本気だからこそ狭間に生まれる喜びや苦悩。愛し合う二人はその中を共に行く

ピアニストのゆきと画家の大悟はお互いを心から愛し、尊敬し、夢を応援しあっている。人生を芸術と、愛する人に捧げた二人は、理想と現実の間で、喜びや苦悩に揺れる。

まず驚いたのは、入念な下調べを感じさせる描写の数々です。それは、コンテストや曲などの知識的なものだけでなく、ピアニストが理想の音を追い求める様などの、より専門的で個人的なものにまで及んでいます。
特に後者は、知識だけでは完全にはカバーできない、体験的なものが伴っていなければ描け得ないものに感じました。本気の人間の気迫やこだわり、熱意がここにはあります。

自分の中にある理想と、実際にアウトプットできたもの。周りが求めているものと、自分の目指したいもの。
本気で表現をするからこそぶち当たる内外の葛藤が、この作品では様々な角度から丁寧に描かれています。それはきっとプロアマ関係なく、本気で自分や作品や夢といったものと向き合ったことのある方ならば、共感できるものだと思います。

音楽や絵に決まった物差しはありません。その評価は様々な要因で揺れ動きます。また、自己表現としての芸術は、それ自体も様々なものに左右されます。
自他から影響を受ける表現というものは、そういった変化や危うさも孕んでいるものではないかと思います。

だからこそ、二人の愛は相手のことを時に支え、時に傷つけます。
理想を追い求めた二人が、何を最も尊び、光とするのか。
最後まで見届けたいと思います。

※第43話までを読んでのレビューです。

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