第40話 妹萌えにハマった理由。

「そういえば、なんでお兄ちゃんって妹物にハマったの?」


「……随分と突然だな」


 いつものようにベッドの上で並んでラノベを読んでいると、美優が思い出したようにそんなことを言いだした。


 あまりにも突然だったので美優に説明を求める視線を向けると、美優は何かを思い出すように視線を上に向けて言葉を続けた。


「前に夏希さんが来たときにさ、昔のお兄ちゃんの本棚はほとんど少年誌だったって言ってたから」


「あー、そのことか」


 以前に突然夏希が俺の部屋に遊びに来た時、美優に色んな妹をしてもらっていることがバレて、その説明のために夏希を俺の部屋に入れたことがあった。


 確かに、その時に夏希がそんなことを言っていた気がする。


「中学一年までは、普通に少年誌の漫画しか見なかったからな。ハマったのは、中学二年からだよ」


「……何かあったの? 中学二年生の時に」


「いや、特に何も」


 何か空気が重くなりそうな雰囲気があったので、俺は変に勘違いされないように食い気味にそんな言葉を口にした。


「本当に?」


「本当に本当。逆に、何も起こらなかったからこそ、アニメにハマったんだと思う」


 多分、現実が妄想や空想の世界などに浸る暇がないほど忙しければ、アニメにハマらなかったのだろう。


 多少の時間の余裕と中高生ならではの妄想はかどる時期。それが重なったから、俺はアニメにハマったのだと思う。


「じゃあ、教えてくれる? お兄ちゃんが妹物にハマったきっかけ」


 それでも、妹物との出会いはそんな惰性のような出会いはしていなくて、運命的な出会いがあったのだ。


 美優が知りたいというのなら、語ろうではないか。俺の人生を変えた妹物との出会いを。


「そうだな、美優には話しておこうか。あれは中学二年生の夏、アニメ業界にはたまに社会現象を起こすほどのアニメが生まれるんだ。当然、未来にそれは受け継がれていく。そんな社会現象を引き起こすアニメの中に、妹物のアニメがあってだな。昔から気になってはいたんだ。ただ、ずっと思春期と葛藤して観ていなかったんだけど、ついに観てしまったんだよ。そこに広がっていたのは、少年誌にはない物語の展開。妹がヒロインという斬新な設定に引き込まれて、どっぷりと浸かって、キャラソンやラジオまで聞きまくった。そして、今でも遺伝子単位で変異が起きてしまった俺は、妹物を探し求めることになったのだ……」


 遠い昔を眺めるように遠くを見ながら、俺の身に起きた運命的な出会いについて語り終えた俺を見て、美優は目をただぱちくりとさせていた。


「え? それだけ?」


「それだけって、俺の人生を変えた妹萌えとの出会いについて語ったのに、そんな反応されるとはこっちがびっくりだぞ」


「いや、もっと何かあったのかなって思ったりしたから」


 美優は不満そうな俺の言葉をかわすようにしながら、歯切れの悪い言葉と共にこちらから視線を逸らした。


「何かって、なんだよ?」


「べつに、確証があったわけじゃないし……その、もしかしたらって思っただけで」


「あれ? いまツンデレ妹が入ってたりする?」


「……知らない」


 美優は俺の返答を受けて、少しだけへそを曲げてしまったように、微かにむくれていた。


 拗ねたようなその姿も何かの妹のように見えるが、ここでまたそのことを口にするのは悪手だろう。


 誤魔化すように口にした、俺の返答があまり良くなかったのかもな。


 妹物にハマった理由。それについて美優にはまだ話していないことがあったりはする。


 妹物との出会いについては嘘偽りない。当時中学二年生だった春斗少年と妹物との出会いはさっき話した通りだ。


 ただ多分当時の俺も気づいていないことがあっただけ。


 というか、今になって俺が妹物にハマった原因が分かった気がした。


 ばあちゃんちに行った時、駄菓子屋の前で座り込む美優を見て、美優が『みゅー』であったことが判明した。


 そう、思い出したのではない。判明したのだ。


 つまり、俺はずっと『みゅー』の面影を忘れていなかったことになる。


 七年も前に一週間だけ遊んだ女の子のことを、高校生になっても忘れていなかったのだ。


それはつまり、何度もその思い出を思い返していたということになる。それが意味することはーー。


いや、それはさすがに物語として出来過ぎだよな。


 俺の妹好きの根幹を作ったのが、俺のことを『お兄ちゃん』と呼ぶ『みゅー』の存在だなんて。


 当時のガキんちょだった俺が、『みゅー』に対して恋心を抱いていたのか、そんなことを覚えてはいない。


 何はともあれすでに時効であり、真相は分からない。


それにこんなこと口に出さなければ、俺の中だけで抱えた疑問として終わるのだ。


 俺が義妹に対してどう思い始めているのか。それと同じように。


「お兄ちゃん?」


 美優は俺が少し黙りこくっていたのが気になったのか、可愛らしく小首を傾げていた。


 当然、言わなけば伝われない想いがあるわけで、言わなくてもよい想いもある。


 少なくとも、それを伝えるのは今ではないだろう。


 何が言いたいかというと……結論、妹は実妹も義妹も可愛い。


 それで終わらせるのが、色んな意味で綺麗だろう。


 そんなことを心の中でそっと思って、俺は小さく笑みを浮かべるのだった。




【あとがき】

 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

 この話を持ってこの物語は一部完結とさせて頂きます!

 

 このあと夏休み編に突入する予定でしたが、ここで一度完結という形を取らせていただこうと思います。


 今後は皆さまにもっと面白いと思って、評価して頂ける作品を作れるよう、精進していこうと思います!


 最後に本作を読んで少しでも良かったと感じてもらえたら、評価(+☆☆☆ボタン)で評価してもらえると嬉しいです!


 今後も私の小説を何卒宜しくお願い致します!m(__)m


  

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クラスで氷姫と呼ばれている同級生が義妹になりました。 荒井竜馬 @saamon_

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