZOOMZOOMZOOM!(自動車業界めっちゃ保護推進)」


 デト○イト周辺、大喜び。

 そして三木は支持者を煽る。


「僕らの国のリーダーは?」


 叫び返す支持者。


「三木マン! 三木マン! 三木三木マン! イエイ!」

「経済も安全保障も?」

「三木マン! 三木マン! 三木三木マン!」


 そこで三木は話題を転換する。


「ハラール! ハラール!」

「ハラール! ハラール!」


 過去に衝突のあった文化への理解を示したのだ。


「ハラール! ハラール!」

「ハラール! ハラール!」

「ハラール! ハラール!」

「ハラール! ハラール!」

「ハラール! ハラール!」

「ハラール! ハラール!」


 もう過去に前例がない。

 さらにヒートアップした支持者は、新たなリーダーの名を連呼する。


「ジャン・ポール、ジャン・ポール、ジャン・ポール、ジャン・ポール、ジャン・ポール!

 ジャン・ポール・三木! ジャン・ポール・三木!」

「ZOOM! ZOOM!(ダメ押しで自動車業界へアピール)」

「ジャン・ポール、ジャン・ポール、ジャン・ポール、ジャン・ポール、ジャン・ポール!

 ジャン・ポール・三木! 三木マンだ!」

「YEAH!」


 お祭り騒ぎは最高潮に達する。


「三木マーン」

「HEY!  HEY! HEY!」

「三木マーン」

「HO! HO! HO!」

「さぁ豚のこえ、さぁ牛の肥、さぁ鶏の肥、多角!(有機栽培)」

「ハッハ!」


 最後に彼は第一次産業の保護と拡大を打ち出した。


 彼のお祭り騒ぎがどんな影響を及ぼすのか、世界はまだ知らない。

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